なぜ今、緘黙が取り上げられるのか

2015年06月30日(火曜日)

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なぜ今?


「なぜ今、場面緘黙症なのか」

緘黙をテーマにした『産経新聞』の記事が mixi で話題になった2013年12月、ある教育関係者がこういう感想を mixi日記に書いていたのを見た覚えがあります。なにぶん前の話なので、あいにくどなたの日記だったかは分かりません。

※ 当時、この産経の記事は mixi のアクセス数ランキング、話題数ランキングで1位になりました。


ここ何年かの間で、緘黙がメディアで取り上げられることが増えてきています。ですが、そう言えば、なぜ今なのでしょうか。

もしかしたら、緘黙児・者がここにきて増えているからでしょうか。これは調査が行なわれていませんし、はっきりしたことは分かりません。実感として増えているという声も聞いたことがありますが、そうした認識は特に広まってはいないようです。

だいたい、緘黙児・者は少なくとも数十年前にも相当数いたようです。例えば、岩手大学の山本実教授(故人)は1980年代後半、自著『「緘黙」への挑戦』の購読者を対象に緘黙の手記の執筆を依頼したところ、270件余りもの手記が返ってきたそうです(北野、2013)。

もしかしたら、緘黙が取り上げられやすい時代背景があるのでしょうか。例えば、近年、発達障害への関心が高まったり、メンタルヘルスに関する問題が以前に比べて語られやすくなったり、学校教育でコミュニケーションが重視されるようになったりしています。確かに、それはあるかもしれません。緘黙を初めて知った人の一部から「また新しい病気か」という誤解の声がよく上がることからも、緘黙のような問題が取り上げられやすい時代背景があることが窺えます。

緘黙当事者らの「緘黙を知ってほしい」という声が、膨らんだからでは


ですが、それよりも大きいのは、インターネットの普及と緘黙支援団体の誕生をきっかけに、緘黙の当事者、経験者、保護者らの「緘黙を多くの人に知ってほしい」という声が、ここにきて膨らんだからではないかと私は見ています(なお、緘黙の認知度が上がってほしくないという当事者らもいます)。私はその過程を10数年にわたって見てきています。

インターネットは1990年代後半から2000年代前半にかけて普及が進み、これにより、個人でも容易に情報発信ができるようになりました。2000年代初頭には緘黙を扱ったホームページが現れるのですが、その中で「緘黙のことを多くの人に知ってほしい」という緘黙の当事者、経験者、保護者らの声が上がるようになっていきました。

すると、こうしたホームページを見て、自分が緘黙であること、かつて緘黙だったこと、子どもが緘黙であることに気付く人が増え、こうした人たちも加わって、さらに「緘黙の認知度がもっと上がって欲しい」という声が膨らみます。

そして、インターネット上でのやりとりを背景に、2000年代後半に緘黙の理解促進などを目的とする支援団体が生まれ、会員数を伸ばしていきます。特に「かんもくネット」が誕生してからは、メディアで緘黙が取り上げられ、緘黙支援団体が取材を受けることが増えていきました。緘黙の啓発に熱心な支援団体が生まれたこと、そして支援団体誕生に際して、緘黙に関心を持つ専門家が現れたことは大きかったと思います。

こうして緘黙がメディアで取り上げられると、緘黙を初めて知る当事者、経験者、保護者らが増え、さらに「緘黙がもっと認知されて欲しい」という声が膨らみます。これを背景に、緘黙がまたメディアで取り上げられるようになります。そして現在に至る、というのが私の見方です。

もっと前から取り上げられてもよかった


ただ、緘黙が積極的に取り上げられるのは、別に今でなくても、もっと以前からでもよかったのではないかと私などは思います。昔は緘黙の認知度が低すぎて緘黙を知らない当事者、経験者、保護者らが今よりも多かったり、もっと遡ると、インターネットが普及しておらず当事者、経験者、保護者らが声を発信しにくかったりして、「緘黙を知って欲しい」という声が表面化していなかったのかもしれませんが、緘黙児・者は昔からいたのです。

昭和の時代に周囲の無理解で悩んだ元緘黙児が、大人になって「緘黙のことを広く知ってもらいたい。今でも無理解で苦しんでいる子がいる」として、何らかの情報発信をすることは珍しくありません(話題のコミックエッセイ『私はかんもくガール』もそうです)。それが、何十年もたった今になってやっと緘黙の理解を促す内容の新聞記事やテレビ番組が出ている状況です。ですが、たとえ遅くても、取り上げられることはよいことだと思います。

お知らせ


場面緘黙症Journal の従来型掲示板は、掲示板レンタル元により、6月4日(木)に閉鎖されました。そこで、閉鎖された旧掲示板の過去ログの公開を考えています。過去ログ公開にあたっては、「過去ログに残してほしくない方がいらっしゃれば、お手数ですが、ご連絡ください」とのお断りを添えるつもりです。

現在のところ、7月初旬~上旬を目処に、過去ログ公開の方向で準備を進めています。ただし、反対のご意見を多くいただけば過去ログ公開を考え直します。

文献


◇ 北野慶(2013)『あなたの隣の話さない人-緘黙(かんもく)-って何?』Amazon Services International, Inc.

