改正児童福祉法、緘黙支援への影響は?

2016年10月20日(木曜日)


平成28年(2016年)6月3日に改正された児童福祉法が、10月1日に一部施行されました。改正の大きなポイントは、児童虐待対策の強化だそうです。

↓ 電子政府の総合窓口 e-Gov 内「法令データ提供システム」へのリンクです。
◇ 児童福祉法 (新しいウィンドウで開く

↓ 厚生労働省ホームページへのリンクです。
◇ 児童福祉法の一部を改正する法律:新旧対照表 (新しいウィンドウで開く

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◇ 児童福祉法等の一部を改正する法律案の概要 (新しいウィンドウで開く

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今回の改正は場面緘黙症とはあまり関係ないのだろうかと思ったのですが、気になる箇所もありました。といっても、私はこの道の専門家ではなく、あくまで素人視点による素朴に気になる箇所の話です。

児童相談所が増える?


まず、今回の改正により、児童相談所を中核市や特別区(東京23区)で設置できるよう、政府が必要な措置を講じることになりました。児童相談所は緘黙を扱っていますから、緘黙の相談窓口が増えることになるかもしれません。

附則 抄
第三条  政府は、この法律の施行後五年を目途として、地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百五十二条の二十二第一項の中核市及び特別区が児童相談所を設置することができるよう、その設置に係る支援その他の必要な措置を講ずるものとする。

↓ 福祉新聞ホームページへのリンクです。
◇ 改正児童福祉法が成立 東京23区にも児相設置へ (新しいウィンドウで開く


児童の意見の尊重


それから、今回の法改正では、理念に関する部分である総則も改められました。

改正前

第一条 すべて国民は、児童が心身ともに健やかに生まれ、且つ、育成されるよう努めなければならない。

  すべて児童は、ひとしくその生活を保障され、愛護されなければならない。
 
第二条 国及び地方公共団体は、児童の保護者とともに、児童を心身ともに健やかに育成する責任を負う。
 
第三条 前二条に規定するところは、児童の福祉を保障するための原理であり、この原理は、すべて児童に関する法令の施行にあたつて、常に尊重されなければならない。

改正後

第一条  全て児童は、児童の権利に関する条約の精神にのつとり、適切に養育されること、その生活を保障されること、愛され、保護されること、その心身の健やかな成長及び発達並びにその自立が図られることその他の福祉を等しく保障される権利を有する。

第二条  全て国民は、児童が良好な環境において生まれ、かつ、社会のあらゆる分野において、児童の年齢及び発達の程度に応じて、その意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮され、心身ともに健やかに育成されるよう努めなければならない。

   児童の保護者は、児童を心身ともに健やかに育成することについて第一義的責任を負う。

   国及び地方公共団体は、児童の保護者とともに、児童を心身ともに健やかに育成する責任を負う。

第三条  前二条に規定するところは、児童の福祉を保障するための原理であり、この原理は、すべて児童に関する法令の施行にあたつて、常に尊重されなければならない。

私は、第二条の「社会のあらゆる分野において、児童の年齢及び発達の程度に応じて、その意見が尊重され」という箇所が、気になっています。

私たちのことを、私たち抜きに決めないで」という記事の中で以前お話しましたが、イギリスでは緘黙の当事者や経験者の声を様々な分野で反映させようという動きがあります。ある緘黙の研究では「児童の権利に関する条約」第12条と第13条を根拠として経験者らのアンケート調査を行なっていましたが(Roe, 2014)、この条約の精神は、まさに改正児童福祉法が理念として掲げるものです。

↓ 日本ユニセフ協会ホームページへのリンクです。
※ 子どもの権利条約第9条~第16条 (新しいウィンドウで開く

同じような動きや主張は、日本でもわずかにですが確認しています。例えば、緘黙支援と関わりがある群馬大学の久田信行教授と、「かんもくの会」という団体の浜田貴照代表による論考では、当事者の意見を聴くことが重要になってきていると指摘されています(久田、浜田、2015)。また、近年では、緘黙の経験者への質問紙調査を行い、緘黙の症状克服に影響を与える要因を検討するという、これまでにない研究も出ています(奥村、園山、2014)。

児童の意見の尊重を掲げた今回の法改正は、こうした動きに何らかの影響を与えるのかどうか、気になっています。





通級、支援級での「個別カルテ」義務化提言について

2016年06月10日(金曜日)

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緘黙は通級、支援級で教育を受けられる


場面緘黙症は特別支援教育の対象で、必要に応じて「通級による指導」や「特別支援学級」で教育を受けられることになっています。実際、通級指導教室や特別支援学級で教育を受けている緘黙の児童生徒は多数いるようです。

