「社会恐怖症の一種としての場面緘黙症」

2008年09月28日(日曜日)

このブログでは、場面緘黙症の論文を取り上げています。私は専門家ではなく、自信もないのですが、自分自身の勉強も兼ねて。

今回の論文はこれです。やはり被引用回数が多いので、取り上げます。

Black, B., and Uhde, T.W. (1992). Elective mutism as a variant of social phobia. Journal of the American Academy of Child and Adolescent Psychiatry, 31(6), 1090-1094.

■ 概要

Rebecca ちゃんという、12歳の場面緘黙症の女児の事例研究です。先行研究を概観し、場面緘黙症は社会恐怖症の一種である可能性があると論じています。

■ 考察

場面緘黙症は社会恐怖症ないし社会不安障害の一つという説は、今日、英語圏ではかなり広まっています。一般人のブログにも、場面緘黙症をそう捉えているものが見受けられます。この説の元はどこだろうと調べたところ、今回の論文にたどり着きました。

今回の論文のうち、Rebecca ちゃんの症例を示した部分は、よくある内容だろうと思います。注目すべきは、場面緘黙症は社会恐怖症の一つという見方を示した考察の部分です。

しかし、この論文の内容だけでは、場面緘黙症が社会恐怖症の一つと結論付けるには、根拠が不十分ではないかと思います。著者が "Elective mutism may be a manifestation of social phobia..." と断定を避けているのも、そのためでしょう。今回の論文は問題提起と受け止めるのが妥当だろうと思います。

そして、この論文の3年後に、同じ著者の Black、Uhde 両氏による Psychiatric characteristics of children with selective mutism が発表されました。場面緘黙症児のほとんどが(この論文では97%)社会不安や回避性障害をあわせもっていることなど七つの根拠を挙げ、今回の論文よりも丁寧に「場面緘黙症は、社会不安の一つの症状である」と結論付けています。

しかし、Black、Uhde 両氏の論文が発表された後にも、この説にはまだ議論の余地が残っており、いまだ定説にまでは至っていないのが現状ではないかと思います。みなさんご存知の『場面緘黙児への支援』も、この説には慎重です。さらなる議論が必要でしょう。

いずれにせよ、今回の論文は、場面緘黙症の概念化に一石を投じたものとして、評価できます。

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[関連ページ]

◇ 今回の論文の詳細ページ場面緘黙症Journal 論文情報
◇ 場面緘黙症児の特徴を調べた論文


緘黙といじめ、どっちが悪い

2008年09月23日(火曜日)

女児場面緘黙症の子どもが、場面緘黙症が原因でいじめられているとします。

この場合、悪いのは、いじめている側なのでしょうか。それとも、いじめられている側なのでしょうか。そして、どうすれば、このいじめの問題は解決するのでしょうか。

Aさん、Bさん、Cさんの3人の意見を聞いてみることにしましょう。

[Aさんの意見]

いじめは、いじめられる側に問題がある、いじめられる側が悪いというのが私の持論です。

場面緘黙症児は、いかにも弱そうで、いじめのターゲットになりやすそうです。弱そうな子は、どこに行っても、いじめを受け続けます。いじめを受け続けないためにも、場面緘黙症を治療することが大事です。いじめられても、被害者意識ばかり持たずに自分を変えることです。いじめに負けない強い子になりましょう!

[Bさんの意見]

私は、いじめは悪いことだと思いますが、いじめられる側にも問題があり、場合によってはいじめられる側だって悪いこともあると思います。例えば、いじめられっ子が我がままで自己中心的な言動を繰り返すような子の場合、その子だって悪いのではないかと思います(ただし、いじめられっ子が発達障害児の場合を除く)。

しかし、今回の場合は、いじめられる側の問題が場面緘黙症という情緒障害です。その子は、何も場面緘黙症になりたくてなったわけではありません。いじめられる側が悪いというのはどうかと思います。Aさんの意見は、まるで「その子が場面緘黙症だから悪い」「緘黙の子は、いじめられて当然」と言わんばかりで、はなはだ不愉快です。

それから、いじめられても反撃しようとしないいじめられっ子には私は同情しませんが、反撃のしようもない場面緘黙症児をいじめる人は卑怯者だと思います。

いじめの解決策は、その子が話したくても話せない子なのだということをクラスのみんなに理解させるとともに、いじめっ子に、その緘黙の子をいじめないように強く言い聞かせることです。

[Cさんの意見]

いじめは、100%いじめっ子が悪いです。いじめられる側にいかなる問題があっても、それはいじめを正当化する理由にはなりません。Aさんの意見は論外ですし、Bさんの言うような、いじめられっ子の問題が情緒障害なら悪くないという意見もおかしいです。

考えてみてください、「盗難に遭った方が(も)悪い」「痴漢された方が(も)悪い」「殺された方が(も)悪い」という理屈は通らないでしょう?それと同じことです。

いじめの解決策は、いじめっ子に、その緘黙の子をいじめないように強く言い聞かせることです。


仮想現実の体験で場面緘黙症を治す

2008年09月18日(木曜日)

フロリダ中央大学のニュースです(すみません英語です、新しいウィンドウは開きません)。場面緘黙症についても最後の方に少し書かれてあります。

Virtual Reality Helps UCF Clinic Treat With Anxiety Disorders (With Video)

バーチャル・リアリティーの世界の体験を通して不安障害や場面緘黙症を治す(「VRエクスポージャー」などと呼ばれます)というと、なんだかとても新しい試みのように思えます。

ただ、その治療の原理は、不安な状況に身をさらすことによって不安を克服するという、伝統的なものです。この原理を用いた場面緘黙症の治療事例は、日本では古くはおよそ50年も前に報告されています(「内山喜久雄の緘黙症研究(2)」参照)。また、2007年に日本で翻訳版が出版された『場面緘黙児への支援』も、同じ原理を採用しています。英語圏では、こうした治療法(行動療法)が場面緘黙症の治療によく導入されています。

行動療法では、子どもが発語ができない場面(例。学校)で段階的に発語練習をしますが、必ずしもそうした場面で練習の機会を得ることはできないかもしれません。しかし、そうした場面をバーチャル・リアリティーの世界で簡単に設定できれば、便利です。ただ、どこまでリアルな状況を設定できるかが気になります。

バーチャル・リアリティを活用したこうした治療法については、高所恐怖症、飛行恐怖症ほか、既に様々な恐怖症に導入され、治療研究の蓄積もあります(宮野, 2004)。この治療法に大きな効果が認められ、費用もそれほどかからず、効果的なPRが行われれば、普及してもおかしくありません。実際には、どこまで普及しているのでしょうか。

※ ごく一部を書き直しました(9/19/2008)。
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[文献]

◇ 宮野秀市. (2004). Specific Phobia の改善に向けた簡易型VRエクスポージャーの開発. Retrieved September 18, 2008, from
http://dspace.wul.waseda.ac.jp/dspace/bitstream/2065/463/3/Honbun-3683.pdf