なぜ私は相談に満足に答えられないか

2012年09月25日(火曜日)

「場面緘黙症や全緘黙症のお子さんをお持ちで、対応にお困りの保護者や教師の皆さん。この富条(ハンドルネーム)がご相談に乗ります!どしどしメールをお寄せください!!」

……というようなことを書いた覚えは一度もありません。ですが、初めての方から、「教えてください」「お願いします」等々のご相談のメールをいただくことがあります。

場面緘黙症Journal 掲示板でも、初めて掲示板を利用するという方から、アドバイスを求めるご相談の書き込みを何度もいただいています。

それだけ、緘黙児支援で悩む方が多いということでしょう。見ず知らずの方とはいえ、丁寧な筆致で相談に乗ってほしいというメッセージを寄せられてはなんとか力になりたいと思うのが人情というものです。「私は専門家ではないので、専門的な見地からアドバイスを差し上げることは申し訳ありませんができないのですが……」などと断りながら、立場上遠慮がちに、分かる範囲でお答えしています。ただ、掲示板の場合、私よりも上手に回答できる方がいれば、そうした方にしばしば回答をゆずっています。

ですが、大抵はどうお答えすればよいか分からず、頭を抱えてばかりです。相談例の多くは、行き詰まって打開策が見出しにくい状況にあるもので、そのような難題に、私のような者が容易に回答できるはずもありません。結局、誰でも調べれば分かるような一般論を述べたり、かんもくネットさんの資料など有益な情報源を紹介したりするにとどまっているような気がします。

ですが、どうして満足な回答ができないのか、もう少し深く考えてみることにしました。






緘黙の理解に役立つ絵本(英)

2012年09月18日(火曜日)

My Friend Daniel Doesn't Talk今回は、英国から出ている場面緘黙症を理解するための絵本について書きたいと思います。

■ 基本情報

絵本の題名は My Friend Daniel Doesn't Talk です。2006年に発売されています。発売元の Speechmark Publishing は言語療法、精神保健、高齢者介護、特別支援教育などの分野で書籍を刊行してきた出版社です。同社は、英国では緘黙児支援のバイブルとも呼ばれた The Selective Mutism Resource Manual を世に出した実績があります。

文章を担当した Sharon L. Longo 氏は教師で、緘黙のお子さんをお持ちなのだそうです。また、絵は Jane Bottomley 氏という方が描いています。

■ 内容

この絵本は、緘黙を知らない子ども(対象年齢4~8歳)向けに、緘黙児の理解に役立つよう作られたものです。新しいクラスに入った Daniel という緘黙の少年を、その友達となった Ryan という少年(主人公)の視点から描いています。

全28ページのうち、絵本の部分は23ページです。見開き左ページが文章、右ページが絵という構成です。最後の4ページには、親や教師に向けた緘黙の簡単な説明や、関連書、緘黙児を支援する団体などのリストがあります。

■ 感想

これはあくまで子ども向けの絵本で、実際のところ子どもがこれを読んでどう感じるかは私のようなオッサンには知る由もありません。ですが、クラスメイトの視点から緘黙児を描くという方法がとられているので、子どもは感情移入しやそうです。反面、緘黙の少年の内面が直接描かれず、そうしたものは、緘黙の少年の行動や表情(絵本なので、絵から表情は見て取れます)といった外見上見て取れるものを通じて窺い知るほかありません。ですが、私は、これはクラスメイトから緘黙児を見るとどう映るかをよく表していると思います。

結末は、劇的なハッピーエンドではありませんが、現実的なもので、緘黙のクラスメイトとともにどう歩んでいくかの一つの答えを示しており、好感が持てます。

私が印象に残ったのは、緘黙の少年を "so cute!" 云々と言った Jessica という少女です。彼女の登場は緘黙少年の状況が好転するきっかけの一つになるのですが、それにしても緘黙の少年を "so cute!" と言う少女の奇抜な発想は、個人的に心当たりがあります。

