先日、場面緘黙症の本は種類が少なすぎる、等々のコメントをいただきました。
本の種類の多さ少なさについて考えるのは得意ではないのですが、[1] 私なりにいろいろと考えてまとめてみました。
※ ここでは、主に一般向けの本のお話をしています。学術書となると、また話が変わってきます。学術的性格の強い『場面緘黙児の心理と指導』は、ここでは一般向けの本として扱います。研究者以外の一般の人の間でもよく売れているようなので、
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■ 緘黙の本の種類が少ないのも、売れないから?
◇ 需要が少ないから本が出ない?
私は、緘黙の本の種類が少ないのも、本の需要が少ないことが多かれ少なかれ関係しているのではないかと考えています(当たり前と言えば、当たり前ですが)。「緘黙本市場」とでもいいましょうか、その市場の規模が小さく、本があまり売れないのです。このため、採算性の問題から、本を出そうという動きがあまり出てこないのではないかと思うのです。緘黙を取り上げた本を出すとしても、何かの本の章の1つとして緘黙を扱う、というかたちになりやすいものと思います。
◇ 緘黙本への需要は多いのに、供給者側に問題がある場合
しかし、なにしろ富重の言うことですから、予想は外れている可能性もあります。実は緘黙の本に対する需要はとても多いのに、供給者側に何らかの問題があるため(例。研究者がボーッとしている)、本が出版されないのかもしれません。
しかし、もしそうだとしたら、数少ない緘黙の解説書である『
場面緘黙児への支援』や『
場面緘黙児の心理と指導』などは、とてもたくさん売れているはずです。需要はたくさんあるのに他に買う本がないので、売上がその2冊あたりに集中するのではないかということです。 [2]
◇ 実際に緘黙の本はあまり売れていない?
実際に緘黙の本がどの程度売れているのかを正確に確かめるのは、我々一般人には難しいです。一つの指標として Amazon.co.jp ランキングが挙げられるぐらいです。これは、Amazon.co.jp のページにアクセスできる人なら、誰でも確認することができます。
この Amazon.co.jp ランキングだけで全てを判断するのは無理がありますが、少なくともこれを見る限り、緘黙の本は特に売れているとは思えません。発達障害の本などと比べても明らかです。『場面緘黙児への支援』などは順位の変動が激しいので分かりにくいですが。
もしかすると、緘黙の本も、潜在的な需要はあるのかもしれません。本当は必要としている人は多いのに、緘黙の認知度の低さから売れていないのかもしれません。ですが、少なくとも現時点ではあまり売れていなさそうです。
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■ 書店の店頭で見かけない緘黙の本
昨年夏ごろ、私の地元に新しくできた大型書店に行ってきました。もしかしたら場面緘黙症の本も置いてあるかもしれないと思い探してみたら、『
場面緘黙児の心理と指導』を1冊発見。しかし、当時最新の『
場面緘黙児への支援』はありませんでした。今春には『
場面緘黙Q&A』という新しい本が出る予定ですが、この本が店頭に並べられることはあるのでしょうか。
このように、緘黙に関する本を店頭で見かけることはほとんどありません。これはなぜなのでしょうか。緘黙の本を出す人が少ないからでしょうか。社会が緘黙を不当に軽視しているからでしょうか。
私は、これは単に緘黙の本はあまり売れないから、需要が少ないからだろうと見ています。
■ 緘黙本の売上は限定的
緘黙の本の売上を知る手がかりの一つに、「Amazon.co.jp ランキング」があります。Amazon.co.jp のそれぞれの本のページに行くと、「Amazon.co.jp ランキング: 本で○△□位」という箇所があります。
それを見ると、緘黙の本はどれもあまり売れていないことが分かります。自閉症の本に比べても明らかです。[注] しかし、これでも緘黙の本は、Amazon.co.jp ランキングでは高めに出ているだろうと私は見ています。なぜならば、緘黙の本は店頭ではなかなか置いておらず、ネット通販で買う人が多いものと考えられるからです。
書店に行くと、自閉症の本はある程度置いてあるのに緘黙の本を見かけることがほとんどないのは、単なる売上の違いによるものではないかと私は思います。本を店頭に置くにも、色々コストがかかります。そうした中、限られた経営資源を有効に活用するには、できるだけ売れ筋商品を置いた方が良いに決まっています。
「パレートの法則」というと、聞いたことがあるという方も多いでしょう。本で言えば、売上の上位20%が、全体の書籍売上の80%を占めているということです。そうなると、売れ筋商品以外は切り捨ててよいと書店経営者なら考えそうです。
■ 緘黙の本は、店頭販売よりもネット通販に向いている
ところで、最近、マーケティングの世界で「ロングテール」という言葉が話題になったのですが、みなさまご存知でしょうか。
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そういえば、私は大学で経済学を専攻していたのでした。そこで、場面緘黙症について経済学の視点から少し書いてみます。[1]
経済学には「医療経済学」という応用分野があります。[2]
イギリスの Martin Knapp 教授(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス、ロンドン大学精神医学研究所)も医療経済学者の1人で、メンタルヘルスについて医療経済学の視点から数多くの研究論文を発表しています。
代表的なものは、行為障害を持った子が大人になると、そうでない子に比べてどれだけの費用がかかるかとか(Scott, Knapp, Henderson, and Maughan, 2001)、精神医学的介入がどれだけの費用がかかるかとか(Beecham, Knapp, 1992)、そうした研究です。中には、統合失調症の費用(Knapp, 1997)、自閉症の費用(Jarbrink, Knapp, 2001)、などという研究もあります。[3] ですが、場面緘黙症の費用に関する研究は、やはり見つかりませんでした。
■ 場面緘黙症にかかる費用は?
そこで、考えてみました。場面緘黙症の費用は、一体どのように算出できるのでしょうか。以下では、具体的にどういったものを費用として計上できるかについて、経済学の独特の費用概念に基づいてお話しています。また、場面緘黙症は早期介入を行えば費用を最小限に抑えることができる点も指摘しています。ただし、費用は具体的にいくらと計算しているわけではありません。
なお、私は学士(経済学)ですが、医療経済学は詳しくなく、費用の算出方法も分かりません。医療経済学の教科書を参考に(McPake, Kumaranayake, Normand, 2002/2004)、私なりに考えてみることにします。
■ 経済学の費用の概念
経済学の概念は、世間一般で言う費用の概念とは少し違います。会計学上の費用とも違います。とりあえずは、直接的な費用と間接的な費用に分けて説明します。
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