スモールステップの取り組み、短期集中か長期コツコツか

2015年06月23日(火曜日)

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米国で広まりを見せる短期集中的支援


易しい場面から少しずつ発話に慣れるようにもっていく「スモールステップの取り組み」。行動療法と呼ばれるもので、近年、『どうして声が出ないの?マンガでわかる場面緘黙』など、子どもの場面緘黙症をテーマとした本では高い頻度で取り上げられています。

この取り組みは、例えば夏休みなどを活用して丸々1週間短期集中的に行うのと、週に1度コツコツと行なうのと、どちらが効果的なのでしょうか。といっても、緘黙児も子どもによって様々ですし、取り組みを行なう側の事情もあり、一概には言えない部分もあるかもしれませんが、一般論として、支援の効果はどちらが高いのでしょうか。

米国では、ここ数年、緘黙児への短期集中的行動療法プログラムについての情報が増えてきています。行動療法は欧米が盛んで、近年の日本での行動療法ブームも欧米の手法を輸入したところから始まったものなので、私としては気になる動きです。

米国で最大の緘黙支援団体 Selective Mutism Group の前代表(前理事長?)Aimee Kotrba 博士は、集中プログラムの有効性を高く評価する専門家の一人です。緘黙児の発話練習にはウォーミングアップに時間がかかりがちなのですが、集中的に行なうと、その時間を短縮できるというのです。

Kotrba 博士は最近著書を出したのですが、この中で集中プログラムについて詳しく述べています(Kotrba, 2015)。それによると、集中プログラムはそれを実施する環境によって3つに分類されます。

● 専門家のオフィスで行なうもの
● 学校場面に似せた状況で行なうもの
● 学校場面で行なうもの

特に近年広まっているのが、学校場面に似せた状況で行なう集中的支援


このうち、2つ目の学校場面に似せた状況で行なう集中プログラムは、ここ数年、米国で広まりを見せています。これは2009年頃に児童心理学者の Steven Kurtz 博士が始めて行なったもののようなのですが、現在では私が確認しただけでも、ここ1年前後で次の7つの施設で行なわれていた、ないし行なわれる予定です。

○ Adventure Camp(実施施設:Advanced Therapeutic Solutions)
○ Brave Buddies(実施施設:Child Mind Institute)
○ Brave Bunch(実施施設:フロリダ国際大学子ども・家族センター)
○ Brave Bunch Camp(実施施設:ボストン大学不安関連障害センター)
○ Camp Courage(実施施設:ニューヨーク大学ランゴーン医療センター)
○ Camp Out Loud(実施施設:Dunn Behavioral Consulting)
○ Confident Kids Camp(実施施設:Confident Kids Camp)

この学校場面に似せた状況で行なうプログラムは、どこも内容がかなり似ています。主に夏休みに4~5日間にかけて行なわれるもので、緘黙児にとって安心できる環境の模擬教室を設定し、 スケジュールも学校に似せて、そこで効果的に発話行動を促します。10名程度といった少人数で行なうグループプログラムでもあります。

学校場面で行なう集中的支援


3つ目の分類に当てはまる学校場面での支援法の有効性は、Kotrba 博士は特に高く評価しています。著書の中では、週1回のプログラムよりも効果的かもしれないとまで述べています(Kotrba, 2015)。

ネット上のコメントにも高い評価が確認できます。あるQ&Aサイトで Kotrba 博士が残したコメントによると、博士は、学校場面で緘黙児に1日中ないし2~3日間にわたって集中的に行なう行動療法的支援を行なっているのですが、これは、緘黙児が不安に慣れる速さを高めるのに「最も有益」(most beneficial)であることに気付いたというのです。

◇ その Aimee Kotrba 博士のコメント (新しいウィンドウで開く

効果のほどは?


このように、集中的プログラムは効果が高いと主張する専門家がいます。また、緘黙児の不安を減らすのに効果があったとか、行動療法の取り組みの時間を短縮する効果があったという報告も、しかるべき場?でなされたことがあるそうです(Kurtz, 2013)。他にも効果の検証に関する話はいくつかあって、このブログでは「緘黙児への短期集中型行動療法(後編)」の中で取り上げたことがあります。

ただ、少し慎重なことを言うと、どこまで厳密なかたちで効果が確かめられたかが、私には分からないところもあります。また、特に学校に似せた環境で行なう集中プログラムは確かに米国で広まっているのですが、それは、プログラムの効果が認められたゆえかどうかは、私には分かりません。

そういうわけで、集中的に行なう行動療法は米国で最近広まっていて、気になっているのですが、その効果のほどについては、慎重な私にはもう一つ分からないところもあります。日本の方には、「スモールステップの取り組みは短期集中的に!」と単純におすすめするつもりは現段階ではないのですが、短期集中的にやった方がよいのか、長期的にコツコツやった方がよいのかといった問題意識を時々持って取り組んでみると、何か発見があるかもしれないとは思います。