なお、日本にも緘黙を理解するための絵本『なっちゃんの声ー学校で話せない子どもたちの理解のために』があります。ページ数もほぼ同じで、(元)緘黙児の保護者が作者という点も共通しています。一方で、違いもあります。特に大きな違いは、今回の英国の絵本はもっぱら友達の視点から緘黙の子が描かれているのに対し、『なっちゃん』はそうではない点です。特に『なっちゃん』の前半部は緘黙の子寄りの視点で描かれていて、緘黙の子の内面がよく分かるようになっています。


緘黙児を助けた猫、National Cat of the Yearに選ばれる(英)

2012年09月11日(火曜日)

英国で場面緘黙症の少年が、ある猫のおかげで症状が改善し、さらにはその猫が猫愛護団体が選ぶ National Cat of the Year に選ばれたというニュースが、7~8月にかけて、英国のメディアで話題になりました。

この緘黙の少年は、家の外では話ができない上、家族に対して感情表現をすることもできず、"I love you mummy" とさえ言えなかったそうです。それが、ある猫(バーマンという品種)を飼うと、この猫とスキンシップが取れるようになり、猫に "I love you" と言うようになったというのです。さらにはよく知らない人とコミュニケーションをとるようになったり、教師の前で本を読み上げることができるようになったりしたとのことです。

このニュースは英国ではかなり取り上げられました。私が見つけた電子版のニュースで、主なものを挙げると以下の通りです(上の2つは、受賞前の記事)。

○ Daily Mirror(7月18日)
○ Daily Mail(7月18日)
○ Huffington Post(8月16日)
○ BBC(8月17日;マンチェスターの地方ニュースかもしれません)

この話に関する動画は YouTube に投稿され、Daily Mirror と Daily Mail のウェブサイトで紹介されたのですが、既に11万回を超える再生回数を記録しています(2012年7月16日公開動画、再生回数は2012年9月11日現在)。動画の中では場面緘黙症に関する概説がなされているので、延べ11万人以上が、この動画を通じて場面緘黙症の説明を聞いたことになります。

その動画 "Cats Protection National Cat Awards 2012 finalists: Jessi-Cat"
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少年の母親によると、特別な支援が必要な子どもにとって猫はとてもよいと考えたから猫を飼ったとのことですが、私としては、野暮でしょうが、専門家にこのあたりのところを詳しく聞きたいところです。私の妙な性分で、こうした話でも、学術的にはどう説明できるかを知りたくなってしまいます。人と接することが苦手でも動物となら、という子はいるかもしれないとは漠然と思います。

[文献]

◇ Boy's Best Friend Jessi-Cat named National Cat of the Year 2012. Cats Protection. http://www.cats.org.uk/news/jessi-cat-national-cat-of-the-year-2012

◇ Byrne, P. (2012, July 18). Kitty chat: Boy too anxious to speak finds his voice thanks to his pet cat. Mirror Online. http://www.mirror.co.uk/news/uk-news/cat-helps-boy-to-speak-seven-year-old-1148408

◇ Daily Mail Reporter. (2012, July 18). How a boy with anxiety disorder which stops him saying 'I love you' was taught to show emotion. . . by his cat. Mail Online. http://www.dailymail.co.uk/health/article-2175416/Boy-say-I-love-disorder-taught-emotions--pet-cat.html

◇ Nelson, C, S. (2012, August, 16). Lorcan Dillon, Child With Selective Mutism, Learns To Speak Thanks To Family Pet Jessi-Cat. The Huffington Post. http://www.huffingtonpost.co.uk/2012/08/16/lorcan-dillon-selective-mutism-jessi-cat-_n_1789426.html

◇ Pet named Cat of Year for helping boy with selective mutism. (2012, August, 16). BBC News. http://www.bbc.co.uk/news/uk-england-manchester-19296253