多くの人と一斉に発話する

2017年04月24日(月曜日)

アイキャッチ画像。

『放課後カルテ』緘黙編のクライマックス


医療漫画『放課後カルテ』第8巻と第9巻では、場面緘黙症が巧みに描かれています。緘黙がある小学1年生の真愛(まい)ちゃんに、牧野という小児科医の養護教諭が支援を行うストーリーです。

ストーリーは、校内で行なわれる音楽会が迫った時期です。1年生は合唱(コーラス)で『あおいそらにえをかこう』を歌うことになっています。この音楽会で、学校で話せない真愛ちゃんがどうなるかが、話のクライマックスです。

↓ 「講談社コミックプラス」へのリンクです。
※ そのクライマックスが描かれる第9巻。試し読みできます (新しいウィンドウで開く

私は音楽に疎いのですが、真愛ちゃんが歌ったのは厳密には斉唱(ユニゾン)だった可能性もあると思います。複数の人が、同時に同じ旋律を歌うのです。一方、合唱(コーラス)も、やはり複数の人が同時に歌うものですが、歌う旋律は異なります。小学1年生には斉唱(ユニゾン)の方が易しいからということで、そちらが選ばれることは十分に考えられます。


皆で一斉に発話する方が易しい?英国の緘黙治療マニュアルより


ところで、先日お話したイギリスの緘黙治療マニュアル(第2版)には、unison という言葉が何度も登場します(Johnson and Wingtgens, 2016)。といっても、英語の unison は、必ずしも斉唱のことを意味するわけではありません。「一斉に言う」とか、「一致した行動をとる」といった場合にも、in unison という表現を用いることがあるようです。

例えば、以下は470ページの記述です。

緘黙児が周りの人と一斉に動いたり、歌ったり、または話したりといったことを伴う、たくさんの活動を含めましょう。

Include plenty of activities which involve children moving, singing or talking in unison.

なぜこのように一斉にすることがすすめられるのでしょうか。この本の前後の文脈などから判断するに、どうやら多くの人と活動をする場合、発話などは一斉にする方が緘黙児者にとってはしやすいということのようです。易しい課題から始まり、スモールステップで不安に暴露するのが、この本が示す治療法です。

確かに多くの人と一斉にすると目立ちません。また、そうした場面で緘黙児者が声を出しても、周りの声にかき消されてしまい、誰かに聞こえることもそうないでしょう。

もちろん、そちらの方が易しそうというだけで、それもできない緘黙児者もたくさんいるだろうと思います。また、声が出せたとしても、小声が出たとか、口ぱくができたとかといった場合がほとんどのような気がします。

『放課後カルテ』で音楽会の斉唱が描かれたのは、もしかしたらこのあたりのことも計算に入っていたのかもしれません。もしそうだとしたら、作者の日生マユさんや担当編集者の慧眼には驚かされます。もっとも、漫画で描かれたのは斉唱ではなくて、本当に合唱だったのかもしれませんが……(上の試し読みには「合唱」と書かれてあります)。


書籍リンク(Amazon.co.jp)


放課後カルテ(8) (BE LOVE KC)
日生 マユ
講談社 (2015-02-13)


The Selective Mutism Resource Manual: 2nd Edition
Maggie Johnson Alison Wintgens
Routledge


文献


◇ Johnson, M., and Wingtgens, A. (2016). The selective mutism resource manual (2nd ed.). London: Speechmark Publishing.

緘黙児が口頭で答えやすい質問(症状が軽い場合)

2017年02月01日(水曜日)

アイキャッチ画像。

選択型の質問


「あなたはうどん派?そば派?」

この二択の質問方法、場面緘黙症の人(主に子ども)に対する質問の仕方として、英語圏で最近よく見ると感じています(例えば、Johson and Wintgens, 2016; Kotrba, 2015; Mac, 2015; Kurtz Psychology Consulting PC, n.d.)。

これは、緘黙児が発話というかたちで答えやすい質問とされます。質問内容は「あなたは右利きですか?それとも左利きですか?」でもいいですし、何でもよいです。

北米では、親子相互交流療法(PCIT)という心理療法を緘黙児に適用する動きが広がっているのですが、その技法の一部としてこの質問方法が紹介されることが多いです。北米では、この質問方法は forced choice question(s) と呼ばれています。

一方、イギリスのマニュアル The Selective Mutism Resource Manual(第2版)では、親子相互交流療法とはまた違った緘黙児への治療方法が体系的に示されているのですが、その中でも、この質問方法が紹介されています。このイギリスの本では、X or Y question(s) という呼び方です。

治療場面でのみ使われる質問方法というわけでもないようです。例えば、後にご紹介する親向けの動画でも、この方法が取り上げられています。


併せて、次のことに注意する


この質問方法に対する注意事項として、よく次のようなことが挙げられます。本などによって多少書いてあることが違うのですが、大体共通しています。

緘黙児が答えるまで5秒待つ


緘黙児が答えるまで、少なくとも5秒は待つこととされます。それでも答えなければ、問いを繰り返します。


緘黙児の代わりに他の人に答えさせない、緘黙児の心を読み取らない


緘黙児本人に答えさせます。


「はい/いいえ」型の質問は避ける


はい/いいえ型の質問(英語だと Yes/No question(s))は、緘黙児がうなづいたり(はい)首を横に振ったり(いいえ)して答えるかもしれません。こうなると発話につながらないため、避けるべきとされることがあります。

