『檻のなかの子』などの著作で知られる Hayden, T.L.(トリイ・ヘイデン)氏は、ノンフィクションだけでなく学術論文も残しているのですが、その中には場面緘黙症に関するものもあります。
特に著名なものは、これです。
Hayden, T.L. (1980). Classification of elective mutism.
Journal of the American Academy of Child Psychiatry, 19, 118-133.
今回は、この論文について取り上げます。私は専門家ではないのですが、自分自身の勉強も兼ねて。なぜこの論文かというと、英語圏においてはよく引用されてきたからです。
■ 概要
場面緘黙症児68人を調べ、場面緘黙症を四つに分類しています。
■ 考察
この論文が世に出たのは、1980年のことです。当時は統計的分析が可能なほど多くのサンプル(場面緘黙症児)を集めた場面緘黙症の研究が英語圏ではありませんでした。そうした時代に、著者は独自の経歴を生かして68人を集めて、分析を試みたのです。
これは当時としては画期的なことでした。英語圏における被引用回数の多さは、この論文の評価を物語っています(2000年以降になっても、よく引用されています)。ただし、厳しい評価も寄せられています。
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このブログでは、場面緘黙症の論文について紹介しています。私は専門家ではなく、自信もないのですが、自分自身の勉強も兼ねて。
今回の論文はこれです。
Wergeland, H. (1979). Elective mutism.
Acta psychiatrica Scandinavica, 59(2), 218-228.
■ 概要
少し昔のものですが、今日でも英語圏ではよく引用されるノルウェーの研究です。
場面緘黙症児11人について、年齢、遺伝的影響、社会的背景、親や兄弟姉妹の性格型、家族的雰囲気、妊娠、出生、発達、症状、初回検査、入院後の治療、退院後の健康状態、等95項目について調査されています。また、フォローアップについても、70項目について調査されています。調査結果は、治療を受けたグループと受けなかったグループの2つのグループに分けて、分析されています。
■ 考察
気づいたことを色々書きます。
◇ 調査方法の限界
これは仕方がないことかもしれませんが、調査方法が雑です(特に、現代の研究水準と比べると)。例えば、場面緘黙症の診断基準がはっきりしません。調査対象の子どもは、1955年から1970年までの間にオスロ大学児童精神科に入院し、退院時診断が場面緘黙症だった子たちですが、統一された診断基準で診断がなされたかどうかも定かではありません。「脳損傷の可能性」(Possible brain damage)がある子も場面緘黙症児として扱われていますが、どうでしょうか。
また、今回の研究は、調査結果から場面緘黙症について一般的な傾向を見出そうとしていますが、母集団が11人と少ないです。このためか、妙な結果も出ています。例えば、子どもが生まれた時、年齢が40歳以上であった父親の割合が多かったので(とはいえ、11人中6人です)、これが場面緘黙症の発症に何か関係があるのではないかとか。また、場面緘黙症の治療を受けて治った子の方が、治らなかった子よりも、後の人生で問題を残しているとか(これに至っては、母集団6人です)。
なお、当時としては優れた研究を、後世の人間が「この研究にはあらが目立つ」と文句をつけるのは簡単なことです(学術論文を査読誌に投稿したことがない人間が同様に文句をつけるのも、簡単なことです)。
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このブログでは、場面緘黙症の論文について紹介しています。私は専門家ではなく、自信もないのですが、自分自身の勉強も兼ねて。
今回の論文はこれです。
Kristensen, H. (2000). Selective mutism and comorbidity with developmental disorder/delay, anxiety disorder, and elimination disorder.
Journal of the American Academy of Child and Adolescent Psychiatry, 39(2), 249-256.
■ 概要
例によって、場面緘黙症児の標本調査です。特に、併存疾患(発達障害/遅滞、不安障害、排泄障害等)の調査に重点が置かれています。
診断基準には米国精神医学会のDSM-IV(精神疾患の診断・統計マニュアル第4版)が採用されていますが、場面緘黙症と発達障害/遅滞との関連を調べるため、場面緘黙症については変更された診断基準が用いられています。具体的に言えば、コミュニケーション障害やアスペルガー障害はDSM-IVは場面緘黙症には含めないのですが、この研究では含めています。
54人の緘黙症児と108人の対照群を調べた結果、発達障害/遅滞[注]が緘黙症児に68.5%(対照群に13.0%)、何らかの不安障害が緘黙症児に74.1%(対照群に7.4%)、排泄障害が緘黙症児に31.5%(対照群に9.3%)認められました。他にも、様々な併存疾患等が調べられています。
これらの結果から、著者は、場面緘黙症は独立した障害というよりはむしろ、様々な潜在的な脆弱性を反映した、不安の一つの症状であると結論付けています。生物学的には、緘黙症児は神経発達の未成熟さのために「日常的なトラウマ」に弱く、そのため新しい場面に対して不安や引っ込み思案というかたちで反応してしまうのではないかと考察されています。
■ 考察
気づいたことを色々書きます。
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このブログでは、場面緘黙症の論文について紹介しています。私は専門家ではなく、自信もないのですが、自分自身の勉強も兼ねて。
今回の論文はこれです。
Dow, S.P., Sonies, B.C., Scheib, D., Moss, S.E., and Leonard, H.L. (1995). Practical guidelines for the assessment and treatment of selective mutism.
Journal of the American Academy of Child and Adolescent Psychiatry, 34(7), 836-46.
■ 概要
場面緘黙症の心理アセスメントと治療のための実務指針の作成を試みたものです。したがって、臨床家向けと言っていいと思います。実務指針ですので、論文とはいささか違うかもしれません。
■ 考察
◇ 場面緘黙症と不安について
今回の論文は、場面緘黙症は小児期の不安障害であるという、比較的最近欧米で広まっている仮説を踏まえたものです。
欧米の緘黙症研究と日本の研究の大きな違いの一つは、ここにあります。日本では伝統的に親の養育態度が緘黙症の原因として強調されることが多いのですが、不安障害という見方は欧米に比べると広まってはいません。
ただ、日本でも、近年、場面緘黙症と不安障害の関わりについて触れる専門家も増えてきています。
『場面緘黙児の心理と指導』の河井芳文氏が研究されていた頃に比べて、日本の専門家の緘黙症に対する理解は変わってきているようです(さすがに、20年ほど経っていますから)。
◇ 心理アセスメントについて
場面緘黙症児の心理アセスメントのための親面接、子どもとの面接、心理検査の実務的な方法について詳しくまとめられています。
ときどき、
場面緘黙症Journal掲示板で、私は場面緘黙症なのでしょうか、どうすれば治るのでしょうかというご質問をいただくのですが、こうした掲示板で行うやりとりに比べれば、臨床家は実に緻密にアセスメントを行うことが分かります。
場面緘黙症Journal掲示板では別に専門家が掲示板に常駐しているわけではなく、こうしたアセスメントは期待できません(どなたも期待されていないでしょうが…)。ただ、当事者の方に、「どう思われますか?」と軽く質問をしてみる、ということはできます。
◇ 治療法について
今回の論文では、場面緘黙症児に用いられる様々な治療法について検討されています。
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