場面緘黙症に関する最も古い研究としては、1877年の Adolf Kussmaul の文献が認められます(村本, 1987)。
1930年代になると、ドイツで初期的な研究が現れ始めます。1950年代の初期にはイギリスでの研究が現れ、1950年代後期と1960年代初期にはアメリカにおいて場面緘黙症についての研究的関心が増加します(一谷, 津田, 西尾, and 岡村, 1973)。
日本においては、1940年に翻訳書が出版された Gilbert-Robin 著『異常児』の中に、「物言はぬ子供」の一つとして「緘黙」が取り上げられます(Robin, 1940)。これが少なくとも私が確認した限り、場面緘黙症を取り上げられた最も古い国内文献です。
わたしの同僚がある日、十歳の児童を恐らく緘黙症であらうからと廻してきた。成程、訊いても答へない。幾度か尋ねても、たまに単語を答へる程度である。家庭では口をきくし、両親の話によると、可成りに陽気であるらしい。学校でも友達とは口をきく、それもたった一人の友達とだけである。
■ 日本初の場面緘黙症研究(1951)
日本における場面緘黙症研究の嚆矢となったのは、1951年の「口をきかない子供」(『児童心理と精神衛生』収録)です(高木, 1951a)。
家庭では口をきいているのに、学校や人前では口をきかない子供というものは意外に多いものである。筆者は最近三ヵ所の小学校で、児童の呈する精神衛生上の問題について調査を行ったが、緘黙児、即ち口をきかない子供の数は第一表の如くであった。
これは、国立国府台病院の高木四郎氏が、1949年から1950年までの一ヵ年余りにわたり、小学校における精神衛生問題の実情に関する調査を実施し、その調査結果の中でも、特に場面緘黙症児についてまとめたものです。この調査の全容は、同年に出版された『学校保健の研究』に収められています(高木, 1951b)。
1952年には、高木氏は「問題児の発生原因論」を発表しますが、この中で「緘黙」について軽く触れられています。Gilbert-Robin の『異常児』についても言及されており、高木氏が同著を読んでいたことが窺われます(高木, 1952)。
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「日本初の緘黙研究?『口をきかない子供』(1951)・前編」の続きです。
■ 緘黙児の数と原因の調査
高木氏は緘黙児の数と原因を調査し、「口をきかない子供」の中で発表しています。[1] もちろんこれも、国内初の調査です(私が調べた限り)。
◇ 調査結果
緘黙児の数は4,203人中41人。原因は、「劣等児」、「精神薄弱」、「親の過度の過保護」などが上位に挙げられています。
◇ 調査方法
調査方法についての詳しい説明は、紙幅の都合からか、省かれています。
この説明は、「口をきかない子」の9ヵ月後に発表された「小学校における精神衛生上の問題について」でなされています。調査の対象は、都会地、地方小都市、農村の代表3小学校。「まず教師にその受持児童のうちから教師の所見によって問題児を選んでもらい、それら一人ひとりの児童についてケーススタディ(事例研究)を行うというやり方によった」とあります。[2]
なお、当時はDSMの診断基準はありませんでした。先行研究も乏しかったでしょうから、高木氏ら独自の基準で緘黙の診断がなされたものと思われます。
◇ 緘黙の原因の調査はアバウト?
私が気になったのは、高木氏の緘黙の原因についての調査です。高木氏は緘黙児1人1人の原因を事例研究を通じて判断したようですが、私は、高木氏らは緘黙児の原因をわりとアバウトに判断していたのではないかと思うのです。
高木氏が紹介している緘黙児の事例の中には、実際に甘やかしの事実を確認していないにもかかわらず、「甘えた口調が認められる」「虚弱体質であった」といったことを根拠に、「親が甘やかして来たということは十分考えられることである」としているものがあります。
とはいえ、後の日本の研究者も、緘黙の原因としてだいたい高木氏と同じようなものを挙げており、[3] 高木氏の研究を追認したようなかたちになっています。
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昨日公開した記事
「日本初の緘黙研究?「口をきかない子供」(1951)・前編」ですが、少し書き直しました。
しっかり調べて書いたつもりだったのに、調べ漏れがあったことに気づいたからでした。
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ついでに、上の記事でも取り上げたロバン氏の『異常児』という本についてお話します。
高木氏の「口をきかない子」のさらに11年前、1940年(昭和15年)に、ジルベール・ロバン著、吉倉範光訳『異常児』という本が出版されました。
旧仮名遣いと旧字体が満載の相当古い本ですが、この本の中で、緘黙に関する記述があります。
↓ 旧仮名遣いと旧字体は現代風に変えています。
わたしの同僚がある日、十歳の児童を恐らく緘黙症であろうからと廻してきた。成程、訊いても答えない。幾度か尋ねても、たまに単語を答える程度である。家庭では口をきくし、両親の話によると、可成りに陽気であるらしい。学校でも友達とは口をきく、それもたった一人の友達とだけである。[注]
ただし、事例として軽く取り上げられているだけです。
私が見た限りでは、国内初の緘黙研究文献は高木氏の「口をきかない子」(1951)です。しかし、それより以前にも、翻訳書というかたちで緘黙が日本で紹介されていたようです。
ロバン氏の邦訳書よりも古いもので、緘黙を取り上げた日本の学術文献は今のところ知りません。そういうわけで、
「緘黙年表」にロバン氏の『異常児』を加えておきました。
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◇
「日本初の緘黙研究?「口をきかない子供」(1951)・前編」[注] ジルベール・ロバン著、吉倉範光訳『異常児』、白水社、1940年、378ページ。
日本における緘黙研究の起源をたどろうと、いろいろ調べていました。
私が確認した限り、日本で最も古い緘黙研究文献は、国立国府台病院児童部(当時)の高木四郎氏が著した「口をきかない子供」(1951)です。[1] 高木氏自身も、後に「これを取り上げたのは、わが国でもおそらくわたしが最初であると思うが」と述べています。[2]
今回は、この文献についてお話します。
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■ 「口をきかない子供」の構成
「口をきかない子供」の構成は、以下のようにまとめることができます。
○ 緘黙児の定義
○ 緘黙児の数
○ 緘黙の原因
○ 筆者が経験した緘黙児の事例4例
○ 結び
わずか4ページと4分の1の分量ですが、緘黙児の数や原因、事例にまで踏み込んでいます。国内初の研究文献とは思えない充実した内容です。
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