21歳前後の元緘黙児41人を調査

2009年09月24日(木曜日)

このブログでは、ときどき場面緘黙症の論文を取り上げています。私は専門家ではないのですが、自分自身の勉強も兼ねて。

今回の論文はこれです。

Remschmidt, H., Poller, M., Herpertz-Dahlmann, B., Hennighausen, K., and Gutenbrunner, C. (2001). A follow-up study of 45 patients with elective mutism. European Archives of Psychiatry and Clinical Neuroscience, 251(6), 284-296.

■ 概要

ドイツの研究です。場面緘黙症の治療を受けた子どもたち45名の、その後を調査したものです(45名のうち、その後、十分な情報を得られたのは41名)。

■ 所感

◇ 数少ない緘黙児の長期的な追跡調査

私は、場面緘黙症が、青年期以降にどのような影響を与えるかに強い関心を持っています。青年期以降には緘黙症状は完全に消えてしまい、いわゆる後遺症も残らない場合が多いのか。それとも、青年期以降も完全には治らず、後遺症が残る場合が多いのか。前者と後者では、緘黙症の問題の深刻さ、早期対応の重要性等々が違ってくるだろうと考えるからです。

ですが、文献上では、緘黙の子たちの長期的な追跡調査は、数少ないです。今回の論文はその数少ない調査の一つで、英語圏の長期的追跡調査としては、Steinhausenら(2006)と並ぶ最重要文献と私は見ています。調査対象の元緘黙症児の数が多いこと、対象群があるなど調査方法が比較的しっかりしていることがこの論文の評価できる点です(偉そうなこと言って、すみません)。

皆さんお持ち(?)の『場面緘黙児への支援』でも、追跡調査として唯一この論文が引用されています。興味のある方は確かめてみても良いかもしれません(28ページ。原著では20ページです)。






アニマルセラピーで緘黙が治った、ほか

2009年09月17日(木曜日)

最近英語圏で、場面緘黙症を主題としたニュースがいくつか配信されたので、そのうち2つをご紹介します。

■ ロバによるアニマルセラピー

最初にご紹介するのは、Donkeys help five-year-old to "find his voice" (ロバ、5歳児が"声が出るようになる"のを助ける)というニュースです。現地時間9月8日、Asian News International という通信社を通じて、私が確認しただけでも、インドやイギリスのニュースサイトに何件も掲載されています(記事のタイトルは、ニュースサイトによって多少異なります)。

内容は、場面緘黙症を持っていた5歳の男の子が、イギリス・リーズ郊外の The Elisabeth Svendsen Trust for Children and Donkeys (EST) という乗馬ならぬ「乗ロバ」センターでロバと過ごしたところ、それが効果を上げて、緘黙症が治ったという話です。

馬を使ったホースセラピーというものを聞いたことがあります。今回の記事は、「ドンキーセラピー」と言ったところでしょうか(ロバは、英語でドンキーと言います)。EST はロバを用いて、特別な支援が必要な子ども達にセラピーを提供しています。ロバは馬に比べると小さいので、もしかすると子どもが乗るのに向いているのかなとも思うのですが、定かではありません。

※ ホースセラピーの説明(Yahoo!辞書)
(新しいウィンドウで開く)

学術文献では、ロバや馬、さらには犬、猫なども含めた、アニマルセラピーが緘黙症の治療に効果を上げたという報告は、少なくとも私は確認したことがありません。文献上は、遊戯療法(特に日本)や行動療法(特に英語圏)、認知行動療法、薬物療法(特にアメリカ)などが代表的な治療法としてよく挙がります。

ですが、こういった治療法にこだわらず、様々な方法を試してみてもよいだろうと思います。

■ アイルランドの代表的新聞に

もう一つご紹介するのは、When your child is lost for words(あなたの子どもが言葉をなくしたとき)というニュースです。アイルランドの代表的新聞 Irish Time 紙面と同紙ウェブサイトに掲載されました(ウェブサイト掲載は9月15日、紙面掲載日は分かりません)。

内容は、実例を交えながら場面緘黙症を解説(正しい対応、治療も含む)したもので、どうやら緘黙の子を持つけれども、緘黙のことを知らない親を対象に書かれたものと見受けられます。

場面緘黙症を主題とした記事としてはわりとオーソドックスな内容だと思うのですが、文字数が、この種の記事としては少し多いのではないかと感じます。アイルランドを代表する新聞に、これだけの文字数で、場面緘黙症を主題とする記事が掲載されたのだとしたら、これは大きなことだと思います。


日本の緘黙児は発症が遅い?(後編)

2009年09月15日(火曜日)

日本の緘黙児は発症が遅い?(前編)」の続きです。

前編では、日本語文献で報告されている緘黙症の平均発症年齢が、英語文献のそれと比べて高いというお話をしました。日本の文献の報告では、発症年齢が平均5歳台あたりのものが多いのですが、英語文献では3歳台が多いことが分かりました。

■ 発症年齢は、記憶や記録を元に突き止められる

場面緘黙症の発症年齢の突き止めには、一つの問題があります。例えば、ある子が幼稚園に入園して初めて緘黙症状が現れたとき、ちょうどそこに医師がいて、「この子、たったいま場面緘黙症になりましたね~。発症年齢は○歳○ヶ月ですね~」などと診断するようなことはありません(そもそも、入園直後に緘黙していたからといって、その子が場面緘黙症であると判断するのは早計です)。その後、親とともに何らかの専門機関に足を運び、そこで診断を受け、併せて発症年齢が突き止められるわけです。

「今から思い出すと、あの時期から、この子は話さなくなった」というように、本人や保護者等の記憶や記録をもとに、発症年齢が突き止められるのでしょう。しかし、発症時には場面緘黙症の診断ができる医師はその場にはいなかったでしょうし、昔のことを思い出す等するわけですから、発症年齢の突き止めには、多少不正確な部分も出てくるものと思われます。なお、多くの文献で、平均発症年齢と平均初診年齢の間に年単位の差があります。例えば椎名ら(1998)による文献調査によると、前者と後者との間に平均4.1年もの開きがあります。

■ 場面緘黙症の診断基準により、平均発症年齢が違ってくる?

場面緘黙症に関する研究は数多くありますが、そこで用いられている診断基準はまちまちです。最近の研究(特に英語圏)では、アメリカ精神医学会の DSM や、世界保健機関の ICD といった診断基準が用いられる例が多いですが、これも時々診断基準が改訂されています。

前回、日本語文献と英語文献に見られる場面緘黙症の発症年齢の比較をしましたが、このように診断基準がまちまちなので、厳密に言えば単純な比較はできません。例えば、場面緘黙症に精神遅滞を含めている文献もあれば含めていない文献もあります。

前回の記事の付録に、DSM や ICD の診断基準を採用している文献についてはその旨記載を新たに加えたのですが、特に日本語文献で、DSM や ICD の診断基準を用いずに独自の基準を用いていると思われるものが多いです。これは、付録で挙げた日本語文献が執筆された頃は、まだ DSM や ICD による場面緘黙症の診断基準がなかったり、一般的でなかったりしたためと思われます。

DSM や ICD の診断基準を用いている英語文献の報告は、日本語文献のそれと比べて平均発症年齢が低いですが、DSM や ICD の基準を用いたからといって、発症年齢が低くなるとは考えにくいです。