↓ 場面緘黙症Journal「続・基礎知識」。
◇ 緘黙は特別支援教育の対象。根拠は? (新しいウィンドウで開く

↓ 場面緘黙症Journal「用語集」。
◇ 通級による指導 (新しいウィンドウで開く

↓ 場面緘黙症Journal「用語集」。
◇ 特別支援学級 (新しいウィンドウで開く

その通級、支援級で「個別カルテ(仮)」義務化が提言された


この通級指導教室や特別支援学級で、「個別カルテ(仮)」の作成を学校に義務付けるという、政府の教育再生実行会議の提言が話題になっています。下記記事によると、個別カルテは、従来の「個別の指導計画」や「個別の教育支援計画」と同じ趣旨のものだそうです。

↓ 「LITALICO(りたりこ)発達ナビ」へのリンク。
◇ 「障害のある子の『個別カルテ』ってどういうこと?文科省に聞いてみた」 (新しいウィンドウで開く

なお、「個別の指導計画」「個別の教育支援計画」とはこのことです。文部科学省のホームページより。

「個別の指導計画」… 指導を行うためのきめ細かい計画
 幼児児童生徒一人一人の教育的ニーズに対応して、指導目標や指導内容・方法を盛り込んだ指導計画。例えば、単元や学期、学年等ごとに作成され、それに基づいた指導が行われる。

「個別の教育支援計画」… 他機関との連携を図るための長期的な視点に立った計画
 一人一人の障害のある子どもについて、乳幼児期から学校卒業後までの一貫した長期的な計画を学校が中心となって作成。作成に当たっては関係機関との連携が必要。また保護者の参画や意見等を聴くことなどが求められる。

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/032/siryo/06090604/003.htm

これまでは、「個別の指導計画」「個別の教育支援計画」は特別支援学校(特別支援学級ではない)で作成が義務付けられていました。通級指導教室や特別支援学級でも作成が行なわれていなかったわけではありませんが、義務ではありませんでした。

「個別カルテ」義務化されれば、進級進学に関わらず、一貫した支援を受けられるようになるのか


通級指導教室や特別支援学級で義務化されれば、こうした特別支援教育を受ける緘黙の児童生徒は、進級や進学をしても個別カルテが引き継がれ、一貫した支援を受けることができるようになるのでしょうか。

このあたりについてはまだ詳しいことは決まっていないようですし、私もまだまだ勉強中の身で、よく分かりません。

そういえば、改正発達障害者支援法が成立した


「個別の指導計画」「個別の教育支援計画」といえば、5月25日に改正発達障害者支援法が成立しました。これにより、学校は発達障害児の「個別の指導計画」「個別の教育支援計画」を作成されることが求められるようになります。この法律と個別カルテとの関連は今のところ私には分かりません。分からないことだらけで、すみません。

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◇ 文科省、高校への「通級」導入を検討 (新しいウィンドウで開く

ハンドルネーム変更のお知らせ


ハンドルネームを「富条」(仮)に変更しています。

障害者差別解消法と「合理的配慮」

2016年01月21日(木曜日)

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金子書房の雑誌『児童心理』2016年2月号に、金原洋治「場面緘黙がある子」が掲載されました(50~54ページ)。緘黙について概説したものでしたが、新しい話題として、障害者差別解消法や「合理的配慮」について書かれてありました。

そういえば、この法律については、まだ場面緘黙症Journal では取り上げていませんでした。今更という感もありますが、今回記事にしてみます。

障害者差別解消法とは


障害者差別解消法は2016年4月1日から施行される法律で、正式名称を「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」といいます。障害者基本法の基本理念にのっとり、障害を理由とする差別の解消を推進し、共生社会の実現を図ることを目的とした法律です(第一条)。

↓ この法律を分かりやすく解説したリーフレットが公開されています(PDF)。内閣府ホームページへのリンクです。
◇ 障害者差別解消法リーフレット  (新しいウィンドウで開く

↓ 条文や政府の基本方針の解説があります。内閣府ホームページへのリンクです。
◇ 障害を理由とする差別の解消の推進  (新しいウィンドウで開く

この法律が制定された背景には、障害に基づく差別(後述する「合理的配慮」の否定を含む)を禁止した「障害者の権利に関する条約」に日本が署名したことがあります。

合理的配慮とは


この合理的配慮という概念は、条約や今回の法律のキーワードの一つです。条約では次のように定義されています。

↓ 障害者の権利に関する条約が定義する「合理的配慮」(第二条)
障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの

これは、障害者の社会的障壁は社会が作るという「社会モデル」の考え方に基づいたものです。

障害者差別解消法の施行により、国公立学校を含む公的機関には、障害者に合理的配慮(条文では「合理的な配慮」)を行なうことが法的に義務化されます(第七条第二項)。民間事業者は努力義務です(第八条第二項)。

第七条 
2 行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。

合理的配慮が行なわれず、障害者の権利利益が侵害される場合、障害者差別解消法が禁止する差別に当たります。