例えば、「君は右利き?」と聞くと、はい/いいえ型の質問になってしまいます。ですから、そうではなくて、「君は右利き?それとも左利き?」と聞くわけです。

Charli’s Choices新しいウィンドウで開く)というアメリカの緘黙の絵本では、絵を描くために好きなマーカーの色を、緘黙児に二択で選ばせる場面があります。赤のマーカーと青のマーカーを手にとって「赤?青?」と聞くわけですが、その緘黙児は声を出さずに、どちらのマーカーかを「指差し」で答えました。それに対して、声に出して答えるよう緘黙児に聞き返す場面が描かれています。


緘黙児が答えたら答えを繰り返して言う、褒める


例えば、緘黙児に「○○ちゃんは、うどん派?そば派?」と聞いて「うどん派」と答えたとき、「そうか、うどん派かあ」というように、答えを繰り返すとよいとされることがあります。

また、褒めるとよいともされます。単に「ありがとう」と褒めるのではなく、「教えてくれてありがとう」というように、褒める点を具体的に指摘することが推奨されることもあります(これを labeled praise と呼びます)。ただし、大勢の人の前で褒めたり、大仰に褒めたりするのは不適切とされます。

これらは、緘黙児の発話行動を強化する効果があると考えられているようです。


発展:オープンエンド型の質問


こうして緘黙児が質問に答えられるようになると、オープンエンド型の質問に切り替えてゆきます。例えば、「好きな食べ物は何?」とか「香川県はうどん県を名乗ってるけど、どう思う?」など、答えが予め選択肢というかたちで用意されていないものです。これは緘黙児にとって、難易度が高くなります。


悪循環を断ち切るために


以上のお話の背景には、次のような悪循環があるという仮説があります。

話しかけられる

黙る

不安が減る

最初に戻る

これでは、緘黙行動が強化されてしまいます。これを negative reinforcement(負の強化)と呼びます。以前、緘黙児は何回答える機会を逸している? (新しいウィンドウで開く)という記事の中でお話しましたが、緘黙児はこうしたことを何度も繰り返しています。

この悪循環を断ち切るために、上のような緘黙児にとって答えやすい質問方法で、発話を促そうということです。


素朴な疑問:「発話を強制してはならない」「非言語コミュニケーションを大事に」と矛盾するかどうか


ここまでお読みになって、疑問に感じた方がいらっしゃるかもしれません。緘黙児に発話を強制しては逆効果ではないかとか、緘黙児にはうなずきや指差しなど非言語コミュニケーションを大切にするべきではないかということです。

これは専門家ではない私なりの解釈なのですが、これまでお話してきたことは、緘黙症状が重くない場合を前提としているのではないかと思います。親子相互交流療法(PCIT)の緘黙への適用にしても、イギリスのマニュアルにしても、非言語コミュニケーションを認めることなどを、その前の段階として行なっています(ここのところが十分説明されないことがあるので分かりにくいのですが)。

緘黙症状が比較的重い場合は、まず非言語コミュニケーションから始める。そして、それができるようになれば、今回お話したような緘黙児にとって答えやすい質問方法を盛り込むなどして、発話行動をとらせていく。そういうことだろうと思います。

※ もちろん、今回お話しした質問方法も、強引なやり方でしてはいけません!


動画


カナダの動画


英語動画ですが、以上のことがうまくまとまったものがあるのでご紹介します。カナダの AnxietyBC という NPO が一般向けに作ったものです。特に、親向けの内容と思われます。この動画では、緘黙児に選択型の質問をする前に、ウォーミングアップを挟んでいます。

↓ YouTube へのリンクです。2分55秒あたりからご覧になるとよいと思います。今回お話した選択型の質問は、5分36秒あたりから登場。
◇ Understanding and Managing Selective Mutism (新しいウィンドウで開く


おまけ・緘黙RPGより二択質問の動画


あと、おまけですが、現在更新作業中の「緘黙RPG」ダウンロード版ver1.11より、緘黙児に二択の質問をする場面の動画です。

↓ mp4ファイル。4.48MB。23秒。
◇ 緘黙児の栞に二択質問 (新しいウィンドウで開く

これまでのver1.10以前では、「栞ちゃんが好きな動物教えて!いぬ?ねこ?それ以外?」という質問でした。「それ以外」を加えて、少しアレンジしていたのでした。プリシー版では既にこの箇所の更新を済ませています。

なお、このイベントは見つけにくいです。緘黙RPG をクリアされた方でも、これは見たことがないという方がほとんどではないかと思います。



「花が咲かない時は、環境を変える」

2017年01月15日(日曜日)


When a flower doesn't bloom, you fix the environment in which it grows, not the flower.

--Alexander den Heijer

花が咲かない時には、花を変えるのではなく、環境を変えるという言葉です。

言葉に困難を持つ子どもや若者のためのイギリスの支援団体 Afasic が昨年11月、Twitter でこの言葉を紹介しました。それが結構反響がありました。イギリスの場面緘黙症支援団体 SMIRA の役員 Lindsay Whittington さんもシェアしていました。

日本の緘黙支援では WHOの国際生活機能分類 (ICF) というものを取り入れる方法が影響を与えていて、「環境因子」という用語を目にする機会が増えています。そうした中、環境調整の大切さを説くこの一文を、日本の緘黙に関心がある方に紹介したら受け入れられそうだと思い、私も Twitter でこの言葉を紹介してみました。で、反響はどうだったかというと、さっぱりでした。なぜ……。

* * * * * * * * * *

ところでこの一文ですが、英語圏では多少知られた言葉のようで、検索すると結構ヒットします。

海外で名文を残した人というと、Winston Churchill(ウィンストン・チャーチル)など昔の人も連想しますが、この名文を生み出した Alexander den Heijer さんは現代の方です。Facebook や Twitter もやってます。

この方はオランダの「インスピレーショナル・スピーカー」で、企業研修に携わったり、ライターをしたりされているそうです。この一文も、もともとはリーダーの人材活用術を解いたものです。