裁判を受けた場面緘黙症の青年

2012年02月21日(火曜日)

季刊 刑事弁護69号「選択性緘黙が問題となった裁判員事例」と題する論考が、『季刊刑事弁護』No.69(最新号)に掲載されました。

当初、私は題名から判断して「場面緘黙症の人が、裁判員に選ばれた話かな」と思い、Twitter でもそう書きました。ですが、違いました。正しくは、刑事裁判の被告人(起訴当時21歳)が場面緘黙症でした。記事によると、裁判所による本鑑定の結果、被告人は自閉症を有するとともに、精神遅滞および選択性緘黙(場面緘黙症)を診断されたのだそうです。

私は裁判のことはよく分からず、今回の論考について論評したり、もしくは、今回の論考の論点、つまり、裁判員裁判において訴訟能力はどのように取り扱われるべきかについて専門的な議論をしたりすることはできません。

ただ、素朴な疑問ですが、もし場面緘黙症の人が裁判員に選ばれたり、裁判の被告人になったりしたら、どうなるのだろうかということを考えました。

「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」(略称:裁判員法)の第14条は、裁判員としての欠格事由の1つに「心身の故障のため裁判員の職務の遂行に著しい支障がある者」という項目を挙げていますが、これは緘黙の人には当てはまるのでしょうか。また、辞退事由の1つに「重い疾病又は傷害により裁判所に出頭することが困難であること」などが挙げられていますが、緘黙を理由に裁判員を辞退することは、やはりできないのでしょうか。もし裁判員を務めなければならなくなった場合は、どう裁判員を務めればよいのでしょうか。

また、訴訟能力については、民事訴訟法第34条に「訴訟能力、法定代理権又は訴訟行為をするのに必要な授権を欠くときは、裁判所は、期間を定めて、その補正を命じなければならない」云々と規定されていますが、もし緘黙の人が被告人になったとき、補正が行われる見込みはどの程度あるのでしょうか。そして、今回の論考で取り上げられたように、もし緘黙であるにもかかわらず訴訟能力に問題はないと判断された場合、被告人はどこまで支障なく裁判を受けることができるのでしょうか。本当は無罪なのに、緘黙が原因で思うように防御ができず、結果的に有罪の判決が下りようものなら、たまったものではありません。

[文献]

◇ 金岡繁裕. (2012). 選択性緘黙が問題となった裁判員事例. 季刊刑事弁護, 69, 169-171.


緘黙克服に役立つアプリ?「おしゃべり猫のトム」

2012年02月14日(火曜日)

「おしゃべり猫のトム」(Talking Tom Cat)という、iPhone、iPod touch、iPad、Android に対応した、世界的に非常に人気のある無料アプリがあります。話した言葉をおかしな声でおうむ返しするアプリだそうです。このアプリが、英語圏の緘黙関係ウェブサイトで(ごく静かな)話題になっています。

↓ iPad で「おしゃべり猫のトム」で遊んでいる動画。英語ですが、英語が分からなくてもアプリの機能を知るには十分な動画です。
Talking Tom Review - YouTube
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この「おしゃべり猫のトム」がどういうアプリか、私も実際に使ってみようかと思ったのですが、できませんでした。その理由は簡単で、私はスマートフォンも iPod touch も iPad も持っていないからです。時代に乗り遅れてます……。というわけで、実際にどういうものかは私には分からないのですが、ネット上の記述やYouTubeで公開されている数々の動画を参考に、今回の記事を書きます。

これは、『場面緘黙児への支援』『場面緘黙へのアプローチ』などで紹介されている「トーキング・トイ」(talking toys)の一種ではないかと思います。トーキング・トイは、録音・再生機能のあるおもちゃです。このおもちゃにより、緘黙の子が自分自身の声を聞いたり、他の人たちに自分の声を聞いてもらったりすることに慣れる効果が期待されます。そうなると、緘黙の克服に一歩前進です(トーキング・トイについては、上記の本にもう少し詳しい説明があります)。

「おしゃべり猫のトム」は、話した人物の声とは違う声でおうむ返しをするようなので、自分の声そのものを再生するものに比べると敷居は低いように私には思えます。

なお、類似のアプリに、「おしゃべり猫のトム2」「おしゃべりキリンのジーナ」「おしゃべり鳥のラリー」「おしゃべり恐竜のレックス」「おしゃべりオウムのピエール」などがあります。

[関連サイト]

◇ App Store - おしゃべり猫のトム - Talking Tom Cat
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◇ App Store - おしゃべり猫のトム 2 - Talking Tom Cat 2
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春日武彦『緘黙―五百頭病院特命ファイル―』という本が出たが

2012年02月07日(火曜日)

緘黙: 五百頭病院特命ファイル (新潮文庫)新潮文庫より、『緘黙―五百頭病院特命ファイル―』(春日武彦作)という本が2012年2月1日に発行されました。なにしろ『緘黙』と題する本です。加えて、冒頭の解説ページには、「全緘黙」や「選択性緘黙」といった用語が出てきます。手を伸ばしてみたくなる本ですが、実はこの話の内容は、私がここで扱っている不安などがもとの緘黙症とは関係ありません。

『緘黙―五百頭病院特命ファイル―』は、精神科医の作者による初の小説です。文庫本ですが、書き下ろしです。なにしろ新潮文庫ですから、全国の書店にかなり広く流通しているのではないかと思います。インターネット上でも関連ページが数多く、メジャーなニュースサイト「msn産経ニュース」には書評が出ています。

ですが、「緘黙」には、様々な意味があります。単に押し黙っていることを意味する場合と、医学的な状態を意味する場合の、大きく二つに分かれます。後者も、統合失調症が背景にある緘黙の場合、発達障害が背景にある場合、不安がベースにある場合ほか、様々な場合があります。ですが、場面緘黙症と言うときの「緘黙」は、少なくとも統合失調症を背景とした緘黙とは別のものと考えるのが一般的ではないかと思います。

今回の本で取り上げられた「緘黙」は、説明が難しいのですが(ネタバレになっていまうので……)、統合失調症による緘黙を意識した内容です。『緘黙』というタイトルにひかれて読んでみたくなる本ですが、私がここで取り上げている不安などがもとの、主に子どもで問題になる緘黙とは関係ないストーリーなので、ご留意を。

ところで私は、この本の出版により、検索エンジンで「緘黙」と検索する人が増え、場面緘黙症Journalに間違って訪問する人が増えるのではないかと密かな期待をしていました。本の内容とは無関係とはいえ、本がきっかけでこのサイトにアクセスする人が増え、それが場面緘黙症の認知度向上や私の広告収入の増加につながればうれしい話です。ところが、実際は、訪問者数は全くといっていいほど増えてはいません。なかなかうまい話はないものです。