発掘!教師が書いた緘黙児教育の実録

2009年04月25日(土曜日)

本あまり知られていないと思われる、緘黙の本を読む機会を得ました。

『ほら、こんなにも美しい世界が-ある緘黙児教育の記録』という本です。

著者は中学校教諭(当時?)の藤林春夫氏。藤林氏は、この本のほかにも、『ある朝、僕は布団から起きられなくなった―不登校生徒たちを立ち直らせたある教師の行動録』(1999年)『それぞれの帰路』(2005年)を出版しています。

この本は信毎書籍出版センターより1993年に発行されていますが、現在はおそらく絶版ではないかと思います。私は「自費出版図書館」という、全国に本の貸し出しサービスを行っている図書館を通じて、この本を読みました。

内容は、当時の障害児学級(中学校)で場面緘黙症の男子生徒を指導し、その生徒が普通学級に編入するまでを振り返った実録です。類書はほとんどなく、貴重な本だと思います。著者の、生徒への痛いほどの愛が伝わってくる1冊です。

■ 障害児学級

障害児学級とあって、指導の重点は緘黙の克服に置かれていると感じます。しかも、この学級はどうも少人数編成のようで、そのためきめこまかい指導がなされていると感じます。反面、勉強内容は普通学級に比べると軽いものだったようです。

ちなみに、私は中学時代は、普通学級で過ごしていたのですが、こちらでは対照的に、指導の重点は勉強でした。私が学級で孤立しないようにとの先生の強い配慮は感じましたが、それ以外では私の緘黙について、特別な指導は受けませんでした。結局、学力はつきましたが、緘黙はあまり治りませんでした。

その子どもにもよるのでしょうが、特別支援学級と普通学級、どちらが良いのだろうかと考えさせられました。

■ 発話の訓練

この本には具体的な指導の記録が細かく載っており、緘黙の子を指導している教職の方には参考にもなるだろうと思います。緘黙の本にはほとんど(全く?)言及がない進路指導についても触れられています。

ただ、著者は緘黙の生徒に少しずつ話せるよう発話の訓練をしており、これが気になります。生徒と強い信頼関係が成り立っているとはいえ、生徒を怒鳴ったり叩いたりするなど、厳しい指導にも当たっています(これも生徒に対する愛情からきたものなのでしょうが)。著者の指導は『場面緘黙児への支援』などでも採用されている行動療法の原理に基づいているとも思えるのですが、その一方、読む人によっては、緘黙の生徒にはとにかく発話を強制すれば治ると誤解しやしないか、そこが少し気になりました。

甘えるな、克己の精神で緘黙を治せ、という雰囲気がします。この本を読んだあと、ちょうど先日取り上げた『場面緘黙へのアプローチ』を入手したので、読んでいたら、こちらには遊びを通じて緘黙を治す方法が紹介されるなど、どこか楽しみながら緘黙を治そうという感じもあり、その落差に驚いてしまいました。

この本は、緘黙の生徒を指導した「一例」です。「一般」にどのような指導を行えば良いかを知るには、『場面緘黙児の心理と指導』などを読めばよいと思います。

■ あとがき

最後は普通学級に移って、とりあえずめでたし、という展開ですが、その後の佐藤愛氏の「あとがき」で、あっと驚くことが書かれてあります。最後にこんなことが書かれてあるので、読後感がなんとも…。

■ 類書

なお、同じような、教師による緘黙症児教育の記録に、『話せるようになったまさえさん』(絶版)という本があります。


『場面緘黙へのアプローチ』読みました、見ました(後編)

2009年04月20日(月曜日)

『場面緘黙へのアプローチ』読みました、見ました(前編)」の続きです。

■ この本&DVD、買った方がいいか

もし私がこのブログの読者の方に、「この本とDVD、買った方がいいでしょうか」と聞かれても、私は即答できません。ご本人がどういう内容の本を期待しているかや、どれだけのお金なら緘黙の本&DVDに使ってもよいかと考えているかにもよるでしょうし、一概には言えないだろうと思います。

ただ、「序文」によると、この本は保護者、教育関係者、心理や医学専門家向けに書かれたそうで、そうした方にはおすすめできる1冊かもしれないと思います。

これはあくまで私見ですが、この本&DVDは、保護者よりも、緘黙の子を支援する立場の方に最も向いているのではないかと思います。COGSなど、この本で取り上げられている支援法の多くは、保護者よりもそうした方が行うものだろうと思います。ただ、保護者の方が買っても得るところはあるでしょう。本には類書にはないことが書かれてあります。また、おそらく日本では唯一の、場面緘黙症のDVDもついています。

ちなみに、私は保護者でも教育関係者でもなく、場面緘黙症(自己診断ですが)を経験したブロガーですが、この本を読んで勉強になりました。緘黙を理解し、より質の高いブログを書く上でこの本は役立ちそうで、買ってよかったと思っています。値段がちょっと高いと感じないまでもありませんでしたが。

■ また緘黙の本が増えた

以前、「場面緘黙症の本、種類の少なさ」という記事を書いたことがありますが、田研出版の様子等を見ていると、実は緘黙の本はもしかしたら売れているのかもしれないとも思えます。今回またしても緘黙の本が刊行されたのも、そうした背景があったのかもしれません。