お知らせ


場面緘黙症Journal の従来型掲示板は、掲示板レンタル元により、6月4日(木)に閉鎖されました。そこで、閉鎖された旧掲示板の過去ログの公開を考えています。過去ログ公開にあたっては、「過去ログに残してほしくない方がいらっしゃれば、お手数ですが、ご連絡ください」とのお断りを添えるつもりです。

現在のところ、7月を目処に、過去ログ公開の方向で作業を進めています。ただし、反対のご意見を多くいただけば過去ログ公開を考え直します。

関連記事


↓ 学校場面に似せた状況で行なう集中的支援について、詳しく書いています。
◇ 緘黙児への短期集中型行動療法(前編) (新しいウィンドウで開く

文献


◇ Kotrba, A. (2015). Selective Mutism: An Assessment and Intervention Guide for Therapists, Educators & Parents. Eau Claire, WI: PESI Publishing & Media. [Kindle version]. Retrieved from Amazon.com

◇ Kurtz, S. (2013, October). Intensive treatment of selective mutism. Presented at the Selective Mutism Group Annual Conference. Berkeley, CA.←すみません。一次情報として確認していません。Kotrba 博士の著書からの孫引きです。だって、カリフォルニアになんて行けませんよ!

緘黙のチャットを作りました。需要はないかもしれませんが…

2015年06月16日(火曜日)

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旧掲示板過去ログの公開を検討中(再掲)


まずはお知らせから。

場面緘黙症Journal の従来型掲示板は、掲示板レンタル元により、6月4日(木)に閉鎖されました。そこで、閉鎖された旧掲示板の過去ログの公開を考えています。過去ログ公開にあたっては、「過去ログに残してほしくない方がいらっしゃれば、お手数ですが、ご連絡ください」とのお断りを添えるつもりです。

現在のところ、7月を目処に、過去ログ公開の方向で作業を進めています。ただし、反対のご意見を多くいただけば過去ログ公開を考え直します。以前にもこのお話はしましたが、繰り返しお伝えしたいので。

チャットを作りました


さて、本題です。

場面緘黙症Journal にチャットを作りました。KENT-WEB が提供する、昔ながらのチャットです。KENT-WEB によると、「フレーム非対応のブラウザの方は利用できません」とのこと。懐かしい響きです。

◇ 緘黙チャットルーム (新しいウィンドウで開く

このチャットは、人口知能チャットです。「美香」というロボットが常駐していて、チャットへの入室者が1名の場合、相手をしてくれます。私のチャットを利用してくださる方はほぼいないような気がしたので、これを選んだのでした。

なお、入室者が2名以上の場合、美香は沈黙しますが、「美香」または「誰か」と呼ばれると、それに反応して喋り出します。ただし、このロボットは少しひょうきんな性格のようで、妙な返事が来ることがあります。

チャットルームには、ナビゲーションバー「掲示板」からアクセスすることができます。

緘黙チャットがたくさんあった時代


緘黙の個人ホームページが盛んだった頃、緘黙のホームページでチャットを見かけることは珍しくありませんでした。掲示板ほどではありませんでしたが、わりとあったものです。

例えば、今でも残る最初期の緘黙サイト「ココロのひろば」(2000年開設)には、「喫茶室(チャット)」というチャット室へのリンク(リンク切れ)がついています。また、既に閉鎖された「ほほえむ」というサイトでは、「JAVAチャット」「CGIチャット」「人工知能チャット」「おえかきチャット」の4つものチャットが、一時期設置されていました。

実は私も、ある緘黙関係のホームページで、一度だけチャットをしたことがあります。チャット当日は人が集まらず、私のお相手は緘黙を経験された男性一人だけで、男同士静かにチャットしていました。チャットをして感じたのは、発語を伴わない文字による会話とはいえ、話題の振り方や答え方、話の展開の仕方など、実際の会話と通じる部分もありそうということでした。会話の経験が乏しかった私にとって、チャットは難しかったです。

現在、こうした古典的なかたちでの緘黙のチャットはほとんどありません。インターネット上のコミュニケーションのありようが、時代につれて大きく変化したことが背景にあるのでしょう。

米国では、昨年まで専門家と話せるチャットがあった


海外のチャットの動向を見ると、米国最大の緘黙支援団体 Selective Mutism Group のウェブサイトに、専門家と直接話ができるチャットが昨年までありました。Expert Chat というもので、毎月テーマを決めて、団体のメンバー限定で行なうものでした。

そのやり取りは保存され、現在、公開されています。2006年1月からの8年半分で、けっこうな量です。

◇ Expert Chat Archive (新しいウィンドウで開く

ですが、やはり最近は海外でもチャットは見ません。先ほどの専門家チャットも無くなりましたし、ネットでのコミュニケーションは Facebook が盛んな印象です。

掲示板とチャットのある、昔ながらの個人ホームページ


人と違ったことをするのが好きな私は、こうした中、敢えてチャットを新設しました。

これは従来型掲示板が閉鎖されることになり、掲示板という昔ながらのコミュニケーションツールに向き合ったことがきっかけです。自己満足で作ったので、利用してくださる方がいなくてもあまり気にしません。

なお、チャットとともに、お絵かき掲示板の新設も考えているというお話を以前しましたが、これについては保留中です。