モデルになった緘黙少女(英)

2011年07月26日(火曜日)

イギリスのニュースサイトに、場面緘黙症だった少女(12)がモデルになったという話が掲載されました。テレビで美人コンテストを見ていたところ、自分もぜひやってみたいと言い出し、参加したのがモデルになるきっかけだったそうです。この少女は、これをきっかけに緘黙を克服したようです。

これは明るいニュースです。特に、自分がやりたいと思ったものに挑戦して、その過程で緘黙を克服できたというのが面白いと感じます。

ただ、紙面の都合ゆえか、記事の書き方がややあっさりしています。このため、私などには疑問がたくさんわいてきます。例えば、この少女が美人コンテストに参加したいと考えた動機です。本当にモデルに魅せられただけなのでしょうか。私の考えすぎかもしれませんが、緘黙の子が自らコンテストに参加しようとするのはよほどのことでしょうから、それだけに深く考えてしまいます。

また、親御さんについても、もう少し知りたかったです。特に、緘黙の娘さんが美人コンテストに参加したり、モデル事務所と契約したりする際、どういうことを考えていたのでしょうか。

それから、緘黙の少女がモデルになるまでに、どれだけの苦悩、努力、葛藤があったのかも気になります。それとも、そうしたことはあまりなく、ただ面白さだけで続けていたところ、いつの間にか緘黙を克服し、トップレベルのモデル事務所と契約するほどになっていたということなのでしょうか。

なんにせよ、興味をひかれる明るいニュースです。

最後に、記事の中で場面緘黙症が Selective mutism is a disorder affecting both children and adults, but mostly children. と解説されているのが目にとまりました。訳すと、「場面緘黙症は子どもと大人の双方を冒す障害ですが、ほとんどの場合子どもに影響を及ぼしています」といったところでしょうか(訳が下手でスミマセン)。場面緘黙症は子どもだけでなく、大人にもあるということがはっきりと書かれています。

[文献]

◇ Shy schoolgirl overcomes selective mutism to land modelling contract. (2011, July 16). Walesonline.co.uk Retrieved from http://www.walesonline.co.uk/news/wales-news/2011/07/16/shy-schoolgirl-overcomes-selective-mutism-to-land-modelling-contract-91466-29062727/

◇ Morgan, T. (2011, July 16). 'Too shy to takl' girl who is now a big noise as a model. Express.co.uk Retrieved from
http://www.express.co.uk/posts/view/259099/-Too-shy-to-talk-girl-who-is-now-a-big-noise-as-a-model


「子どもの心の診療医」の養成

2011年07月19日(火曜日)

「子どもの心の診療医」を養成するべく、厚生労働省で検討会が立ち上げられ、2007年に報告書がまとめられました。4年も前のことですが、私は最近知りました。子どもの心の診療医が扱う範囲には、場面緘黙症(選択性緘黙)も含まれます。

近年、発達障害や児童虐待など、子どもの心に関する問題が重要さを増しています。ところが、こうした問題に対応できる専門医の数は、日本には限られているそうです。そこで、子どもの心の診療医を養成・確保するための方策について提言を行ったということです。

ときどき、緘黙のことで医師に相談受診したけれど不満だったという声を聞くことがあります。今回の厚労省の動きを思い起こすと、もしかしたら、子どもの心に関する専門家が少ないことが関係しているのではないかとも思えてきます。

検討会の報告書がまとめられてから4年経ちますが、子どもの心の診療医の数は増えたのでしょうか。厚労省の『「健やか親子21」第2回中間評価報告書』によると、「児童精神医学分野に取り組んでいる小児科医もしくは精神科医の数」は次のように推移しています。

13.6人(2005年)→10.6人(2010年) (小児人口10万対)

減っているのですが……。厚労省のこの対策がなければ、もっと減っていたと受け止めればいいのでしょうか。

なお、検討会の成果の一つに、子どもの心の研修医のためのテキストの作成・配布があります。テキストは3種類ありますが、いずれにも緘黙について解説がなされています。小林母子厚労省保健課長補佐(当時?)の話によると、このうち「一般小児科医のための子どもの心の診療テキスト」は1万9,000部ほど印刷され、日本小児科学会の全会員に配付されたそうです。 また、「一般精神科医のための子どもの心の診療テキスト」は、日本精神神経学会の全会員約1万3,000人に配付されたそうです。これを機に、緘黙について理解が深まったのならいいのですが。

[関連リンク(すべて厚労省HPへのリンクです)]

◇ 『「子どもの心の診療医」の養成に関する検討会』報告書(概要)新しいウィンドウで開く
◇ 「子どもの心の診療医」テキスト新しいウィンドウで開く


場面緘黙症と広汎性発達障害の鑑別

2011年07月12日(火曜日)

このブログでは、時々緘黙症の論文を取り上げています。私は専門家ではないのですが、自分自身の勉強も兼ねて。今回はこれです。

◇ 渡部泰弘,榊田理恵 (2009). 自閉症スペクトラムの観点から検討した選択性緘黙の4例. 児童青年精神医学とその近接領域, 50, 491-503.

■ 概要

場面緘黙症と診断される患児の一部には広汎性発達障害(以下、PDDと略す)または自閉症スペクトラムが存在することを明らかにしています。

■ 所感・所見

私は日本の緘黙に関する文献を読んでいますが、近年、発達障害とのかかわりに関するものを目にするようになってきました。今回の論文もその一つです。

◇ 緘黙と PDD の鑑別

DSM-IV-TR や ICD-10 というよく用いられる診断基準によると、場面緘黙症(診断基準では「選択性緘黙」)とみられる症状があっても、PDDの診断基準に当てはまる場合は、場面緘黙症ではなく PDD と診断されます。このため、場面緘黙症とPDDの鑑別が重要になってきます。

緘黙のような症状がみられた場合、もしかしたら PDD を併せ持っていないか、疑ってみた方がよさそうです。もし併せ持っていた場合、それは PDD の二次的症状による緘黙であり、不安がもとの場面緘黙症とは違うという話になります。こうなると、支援の方法も変わってきます。実際のところ両者の鑑別を行うのは専門家ですが、この論文によると、鑑別には困難を伴うことが多いようです。はっきりしない場合、両方の可能性を視野に入れることも必要になってくるかもしれません。

◇ PDD の概念が普及する前に緘黙と診断された子

それから、1979年に荒木富士夫氏や大井正己氏らが場面緘黙症の分類を試みた論文が発表されたのですが、この論文では、これら分類の検討を行っています。著者は、当時緘黙の一分類とされたグループは、今日で言うところの自閉症スペクトラムの一部ではないかと指摘しています。荒木氏や大井氏らの論文は、PDD の概念が普及する以前に発表されたものなのだそうです。

そうすると、過去の緘黙に関する論文や書籍を読む際には、注意が必要ではないかと私などには思えてきます。今日では PDD と診断されるような子が、緘黙児として論文や本で扱われた例があるのではないかと私は考えてしまいます。


なお、場面緘黙症と PDD の鑑別については、かんもくネット代表の角田圭子氏も『児童心理』2011年3月号などの中で、掘り下げた考察を行っています。