緘黙者への職場の理解

2010年06月22日(火曜日)

就労を考えなければならない年齢になってもなお緘黙を持ち越すと、就労に支障が出る可能性があることが想像できます。「選択緘黙が成人期まで遷延する場合は、就労など人生における新たな課題に直面して緘黙自体が初めて、あるいは改めて問題となることがある」(大村, 2006)という専門家もいます。面接で話せず採用されなかったり(大村, 2006 には、実際にこうした事例が載っています)、採用されたとしても、職場でのコミュニケーションがうまくいかなかったりすることがあるかもしれません。

だからこそ、緘黙の早期発見、早期介入が重要なのですが、それがうまくいかず、就労の時期にまで緘黙を持ち越した場合、果たしてどうすればよいのでしょうか。青年期まで持ち越した緘黙を一朝一夕に治すことは簡単ではなさそうです。

あまり会話を必要としない、黙々とできるような仕事に就くというのが、考えられる手の一つです。これについては、経済のグローバル化などにより、こうした仕事は減っているという気になる話を聞くことがあります。もっとも、これについてはしっかした根拠を私は見たことがなく、事実かどうかは分かりません。第3次産業(サービス産業)の就業者数とその割合が長期的に見て増えているのは統計で見ると明らかな事実ではありますが、では会話が必要とされる仕事がそれだけ増えているのかというと、ちょっと分かりません。

しかし、会話があまり必要でない仕事に就くことができる人ばかりとは思えません。また、どのような仕事に就くにしろ、多かれ少なかれ、職場では会話が必要な場面が出てくることでしょう。

■ ハンバーガーショップで、身ぶりサインで仕事を行った緘黙者

さて、前回お話したとおり、ある方から緘黙と職業に関する情報をいただきました。「自閉症者の職業上の諸問題に関する研究」という研究報告に、緘黙者への職業指導を行った事例が載っているというのです(梅永ら, 1998)。場面緘黙症と診断された16歳男児ユキオ君(仮名)が、「全国にチェーン店を持つハンバーガーショップM社」でアルバイト実習をしたのですが、その指導事例です。緘黙と職業に関する研究はなかなか見かけず、それだけにこれは貴重な文献です。情報をいただいたことは大変ありがたいです。

職業指導を行った主体は、はっきりとは書かれてはいないのですが、研究報告全体から推察して、前回お話した「地域障害者職業センター」と見られます。なぜ自閉症の研究で緘黙症の話が出ているのか、気になります。自閉症と緘黙症は違うものです。

この M社でのアルバイトは、通常であれば、先ほどお話したような黙々とできる仕事ではありません。ですが、ユキオ君には身ぶりサインを使うよう指導することによってコミュニケーションを図り、作業を遂行させることに成功しています。作業内容が簡易だからこうした方法がとれたなど留意しなければならない点はありますが、緘黙者でも、言語的なコミュニケーションがとれない点をカバーすることができれば、立派に仕事をこなせるのだと考えさせられます。






地域障害者職業センターに来所した緘黙者

2010年06月15日(火曜日)

場面緘黙症と職業に関する情報を、ある方からいただきました。ありがたいことです。

今回は、その中でも、いくつかの研究報告で引用されていた 日本障害者雇用促進協会(1994)「“その他”の障害者の就業状況等実態調査」 を取り上げます。場面緘黙症と診断された後に地域障害者職業センターに来所した者や、同センターに来所した者のうち、担当障害者職業カウンセラーが場面緘黙症に該当すると判断した者の就業状況等が、ここに掲載されています。

これを引用したいのですが、原典が見つからなかったので、申し訳ありませんが、小畑ら(1997)や伊達木(1996)から孫引きします。

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表 地域障害者職業センターに来所した緘黙者の就業状況等

表 地域障害者職業センターに来所した緘黙者の就業状況等

資料:小畑ら(1997)や伊達木(1996)をもとに作成。
注:「雇用された割合(%)」については、1992年と93年度に障害者職業総合センターに新規に来所したクライエントのうち、翌年度以降の就業状況等の追跡時に雇用されていた者の割合を示す(在学者は除く)。また、「法的助成の必要性」については、担当障害者職業カウンセラーに対して、場面緘黙症に法的助成の必要性の有無について回答を求めたもの。

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続・新しい緘黙の洋書

2010年06月08日(火曜日)

Helping Children With Selective Mutism and Their Parents: A Guide for School-Based Professionals新しい緘黙の洋書(中間報告)」の続編です。

以前のお話を少し繰り返しますと、今回お話しする本は、ネバダ大学ラスベガス校教授の臨床児童心理学者 Christopher Kearney 氏が著した Helping Children With Selective Mutism and Their Parents: A Guide for School-Based Professionals という本です。日本語に訳すと、『場面緘黙児とその両親への支援:学校に基礎を置いた専門家への手引き』といったところでしょうか(訳が下手で、すみません……)。

本の内容は、主に行動療法により、緘黙の子を支援する方法を具体的にまとめたものです。教師やスクールカウンセラーなど、学校関係者を対象とした本です。

■ 各章を読んだ感想

私は専門家ではなく、大したことは書けないのですが、前回お話した第2章より後の章を読んだ感想をまとめます。

○ 第3章、第4章

第3章、第4章では、ともに暴露療法(exposure)を基礎とした、緘黙の子を支援する方法が示されています。そのうち第3章では家庭を、第4章では地域や学校を舞台に、緘黙の子を段階的に発話に持っていく方法が示されています。本書の中核部分と言える章です。

第3章にある家庭訪問等の記述は、学校関係者を対象とした本だからこその内容と言えます。同じ行動療法原理で緘黙の子を示す方法を示した『場面緘黙児への支援』の場合、家庭訪問に関する記述はありません。なぜならば、保護者を対象とした本だからです。

これらの章では、リラクゼーションやソーシャルスキルトレーニングといった、類書では必ずしも触れられないこともある程度説明されており、芸が細かいです。