10代の緘黙者30人に聞く(英)

2012年10月09日(火曜日)

久々に、場面緘黙症の論文を読んだ感想のようなものを書いてみます。私に学術的な論評はできないので、あくまで感想のようなものです。

今回取り上げる論文は、英国のものです。

Roe, V. (2011). Silent voices: listening to young people with selective mutism. Retrieved from http://www.leeds.ac.uk/educol/documents/203095.pdf

※ この論文は、2011年9月にロンドン大学教育研究所で行われた、英国教育学会の年次大会で発表されています。

■ 概要

10~18歳の緘黙者(一部治った方も含まれています)と、その親30名ずつに質問票を送り、緘黙の経験などを問うています。

著者の Victoria Roe 氏は、英国の緘黙支援団体 SMIRA の Vice-Chair(副委員長?)です。『場面緘黙へのアプローチ』第6章の「学校内で行うインタラクティブ・セラピー」を著しているのも、この方です。

■ 感想のようなもの

◇ なぜこの論文をブログで取り上げるか

なぜこの論文を今回取り上げるかというと、まず第一に、10~18歳という、従来の緘黙関係の論文があまり扱わなかった比較的高い年齢層の緘黙者が調査の対象になっているからです。

もう一つの理由は、当事者や家族といった、私自身と近い立場にある人の声を中心とした構成だからです。こうした論文は珍しいです。また、当事者の話は英語圏でもインターネットや、英国だと最近出た Slipping in and Out of My Two Worlds といった本などで個別的、断片的に読むことができますが、今回の論文は30名といったある程度の数の当事者の話を集め、統一した質問項目への回答というかたちでまとめており、これまた珍しい試みです。






『場面緘黙児の支援』によく出てくる論文

2011年08月30日(火曜日)

このブログでは、ときどき場面緘黙症の論文を取り上げています。私は専門家ではないのですが、自分自身の勉強も兼ねて。

今回の論文はこれです。

Cunningham, C.E., McHolm, A., Boyle, M.H., and Patel, S. (2004). Behavioral and emotional adjustment, family functioning, academic performance, and social relationships in children with selective mutism. Journal of Child Psychology and Psychiatry, 45(8), 1363-1372.

■ 概要

場面緘黙症児52名について、様々なことを調べています。また、緘黙ではない子52名(対照群)の調査も行い、緘黙症児と比較しています。

■ 所感・所見

この論文は、『場面緘黙児への支援』(原題 Helping Your Child With Selective Mutism)でよく引用されているため、今回取り上げました。この本を読むと、序盤の方で (Cunningham, et al., 2004) という表記を見かけることがありますが、それは、この論文からの引用であることを示しています。

今回の論文は研究方法がしっかりしていて、多少の方法上の限界はやはりあるものの、信頼できそうです。

まず、対象群を設け、緘黙症児と比較を行っています。

また、親と教師の双方の視点から、緘黙症児を調べています。緘黙症児は多くの場合学校に限って話せないため、親と教師では評価が異なってくるでしょうから、もっともなことに思えます。

親の養育態度は、リッカート尺度というもので点数化した上で、緘黙症児とそうでない子の親の養育態度を統計的に比較しています。昔の日本の緘黙研究などを見ていると、溺愛、過保護、拒否的といった親の養育態度の特徴が緘黙症児の親に見い出せたというような話を見ることがあるのですが、どういった基準で溺愛等と言っているのかが分からなかったり、また、緘黙でない子との比較も行われていなかったりする場合が多いです。

一つ気になったのは、いじめに関してです。今回の研究では、緘黙症児は、緘黙でない子と比べて特に多くいじめを受けているわけではないという結果が出ています。ただ、これは親と教師による報告です。もしかすると、親や教師は、子どものいじめを必ずしも十分に把握してはいないかもしれません。この研究方法上の限界は、今回の論文にも触れられています。ですが、『場面緘黙児の支援』では、このあたりの細かい話は省略され(無理もないのですが)、単に「緘黙児が他のこどもよりも極端にからかわれたり、いじめられたりしているということはないようです」(25ページ)と書かれているにとどまっています。


場面緘黙症の新三分類

2010年09月28日(火曜日)

このブログでは、ときどき場面緘黙症の論文を取り上げています。私は専門家ではないのですが、自分自身の勉強も兼ねて。

今回の論文はこれです。

Cohan, S.L., Chavira, D.A., Shipon-Blum, E., Hitchcock, C., Roesch, S.C., Stein, M.B. (2008). Refining the classification of children with selective mutism: a latent profile analysis. Journal of clinical child and adolescent psychology, 37(4), 770-784. doi: 10.1080/15374410802359759.

■ 概要

アメリカの研究です。場面緘黙症児130人を様々な側面から評価し、その上で、緘黙症児を分類しています。 anxious-mildly oppositional group(不安-軽度反抗群)、anxious-communication delayed group(不安-コミュニケーション遅滞群)、exclusively anxious group(排他的不安群;問題行動やコミュニケーション遅滞はなく、社会不安のみの群) の三分類です。また、評価結果から、緘黙について考察を行っています。

■ 所感・所見

分類については、その方法が技術的で私には難解でした。潜在プロフィール分析というものにより計量的な方法で分類を行ったことはなんとか分かったのですが。

研究のために集めた場面緘黙症児130人という人数は、不十分なものの、この種の研究としては最大規模であり、特筆すべきです。これは、アメリカに場面緘黙症の支援団体があることが大きいです。この団体が、緘黙の子を持つ多くの保護者に研究への協力を呼びかけたのです。研究の対象となる緘黙症児を集めるのに支援団体の協力を得たという例は、海外ではほかにもあります(日本ではこうした例があるのかどうか知りません)。支援団体が緘黙の研究の一助になり得ることを示しています。

また、場面緘黙症児の反抗的とされる行動についても、新たな科学的根拠を提供し、よく考察しています。

今回の研究で示された三分類自体はまだ一般的でなく、引用されることも少ないのですが、場面緘黙症児130人の評価結果は引用されます。その結果の中には、これまでの調査結果とは相容れないものも含まれています。場面緘黙症にはまだ研究者の間でも見解の一致が見られない論点があり、研究は続きます。