大学が緘黙学生を支援した例

2011年03月29日(火曜日)

日本学生支援機構が主宰する「障害学生支援についての教職員研修プログラム開発事業検討委員会」が、『障害学生修学支援事例集』という教職員向け資料をまとめ、平成21年3月に刊行しました。

この資料の中で、緘黙の大学生を支援した事例が3例紹介されています。261ページと279ページです。

http://www.jasso.go.jp/tokubetsu_shien/documents/daigaku06.pdf
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↑ PDFファイルです(866KB)。PDFを閲覧するにはAcrobat Readerが必要です。Acrobat Readerはこちら(新しいウィンドウで開く)からダウンロードできます。

なお、上の報告書の他の部分は、次のページ内「6.障害学生修学支援事例集」からダウンロードできます。

http://www.jasso.go.jp/tokubetsu_shien/kentouiinkai.html#zirei
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場面緘黙症の大学生としては、こうした支援を受けられると助かるでしょう。ただ、このような支援を受けていない学生、あるいは受けずに学生生活を送ったという人は多いだろうと思います。ここで紹介されている事例は、一体どういう経緯でこうした支援を受けることができたのか、気になります。

この資料からはまた、場面緘黙症により学業に支障をきたしている人は、大学生にもいることが分かります。場面緘黙症は、幼稚園児や小学生だけの問題ではありません。

※ JASSOへのリンクについて

ここで取り上げた『障害学生修学支援事例集』は、独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)内のものです。同サイトによると、「JASSOサイトのホームページ(http://www.jasso.go.jp)へのリンクは、ご自由に設定ください。その他のコンテンツは、予告なく削除、修正およびURLが変更される可能性があります」とのことですが、ここではアクセスのしやすさを優先して、トップページではなく、敢えてサイト内の pdf ファイルにリンクを貼っています。


全緘黙という診断名がないことについて

2011年03月22日(火曜日)

「アニマルセラピーやってます♪」の【エル】さんが、全緘黙という診断名はないと書いていらっしゃいます。

全緘黙って言う診断名は無いんだって!!!
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「アニマルセラピーやってます♪」によると、WHO(世界保健機関)のICD10(国際疾病分類第10版)には、選択性緘黙は載っているものの、全緘黙は載っていないそうです。

ですが、これはICD10だけの話でありません。米国精神医学会のDSM-IV-TR(精神疾患の分類と診断の手引第4版用修正版)についても同様で、選択性緘黙は載っているのですが、全緘黙は載っていません。

ただ、全緘黙症は、学術論文でも稀ではありますが見かけることがある言葉です。英語圏の学術文献でも、total mutism(全緘黙症)という言葉を稀に見ます。

■ 英語圏の緘黙支援団体等の組織名は、どれも場面緘黙症のみ

英語圏の緘黙症支援団体や緘黙症クリニックは、どれも場面緘黙症(selective mutism)という言葉を組織名に含めています。例えば、Selective Mutism Group とか。ですが、少し意地悪な見方をすると、これだと全緘黙症(total mutism)はカバーしていないともとれます(実際は、全緘黙症の子・人も支援しているのでしょうが)。

どうして英語圏ではこうした組織名ばかりなのでしょうか。これは、もしかすると、全緘黙症という診断名がないことが影響しているのではないかと私は思います。

私などは、単に Mutism Group などとしてもよいような気もします。ただ、これだと akinetic mutism(無動無言症)などとの明確な区別はつかないという難点は残ります。

日本の緘黙支援団体は、「かんもくネット」とか「かんもくの会」など、場面緘黙症も全緘黙症も両方カバーしている団体名で、うまいものだと感心します。このサイトは場面緘黙症Journal という名称ですが、これでいいのでしょうか。


ひきこもりガイドラインで緘黙が言及されたのは、なぜか

2011年03月15日(火曜日)

東日本大震災、極めて深刻な被害状況に大変胸を痛めています。被災者の方のご無事を祈っています。

* * * * * * * * * *

本題です。

以前にもお話しましたが、厚生労働省の研究班がまとめた「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」が、2010年5月19日に公表されました。そして、このガイドラインでは「ひきこもりと関係の深い精神障害とその特徴」の一つに、「対人恐怖的な妄想性障害(醜形恐怖、自己臭恐怖、自己視線恐怖)や選択性緘黙など児童思春期に特有な精神障害」が挙げられていました。選択性緘黙は、場面緘黙症のことと考えて問題ありません。

ところで、どうして場面緘黙症が「ひきこもりと関係の深い精神障害」の一つとして挙げられたのでしょうか(扱いは小さいですが)。私はこれをずっと疑問に思っていたのですが、その大きな手がかりとなりそうな資料を見つけました。

■ ひきこもりガイドライン作成の基礎となった研究

実は、このひきこもりガイドラインの作成は3年計画で進められ、毎年研究報告書が発表されてきました。『思春期のひきこもりをもたらす精神科疾患の実態把握と精神医学的治療・援助システムの構築に関する研究』といいます。その3年目の報告書が、今月厚生労働科学研究成果データベースで一般公開されました。

■ ひきこもり実態調査で、選択性緘黙が148件中1件

報告書では様々な研究成果が掲載されていますが、その中で、「思春期ひきこもりにおける精神医学的障害の実態把握に関する研究」(近藤ほか, 2010)に、緘黙についてわずかではありますが言及がありました。

それによると、全国5ヶ所の精神保健福祉センター・こころの健康センターで受け付けたひきこもりケース(初回来談時16-35歳)のうち、本人が来談した184件について精神医学的診断(DSM-IV-TRによる多軸診断)を行うなどしたところ、診断が確定した148件のうち、「選択性緘黙」の診断が1件だったというのです。

この研究結果などをもとに、ひきこもりガイドラインが作成されています。そうすると、もしかすると、実際に「選択性緘黙」の診断が下されたひきこもりケースが1件存在したことが、ガイドラインに「ひきこもりと関係の深い精神障害」として選択性緘黙が小さく取り上げられたことと深く関係しているのかもしれません。

ただ、ひきこもりでない16-35歳の人であっても、選択性緘黙と診断される人も中にはいるでしょう。ひきこもり148人中1人が緘黙というのは、多いと見てよいのかどうか私には分かりません。また、ひきこもりの人が緘黙だったからといって、それを直ちにひきこもりの原因と見てよいのだろうかと思います。このあたり、報告書を読むだけでは私には分かりません。ひきこもりガイドラインで緘黙が言及されたのには、他にも何か根拠があるのかもしれません。

[関連ページ]

◇ 「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」の公表について
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↑ 厚労省ホームページへのリンクです。

[文献]

◇ 近藤直司, 清田吉和, 北端裕司, 黒田安計, 黒澤美枝, 境泉洋, 富士宮秀紫, 猪俣夏季, 宮沢久江, 宮田量治. (2010).思春期ひきこもりにおける精神医学的障害の実態把握に関する研究. In 齋藤万比古 (Eds.), 思春期のひきこもりをもたらす精神科疾患の実態把握と精神医学的治療・援助システムの構築に関する研究 (pp. 67-86). Retrieved from http://mhlw-grants.niph.go.jp/niph/search/NIDD00.do