緘黙の本が新しく増えたことにより、「いったいどの本を選べばいいか分からない」と悩む人が出てくるかもしれません。しかし、これは、少し昔までのことを考えれば、喜ばしい「贅沢な悩み」です。今後、緘黙の本の選別が進み、中には売れない本も出てくるかもしれませんが、私としては、どの本もよく売れて、緘黙を主題にした本がさらに多く出版されるようになるとよいと思っています。

ちなみに、英語圏では緘黙の本はもっと多く、ほかにもDVDやCD-ROM、さらにはウェブセミナー(「ウェビナー」と言います)まであります。

■ 本に、うちのサイトのことが

この本には、場面緘黙症Journal(SMJ)のことにも少し触れられており、加えて、翻訳に携わった方の中には知っている方もいらっしゃるので、今回の記事は書きにくかったです。下手に褒めたら、「提灯記事か」とも解釈されかねません。ですが、『場面緘黙Q&A』と違って、SMJの内容が引用されているわけではありませんし、そもそも私は本書&DVDの翻訳に関与していません。さらに、今のところこの本&DVDに対する他の緘黙サイトの反応が鈍いです。そういうわけで、思い切って書いてみることにしたのですが、皆様いかがでしたか?


『場面緘黙へのアプローチ』読みました、見ました(前編)

2009年04月15日(水曜日)

場面緘黙へのアプローチ―家庭と学校での取り組み場面緘黙症Journal では「関連書籍」のコーナーで、場面緘黙症に関する洋書をご紹介しているのですが、実は海外で出回っている緘黙の洋書は、ここでご紹介しているものが全てではありません。諸事情により、一部は載せていません。

Silent Children - Approaches to Selective Mutism も、その一つでした。イギリスで場面緘黙症の本&DVDが出ているという話はかねてから聞いてはいたのですが、一般の書店等で出回っているものではないようで、私も手に取ったことはありませんでした。

今回お話しする新刊『場面緘黙へのアプローチ―家庭と学校での取り組み』は、それを翻訳したものです。体裁は本ですが、DVD(24分)が付属しています。

■ 内容量

本は190ページで、その内容量は、同じ田研出版から出ている『場面緘黙児への支援』や『場面緘黙児の心理と指導』とほぼ同じです。ただ、本には24分のDVDがついています。この本が類書に比べて高いのは、DVDがついていることが一因かな、と推察します。

■ たくさんの人が書いた

この本は、イギリスの緘黙支援団体 SMIRA の代表、緘黙症児の保護者たち、特別支援スペシャリスト、大学の名誉教授ほか、様々な立場の人の執筆から構成されています。DVDには場面緘黙症の経験者も出て、自身の体験を語っています(本にも、別の経験者の話が4ページだけではありますが載っています)。

このため、場面緘黙症やその支援法を多角的な視点から理解することができます。反面、別々の著者が同じような説明を重複して書いた部分があり(中には、それぞれの説明が食い違っている場合もあります)、構成に若干統一性が欠けます。

■ イギリスの本&DVDの翻訳版

この本&DVDはもともとイギリスのものの翻訳版なので、イギリス色を強く感じます。内容がイギリスの話ばかりなのはもちろん、イギリスの写真もたくさん挿入されています(写真は、本の内容を具体的にイメージするのに役立っています)。このため、日本に住む私には少し馴染みにくいと最初は感じたのですが、徐々に慣れました。

カナダから出た本の翻訳書『場面緘黙児への支援』と同様、この本に書かれている支援法の中には、そっくりそのまま現在の日本でも適用できないものもあるかもしれません。ですが、あとがき「『家庭』と『学校』の間に橋を架けましょう」にも書かれてある通り、少なくとも支援のヒントにはなるでしょう。また、緘黙症児の支援方法が発達したイギリスの手法を紹介するということそのものが、今の日本では、大きな意義のあることだろうと思います。今はまだ、海外の手法を輸入する段階なのだろうと思います。

■ DVDがついている

この本の大きな特徴の一つは、DVD(24分)がついていることです。

場面緘黙症と治療のポイントについて正しく理解するのによくできており、場面緘黙症の子どもに関わる方はもちろん、欲を言えば、そうでない幅広い方にも見ていただきたいDVDです。24分という時間も、長すぎず短すぎず、ちょうどよいと思います。

このDVDは、もしかしたら、どうしても本につけなければならないような内容のものではないのかもしれません。DVDがついた分、おそらく値段も高くなったことでしょう。ですが、場面緘黙症のDVDがこうして手に入りやすいかたちで出たのは、意義があることだと思います。動画は、人の動作、肉声、表情、雰囲気といった活字では表現できないものを伝えます。支援の現場を動画で見ることにより、本の内容が具体的にイメージしやすくなるという効用があります。また、動画だからこそ、印象に残って頭に入りやすいということもあります。さらに、DVDは1枚あれば、多くの人が同時に見ることもできます。

※ ただ、ここで紹介されている手法を用いようとするなら、ノートやメモでも取りながら見るのが一番良いだろうと思います。

[続きの記事]

◇ 『場面緘黙へのアプローチ』読みました、見ました(後編)

※ 若干、内容を書き改めました。(2009年4月15日19時10分)