電話でロボットと会話する取り組み(英国)

2017年09月05日(火曜日)

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緘黙児者にとって、ロボットは人より話しやすい?


緘黙症(かんもくしょう)という、家庭の外など特定の環境で話せなくなる症例の子どもも、ロボットに対してであればどこでも積極的に会話をするようになります。ある子どものご両親は、「うちの子がこんなに楽しそうに話しているのを初めて見た」と涙を流して喜んでいました。

日本のロボット工学の第一人者である大阪大学の石黒浩教授(栄誉教授)は、インタビュー記事の中でこう語ります(石黒, 2017, p. 143)。

緘黙児者とロボットの会話について、学術的検証がどこまで進んでいるかは、不勉強なもので知りません。

ただ、ロボットと会話する取り組みについては、イギリスの緘黙治療マニュアル The selective mutism resource manual (第2版)でも示されています(Johnson and Wingtgens, 2016)。この本はイギリスの緘黙支援では定番で、今年出版されたイギリスの本の邦訳『場面緘黙支援の最前線』でも、『場面緘黙リソースマニュアル』という訳で繰り返し登場します。

そのロボットと会話する取り組みは、電話によるものです。イギリスには音声認識ソフトを使った電話案内があり、該当する電話番号にかけると、人間ではなくロボットが出るそうです。話しかけるとロボットが音声を認識し、回答をします。具体例として TrainTracker™ という、列車の運行情報の問い合わせサービスが紹介されています。

これは、電話を使った取り組みの一つとして位置づけられています。スモールステップで人と電話で会話できるようにして、最後は直接人と会話ができるように持って行く取り組みです。その中の一段階として、このロボットとの会話があります。本格的に電話で人と話をする前に、ロボットとの会話を挟むわけです(ただし、ロボットではなく留守番電話を使うなど、別の電話の方法もあります)。


ロボとの会話、緘黙支援で生かすことはできないか


このようなロボットが電話に出るサービス、日本にもあれば緘黙支援に生かせそうですが、果たして日本にはあるのでしょうか。私は知らないのですが、何しろ私は世間知らずなもので。

電話をかけると機械音声が出るというサービスは、私も何度も経験があります。ただ、それは音声認識ソフトではありません。「……の方は1を、……の方は2を押してください」というように、電話のボタンを押してこちらの意思を伝えるものです(これのおかげで、電話の会話が苦手な私は助かってはいます。緘黙児者も、これなら家から電話できるでしょう)。

日本でロボットが出る電話の存在は私は知らないのですが、人間の音声を認識して会話できるアプリは身近にあります。例えば、Siri というアプリは有名です。また、人間と会話ができるロボットも発売されています。最近はAI(人工知能)の活用が進展していることもあり、ロボットと会話できる機会はこれから少し増えていくかもしれません。会話とはやや違うかもしれませんが、AI を搭載した「スマートスピーカー」は、今話題でもあります。

こういったものを緘黙支援で役立てることはできないだろうかと思います。



米国の最前線「集中プログラム」10~14歳向けも登場

2017年07月03日(月曜日)

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アメリカでは、緘黙児への集中プログラムが盛ん


場面緘黙支援の最前線』は、イギリスの本です。アメリカの最前線は、集中プログラムを抜きに語ることはできません。緘黙児にとって安全な環境の模擬教室を作り、 スケジュールも学校に似せて、そこで発話を促す、グループ形式の行動療法プログラムです。夏休みなどに5日間(あるいは1日)、10名ほどの緘黙児を集めて行ないます。合わせて、親向けの講習会も行ないます。

集中プログラムは、ニューヨークの Child Mind Institute による Brave Buddies で始まりました。

↓ Child Mind Institute へのリンクです。
◇ Brave Buddies Program (新しいウィンドウで開く

このプログラムは近年、アメリカで広がりを見せています。私が確認しただけでも、Brave Buddies に影響された集中プログラムがこれだけ行なわれてきました(順不同)。

○ Selective Mutism Adventure Camp(オークブルック)
○ Boston University Brave Buddies Camp(ボストン)
○ Confident Kids Camp(アナーバー)
○ Camp Courage(ニューヨーク)
○ Mighty Mouth Kids(ニューヨーク)
○ Brave Bunch(フロリダ)
○ Resilience Camp(レイトン)

近年のアメリカの専門的な本では、集中プログラムの解説が載るようになってきています(Kotrba, 2015; Mac, 2015)。また、ABC News や The New York TimesThe Wall Street Journal など、メディアでも取り上げられています(記事末尾「関連記事・関連リンク」をご覧ください)。近年のアメリカではこのように緘黙児への集中プログラムが大きな潮流です。もっとも、この集中プログラムの有効性がどれほど実証されているかは、私はよく知りません。

ただ、これらのプログラムは、低年齢の緘黙児を対象としたものでした。例えば、ニューヨークの Brave Buddies の場合、3歳から8歳までが対象です。

10~14歳向けプログラム WeSpeak が登場


そこで、より年齢が上の緘黙児を対象とした集中プログラムが最近登場しました。"WeSpeak" というもので、対象年齢は10歳から14歳までです。7月24日から28日までの5日間と、12月26日から29日までの4日間、行なわれます。このプログラムを開発した人物は、緘黙児への集中プログラムを開発した Steven Kurtz 博士です。

↓ WeSpeak の説明ページ。Steven Kurtz 博士が創設した Kurtz Psychology Consulting PC へのリンク。
◇ WeSpeak | Kurtz Psychology Consulting PC (新しいウィンドウで開く

