場面緘黙症は「障害」か

2010年11月23日(火曜日)

場面緘黙症は障害だとかそうでないとか、こうした議論を時々インターネット上で目にします。

いったいどういうものを障害と呼ぶかは、専門的な内容を含む話です。私は専門家ではないのでこの議論に首をつっこむことは避けてきたのですが、こうした話を見かけることが稀ではなくなってきているので、ここで一つ私なりの理解を少しお話します(あくまで、私なりの理解です)。

■ 「障害」には色々な意味がある

実は、「障害」という言葉は多義的です。「身体障害者」という場合の「障害」と、「場面緘黙症は情緒障害」「場面緘黙症は不安障害か」などという場合の「障害」とは、意味が違います。どういう背景でこの言葉が使われるかによっても、意味が変わってきます。

■ 英語では色々な言い方があるが、日本語では全て「障害」

英語で言えば、「インペアメント」(impairment)「ディスアビリティ」(disability)「ハンディキャップ」(handicap)などそれぞれ意味の違う言葉があるのですが、これを日本語に訳そうとすれば、どれも「障害」になり得ます。逆に言えば、日本語で言う「障害」には、「インペアメント」「ディスアビリティ」「ハンディキャップ」など様々な意味が含まれているわけです。

英語圏では、場面緘黙症は「ディスオーダー」(disorder)とされることが多いです。これも日本では普通「障害」と訳されるのですが、多くの日本人が「障害」という言葉から抱きそうな深刻なニュアンスはありません。福島学院大学の星野仁彦教授は、「日本語では『障害』と訳されるこの言葉ですが、本来の意味はもっと軽く、軽度のハンディキャップといったところでしょうか」と解説しています(星野, 2006)。また、一橋大学の宮地尚子教授によると、「disorderとは特定の理論的背景をもたないことを旨とした状態像診断であり、『病態』『望ましくない状態』という程度の意味しかない」のだそうです(宮地, 2003)。ときどき、パニック障害を「パニックディスオーダー」と横文字で表記する人がいますが、ここで言うディスオーダーもこの意味です。

■ むすび

日本語で言う「障害」には様々な意味があり、これが混乱の原因の一つになっているように感じます。場面緘黙症は確かに一つの「障害」なのかもしれません。ですがその意味は、英語で言えばディスオーダーぐらいの意味ではないかと思います。

[文献]

◇ 星野仁彦(2006)気づいて! こどものこころのSOS. ヴォイス. Retrieved from http://www.google.co.jp/search?tbs=bks:1&tbo=p&q=isbn:4899760817&num=100.
◇ 宮地尚子(2003)精神医療と日本文化:「失調」と「障害」についての一考察. こころの科学, 103, 106-111. Retrieved from http://www.soc.hit-u.ac.jp/ISGI/staff/myjp/kokoro.pdf


wikiHow「場面緘黙症を克服する方法」

2010年11月16日(火曜日)

場面緘黙症の子ども・人に対してどう対処し、発話に持っていくかをまとめた本や資料等は、専門家や保護者向けのものばかりです。緘黙の当事者本人が、自分の緘黙にどう対処なり克服なりするべきかをまとめたものは、なかなか見かけることはありません。なにやら専門家や保護者ばかりが大事にされ、肝心の当事者はないがしろにされているように感じることも私などにはあるのですが、誤った被害者意識でしょう。緘黙の当事者は幼稚園児や小学生ぐらいの年齢層の子どもが多そうですが、このことが当事者向け情報の少なさに関係していそうです。

ただ、中には青年期思春期の当事者もいるわけで、そうした年齢層の人を対象に、自ら対応する方法等をまとめる動きがもう少しあってもよさそうに思えます。一般に年齢や学年が上がれば上がるほど、保護者や学校は世話を焼いてはくれなくなるわけで、当事者自身がどうするかが問われてきます。そうした中、当事者向けの情報がこれだけないとなると、当事者としてはどうすればよいか分からなくなったり、誤った我流の対応をしてしまったりする恐れがあるのではないかと思います。

そうした中、インターネット上で、面白そうなウェブページを見つけました。ネット上の共同執筆プロジェクトwikiHowの英語版にある、"How to Overcome Selective Mutism"(場面緘黙症を克服する方法)というページです。様々な人を対象に緘黙の克服方法をまとめているのですが、特にある程度の年齢層の当事者を最も念頭に置いているような記述です。

How to Overcome Selective Mutism新しいウィンドウで開く

exciteによる機械翻訳ページ新しいウィンドウで開く

一言で言えば、『場面緘黙児への支援』などで紹介されている行動療法を、自分自身でやって御覧なさいという内容だろうと私は解釈しました。芸がないようにも思えますが、既にある程度確立された方法を援用しているとも言えます。仮に私がこのwikiHowを編集するとしても、同じようなことを書くでしょう。全て自分で解決を図ろうとするのではなく、症状が重ければ専門家の助けを得るよう助言している箇所などは、好感が持てます。

わりとよくまとめられていますし、一見の価値はあろうと思うのですが、専門家が執筆したものかどうかはよく分かりません。悪く言えば、ただのネット情報(場面緘黙症Journal もそうですが……)。専門家の手によるものも読みたいです。


緘黙の研究に、補助金が交付される

2010年11月10日(水曜日)

Twitter でも書きましたが、場面緘黙症に関するある研究課題が、2010年度の科学研究費補助金(科研費)に採択されたそうです。情報源は、科研費データベース「KAKEN」のウェブサイトです。

科研費は、文部科学省と独立行政法人日本学術振興会が交付を行っている補助金です。独創的、先駆的研究に対して助成を行う制度です。採択されるには、研究者が研究課題を申請した上で、審査を通らなければなりません。ここ数年の傾向を見ると、科研費への新規応募件数は毎年およそ5万件、継続応募件数を合わせると10万件以上あります。しかし、応募をしてもむしろ採択されないことの方が多いようです。そんな中、今回の緘黙の研究課題が採択されたのです。

科研費の詳しい説明
(新しいウィンドウで開く)

↑ 文科省ホームページへのリンクです。

緘黙に関連した研究課題が科研費の採択を受けた例は過去にもあるのですが、緘黙を主題とした研究課題が採択された例は、少なくとも私ははじめて知りました。「KAKEN」のウェブサイトで検索をしても、過去に緘黙を主題とした研究課題で科研費がおりた例は、今回以外では出てきません。もしこれが初めてだとしたら、よく分からないのですが、もしかするとこれは大きなことかもしれません。

今回の研究課題は、「挑戦的萌芽研究」として採択されています。「独創的な発想に基づく、挑戦的で高い目標設定を掲げた芽生え期の研究」として、この緘黙に関する研究課題が認められたということでしょう。それにしても、この「萌芽研究」とはどう解釈すればよいのか私には分かりません。緘黙の研究そのものがまだ芽生え期にあるという意味なのか、それとも別の意味なのか。

科研費の採否には様々な要素が絡むそうですが、緘黙の研究は意義が大きいから補助金がおりたということであれば嬉しいところです。このあたりどうなのでしょう。

[関連サイト]

◇ KAKEN新しいウィンドウで開く
※ KAKEN は、国立情報学研究所が提供するサービスです。