緘黙児が口頭で答えやすい質問(症状が軽い場合)

2017年02月01日(水曜日)

アイキャッチ画像。

選択型の質問


「あなたはうどん派?そば派?」

この二択の質問方法、場面緘黙症の人(主に子ども)に対する質問の仕方として、英語圏で最近よく見ると感じています(例えば、Johson and Wintgens, 2016; Kotrba, 2015; Mac, 2015; Kurtz Psychology Consulting PC, n.d.)。

これは、緘黙児が発話というかたちで答えやすい質問とされます。質問内容は「あなたは右利きですか?それとも左利きですか?」でもいいですし、何でもよいです。

北米では、親子相互交流療法(PCIT)という心理療法を緘黙児に適用する動きが広がっているのですが、その技法の一部としてこの質問方法が紹介されることが多いです。北米では、この質問方法は forced choice question(s) と呼ばれています。

一方、イギリスのマニュアル The Selective Mutism Resource Manual(第2版)では、親子相互交流療法とはまた違った緘黙児への治療方法が体系的に示されているのですが、その中でも、この質問方法が紹介されています。このイギリスの本では、X or Y question(s) という呼び方です。

治療場面でのみ使われる質問方法というわけでもないようです。例えば、後にご紹介する親向けの動画でも、この方法が取り上げられています。


併せて、次のことに注意する


この質問方法に対する注意事項として、よく次のようなことが挙げられます。本などによって多少書いてあることが違うのですが、大体共通しています。

緘黙児が答えるまで5秒待つ


緘黙児が答えるまで、少なくとも5秒は待つこととされます。それでも答えなければ、問いを繰り返します。


緘黙児の代わりに他の人に答えさせない、緘黙児の心を読み取らない


緘黙児本人に答えさせます。


「はい/いいえ」型の質問は避ける


はい/いいえ型の質問(英語だと Yes/No question(s))は、緘黙児がうなづいたり(はい)首を横に振ったり(いいえ)して答えるかもしれません。こうなると発話につながらないため、避けるべきとされることがあります。

例えば、「君は右利き?」と聞くと、はい/いいえ型の質問になってしまいます。ですから、そうではなくて、「君は右利き?それとも左利き?」と聞くわけです。

Charli’s Choices新しいウィンドウで開く)というアメリカの緘黙の絵本では、絵を描くために好きなマーカーの色を、緘黙児に二択で選ばせる場面があります。赤のマーカーと青のマーカーを手にとって「赤?青?」と聞くわけですが、その緘黙児は声を出さずに、どちらのマーカーかを「指差し」で答えました。それに対して、声に出して答えるよう緘黙児に聞き返す場面が描かれています。


緘黙児が答えたら答えを繰り返して言う、褒める


例えば、緘黙児に「○○ちゃんは、うどん派?そば派?」と聞いて「うどん派」と答えたとき、「そうか、うどん派かあ」というように、答えを繰り返すとよいとされることがあります。

また、褒めるとよいともされます。単に「ありがとう」と褒めるのではなく、「教えてくれてありがとう」というように、褒める点を具体的に指摘することが推奨されることもあります(これを labeled praise と呼びます)。ただし、大勢の人の前で褒めたり、大仰に褒めたりするのは不適切とされます。

これらは、緘黙児の発話行動を強化する効果があると考えられているようです。


発展:オープンエンド型の質問


こうして緘黙児が質問に答えられるようになると、オープンエンド型の質問に切り替えてゆきます。例えば、「好きな食べ物は何?」とか「香川県はうどん県を名乗ってるけど、どう思う?」など、答えが予め選択肢というかたちで用意されていないものです。これは緘黙児にとって、難易度が高くなります。


悪循環を断ち切るために


以上のお話の背景には、次のような悪循環があるという仮説があります。

話しかけられる

黙る

不安が減る

最初に戻る

これでは、緘黙行動が強化されてしまいます。これを negative reinforcement(負の強化)と呼びます。以前、緘黙児は何回答える機会を逸している? (新しいウィンドウで開く)という記事の中でお話しましたが、緘黙児はこうしたことを何度も繰り返しています。

この悪循環を断ち切るために、上のような緘黙児にとって答えやすい質問方法で、発話を促そうということです。


素朴な疑問:「発話を強制してはならない」「非言語コミュニケーションを大事に」と矛盾するかどうか


ここまでお読みになって、疑問に感じた方がいらっしゃるかもしれません。緘黙児に発話を強制しては逆効果ではないかとか、緘黙児にはうなずきや指差しなど非言語コミュニケーションを大切にするべきではないかということです。

これは専門家ではない私なりの解釈なのですが、これまでお話してきたことは、緘黙症状が重くない場合を前提としているのではないかと思います。親子相互交流療法(PCIT)の緘黙への適用にしても、イギリスのマニュアルにしても、非言語コミュニケーションを認めることなどを、その前の段階として行なっています(ここのところが十分説明されないことがあるので分かりにくいのですが)。

緘黙症状が比較的重い場合は、まず非言語コミュニケーションから始める。そして、それができるようになれば、今回お話したような緘黙児にとって答えやすい質問方法を盛り込むなどして、発話行動をとらせていく。そういうことだろうと思います。

※ もちろん、今回お話しした質問方法も、強引なやり方でしてはいけません!


動画


カナダの動画


英語動画ですが、以上のことがうまくまとまったものがあるのでご紹介します。カナダの AnxietyBC という NPO が一般向けに作ったものです。特に、親向けの内容と思われます。この動画では、緘黙児に選択型の質問をする前に、ウォーミングアップを挟んでいます。

↓ YouTube へのリンクです。2分55秒あたりからご覧になるとよいと思います。今回お話した選択型の質問は、5分36秒あたりから登場。
◇ Understanding and Managing Selective Mutism (新しいウィンドウで開く


おまけ・緘黙RPGより二択質問の動画


あと、おまけですが、現在更新作業中の「緘黙RPG」ダウンロード版ver1.11より、緘黙児に二択の質問をする場面の動画です。

↓ mp4ファイル。4.48MB。23秒。
◇ 緘黙児の栞に二択質問 (新しいウィンドウで開く

これまでのver1.10以前では、「栞ちゃんが好きな動物教えて!いぬ?ねこ?それ以外?」という質問でした。「それ以外」を加えて、少しアレンジしていたのでした。プリシー版では既にこの箇所の更新を済ませています。

なお、このイベントは見つけにくいです。緘黙RPG をクリアされた方でも、これは見たことがないという方がほとんどではないかと思います。