私はつい先日この WeSpeak を知ったばかりなのですが、これがいつから行なわれていたものかは、はっきり分かりません。予備的な実施などを別とすればおそらく今回が初めてか、そうでなければ比較的最近始まったのではないかと思います。ウェブサイトのアーカイブ閲覧サービス Wayback Machine によると、2016年6月時点では、先ほどの WeSpeak の紹介ページはありませんでした。2017年4月には、サンフランシスコで行なわれた Anxiety and Depression Conference という会議で、このプログラムをテーマとしたワークショップが開かれています。

↓ そのワークショップの概要。
◇ WeSpeak: A Novel Treatment to Address the Under-Addressed Needs of Older Kids With Selective Mutism (新しいウィンドウで開く

低年齢の子ども向けの集中プログラムとの具体的な違いはよく分からないのですが、上のワークショップのページでは、「年齢が上の子どものより高度な発達、認知、社交スキルに適応したものである」(is adapted to the more advanced development, cognition, and social skills of older children)と書かれてあります。

さらなる発展を遂げる集中プログラム


より上の年齢層のプログラムが開発されたことから、緘黙児への集中プログラムはさらなる発展を遂げたと言えます。集中プログラムの当否は専門家ではない私には判断できませんが、アメリカの緘黙支援では大きな潮流であり、注目すべきだろうと思います。

余談・別の集中プログラム


なお、アメリカの緘黙支援では Steven Kurtz 博士らのグループと双璧をなす(と私が見ている)緘黙・不安・関連障害治療センター SMart Center が、これとは別の集中プログラム CommuniCamp を始めています。その宣伝のしようから、なかなか力を入れているものと見られます。

↓ SMart Center ホームページへのリンク。
◇ CommuniCamp – Selective Mutism Anxiety Research & Treatment Center | SMart Center (新しいウィンドウで開く

こちらの集中プログラムは、Social Communication Anxiety Treatment (S-CAT:かんもくネット資料で「社会的コミュニケーション不安治療」と訳されているもの)という SMart Center 独自の考え方に基づいているようです。ですが、グループ形式で行なったり、親向けの講習会を行なったりと、Steven Kurtz 博士らのグループによる集中プログラムと共通点もいくつかあります。

Steven Kurtz 博士らの集中プログラムと、CommuniCamp の関係はよく分からないのですが、どちらにしろ、アメリカの緘黙支援では「集中」(intensive)が近年の重要なキーワードのようです。

[追記(2017年7月4日)]

余談の箇所で、一部内容を削除しました。





「一般化」--緘黙は自分だけじゃない

2017年06月19日(月曜日)

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「わたしだけじゃないんだ」


そうなんだ (ほっ) わたしだけじゃないんだ

どうして声が出ないの?-マンガでわかる場面緘黙-』の一場面です。場面緘黙症の架空の小学生「なっちゃん」が、「子どものころ話せなかった人はたくさんいるんだよ」等々と教えられ、ほっとします(はやしみこ, 2013, pp.16-17)。

私はこれを読み、正直なところ「なっちゃん、もっと驚かないの?」と感じました。子どもの頃に話せなかった人が自分だけではなかったという事実は、私が大人の頃に初めて知ったとき、天地がひっくり返るくらいの衝撃だったからです。

ですが、よくよく考えてみると、なっちゃんの反応はもっとものように思えてきました。なっちゃんはまだ小学生です。絵本『なっちゃんの声』では1年生という設定で、『どうして声が出ないの?』でもそれと同じか、あまり変わらない年齢設定とみられます。

つまり、なっちゃんは緘黙がそこまで長期化していません。その分、緘黙に対する特別な感情のようなものは、そこまで強くはなってないのかもしれません。一方私の場合、学校などで話せない期間が10年ほど続いたため、そのことに対する思い入れが強くなりすぎてしまったのでしょう。ですが、他にも理由があるのかもしれません。


一般化


緘黙は自分だけではないという気付きについては、以前お話したイスラエルの本の中に、興味深い指摘があります。十代の緘黙児者への心理教育に関する記述の一部です(Perednik, 2017, p.173)。

一般化:十代の緘黙児者は一般に、自分が他の人と違っていて、能力に欠けると感じている。--結局のところ、彼ら彼女らは、社会的コミュニケーションを図るための基本的ツールを特定の状況で身につけてこなかったのだ。自分たちは一人ではなく、多くの人が緘黙に苦しみ、そして効果的な治療法があることを理解することは、彼ら彼女ら(とその親)にとって大きな安心になる。

Normalization: Teenagers with SM usually feel different and inadequate - after all, they have not mastered the basic tool of social communication in certain settings. It comes as a huge relief to them (and to their parents) to understand that they are not alone, that many people suffer from SM, and that it has effective treatments.

この本の著者は、緘黙が自分だけでない(我が子だけでない)と知ることを「一般化」(normalization)と呼んでいます。「一般化」(normalization)は専門用語だろうかと思って調べたところ、以前もお話した「解決志向アプローチ」にこの用語があることを知りました。ここからとったのでしょうか。

私がなるほどと思ったのは、「十代の緘黙児者は、自分が他の人と違っていて……と感じている」という部分です。十代ともなると、自分と他人の違いに敏感になってしまうものだろうと思います。そうした年齢層の人にとっては、話せないのは自分だけでないことを知ることは大きいかもしれません。

なっちゃんがあの場面で驚かなかったのは、もしかしたらなっちゃんは年齢的に、他人との違いをあまり強く意識したことがなかったことも理由の一つかもしれません。もしなっちゃんの緘黙が思春期まで続き、そのときに初めて話せないのは自分だけでなかったと知ったら、なっちゃんの反応は変わったかもしれないと思います。

色々と書きましたが、話せないのは自分だけでないことを本人に知らせるべきかは、緘黙という言葉を知らせるべきかも含めて、よく考えなければならない問題だろうと思います。