緘黙児は、子ども・若者育成支援推進法で支援の対象になるのか

2009年07月28日(火曜日)

今月7月1日、子ども・若者育成支援推進法という法律が成立し、7月8日に公布されました。その条文と概要は、内閣府・青少年育成ホームページに分かりやすくまとめられています。

青少年育成ホームページ
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↑ 内閣府ホームページへのリンクです。

この法律、一部メディアで「ニート支援法」と報じられましたが、語弊(ごへい)があります。

この法律で支援の対象として念頭に置かれた者は、法案当初は、たしかに、ニート、ひきこもり状態にある若者でした。しかし、その後法案は修正され、成立された法律では、ニート、ひきこもりだけでなく、「社会生活を円滑に営む上での困難を有する子ども・若者」全体にまで支援対象が拡大されています。このあたりの修正の経緯については、衆議院・青少年問題に関する特別委員会の会議録(平成21年6月18日)を読めば、詳しいことが分かります。

衆議院ホームページ
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↑ 衆議院ホームページへのリンクです。

では、「社会生活を円滑に営む上での困難を有する子ども・若者」とは、いったいどのような者なのでしょうか。青少年問題特別委員会では、「義務教育段階での不登校やいじめ、摂食障害」(江崎洋一郎理事)や「軽度の発達障害」(吉田泉理事)といった問題を抱えた子ども・若者が挙げられています。

こうした問題が背景となってニート、ひきこもりになる者もいると指摘されているため、支援対象に新たに加えられたのではないかと、会議録を読んで思います。

上の青少年育成ホームページにある概要図にも、法律成立の背景として「ニート、ひきこもり、不登校、発達障害等の精神疾患など子ども・若者の抱える問題の深刻化」が挙げられており、やはり、不登校、発達障害等精神疾患などの問題を抱えた子ども・若者についても支援の対象として念頭にあることがうかがえます。

それならば、場面緘黙症の子ども・若者も、この法律の対象に入り得るような気もします。場面緘黙症は発達障害ではありませんが(発達障害を合併した例はあるでしょうが)、広義の精神疾患に入るとも考えられますし、緘黙児やその経験者の中には、社会生活を円滑に営む上で困難を有する者もいることでしょう。実際に、この法律にもとづいて「子ども・若者総合相談センター」ができたときに、緘黙の子ども・若者について相談に行くと、支援に乗せてもらえるのでしょうか…?

もっとも、この法律については賛否も分かれることだろうと思います。


日本の多くの文献にも、早期発見・早期治療が必要と書いてある

2009年07月21日(火曜日)

先日、場面緘黙症Journal 論文情報で、緘黙の早期発見・早期治療の必要性を指摘した国内文献をまとめました。

緘黙症の早期発見・早期治療の必要性を指摘した国内文献
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■ 多くの文献で指摘

早期発見・早期治療の必要性は、日本でも古くから、多くの文献で指摘されてきました。

一方、治療は遅くなってもよいとか、そのままにしておけばよいなどとした文献は見つかりませんでした。もっとも、そう考える専門家は、緘黙症に関する研究を著すことはないのかもしれませんが。

■ 早期発見・早期治療が必要な理由は?

では、なぜ、緘黙症は早期に発見・治療されなければならないのでしょうか。上に挙げた文献の中には、その理由を示していないものもありますが、理由を示した文献の中からまとめてみます。

◇ 早めの方が治療効果が高い

最も多かったのが、早めの方が緘黙症の治療効果が高い、ないし、長期化した緘黙症は治療効果が上がりにくいという理由です(角田, 2008; 椎名ら, 1998; 河井, 1994; 牧野, 1987; 大井ら, 1982; 大井ら, 1979; 畠瀬, 1978)。実際に早期治療の方が効果が出ています。

◇ 社会性の獲得の面で問題

次に多いのが、緘黙の期間が長引くと、社会性の獲得の面で問題であるという理由です(角田, 2008; 大村, 2006; 木場, 1987; 堀内, 1974)。

◇ その他の理由

一般向けに書かれた『場面緘黙Q&A』は、数ある文献の中でも、特に早期発見・早期対応の重要性について詳しくまとめており、緘黙の期間が長引くことにより生じる様々な問題を挙げています(角田, 2008)。

◇ 後遺症は?

なお、緘黙は治った後も様々な問題が残る、いわゆる「後遺症」の問題について指摘した文献はほとんどありませんでした。『場面緘黙Q&A』ぐらいのものです(角田, 2008)。

■ むすび

緘黙症の早期発見・早期治療の必要性は、日本でも古くより多くの文献で指摘されてきました。

早期発見・早期治療が必要な理由としては、早めに対応した方が治療効果が高いこと、緘黙の期間が長引くと社会性の獲得の面で問題があること等が挙げられています。


緘黙児の注意機能

2009年07月14日(火曜日)

このブログでは、ときどき場面緘黙症の論文を取り上げています。私は専門家ではないのですが、自分自身の勉強も兼ねて。

今回の論文はこれです。

Oerbeck, B., and Kristensen, H. (2008). Attention in selective mutism--an exploratory case-control study. Journal of anxiety disorders, 22(3),548-554.

■ 概要

場面緘黙症と注意機能の関係について調べたものです。調査にあたっては Trail Making Test(注意力のテスト)や Child Behavior Checklist(子どもの行動・情緒の問題を評価)による尺度を用い、対照群(緘黙でない子たち)との比較を行っています。

■ 所感

場面緘黙症と注意機能の問題に関する報告は以前から出ていました。ですが、今回のように、神経心理学的な尺度を用い、対象試験を行った研究はこれまでありませんでした。

場面緘黙症というと、話せないとか、不安が強いとか、そうした面ばかりに注意が向かいがちですが、今回のように注意機能や、以前ご紹介した視覚記憶など(「緘黙児の言語能力、視覚記憶、社会不安」参照)、多面的に症児の調査が行われ、いまだ明らかにされていない病因(etiology)解明の手がかりが得られることを期待します。

著者は2名とも、ノルウェーの専門機関の所属です。特に Hanne Kristensen 氏は、場面緘黙症に関する論文を数多く発表されていて、世界の緘黙研究では有名な方ではないかと思います。Kristensen 氏の研究の中でもよく知られているのは、おそらく 2000年に発表された場面緘黙症の併存疾患に関する研究 "Selective mutism and comorbidity with developmental disorder/delay, anxiety disorder, and elimination disorder" で、日本の緘黙文献でも、何度も引用されてきました(「場面緘黙症Journal 論文情報」参照)。

簡単ですが、今回はこれまで。