緘黙の研究が、今年度も科研費に採択

2017年04月29日(土曜日)

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緘黙の研究に、3度目の科研費採択


今年度から始まる、ある場面緘黙症の研究に、科研費(学術研究助成基金助成金/科学研究費補助金)が交付されることが明らかになりました。

↓ 国立情報学研究所のサービス KAKEN へのリンクです。
◇ 場面緘黙児・者のセルフ・エフィカシーが治療への参加意欲に及ぼす影響 (新しいウィンドウで開く

なお、タイトルにある「セリフ・エフィカシー」ですが、これは「自己効力感」とも呼ばれるものです。

緘黙を主題とした研究に科研費が交付されたのは2年連続3度目のことです。緘黙の研究史は古いですが、科研費が交付されたのはいずれも2010年度以降です。

↓ 2016年度より継続中の研究。KAKEN へのリンクです。
◇ 選択性緘黙児童生徒の多様な状態像の解明と個に応じた支援方法の検討 (新しいウィンドウで開く

↓ 2010-2012年度に行なわれた研究。KAKEN へのリンクです。
◇ 選択性緘黙の内的世界の探究と治療教育的アプローチの開発 (新しいウィンドウで開くhttps://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16H03808/


科研費とは


科研費の事業は、文部科学省と、その外郭団体である独立行政法人日本学術振興会が行なっています。助成対象の研究は、人文・社会科学から自然科学まで全ての分野にわたります。その規模は、平成28年度予算額で2,273億円、助成額は2,343億円です。応募件数は平成27年度で約10万7千件で、このうち約3万件が採択されています。

科研費の交付を受けるには、申請を行なった上で、審査に通らなければなりません。審査は、第1段の書面審査と第2段の合議審査からなります。今回の緘黙の研究も、審査に通ったということになります。

科研費には研究種目という区分があり、「特別推進研究」「基盤研究」「若手研究」「新学術領域研究」「挑戦的萌芽研究」等からなります。今回採択された緘黙の研究は「若手研究(B)」です。「若手研究」は39歳以下の若手研究者の自立支援を行うもので、研究期間と研究費総額によってS、A、Bのいずれかの区分に分類されます(ただし、Sの区分への新規募集は現在行なわれていません)。



「緘黙」を知っている成人は15%(米国世論調査)

2017年04月27日(木曜日)

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緘黙がどの程度認知されているか


場面緘黙症がどの程度認知されているかを調べる世論調査がアメリカで行なわれ、その結果が26日公表されました。私が知る限りこうした調査は過去に例が無く、もしかすると、世界初かもしれません。

↓ その世論調査。ハリス世論調査ホームページへのリンクです。
◇ Less Than 1 In 5 Adults Have Ever Heard Of Selective Mutism (新しいウィンドウで開く


調査の概要


この世論調査は、ギャラップ社と並んで有名なアメリカの世論調査会社ハリスと、アメリカを代表する緘黙支援団体 Selective Mutism Association(Selective Mutism Group から改称)が共同で行なったものです。

調査期間は2017年1月24日から26日、英語でのオンライン調査というかたちをとっています。調査対象は18歳以上のアメリカの成人で、ハリス世論調査への参加に同意した者の中からランダムで選ばれています。回答者数は2,204名。データには、成人人口の構成を反映するよう重み付けがなされています。

この結果、様々なことが明らかになっています。その主なものを挙げると、次の通りです。

○ 場面緘黙症(選択性緘黙;英語では selective mutism)を知っていると回答した成人は15%
○ 緘黙児者を個人的に知っていると回答した成人は17%
○ その緘黙児者を個人的に知る成人のうち、場面緘黙症を知っていると回答した人は32%

なお、ここで言う緘黙児者とは、「他の社会環境(例えば家庭で家族と一緒の場面)で楽に話せるにもかかわらず、一つ以上の社会環境(例えば学校、公共の場、大人と一緒の場面)で話すことができない子どもや若者」のことです。(a child or adolescent who is unable to speak in one or more social settings (e.g., at school,in public places, with adults) despite being able to speak comfortably in other settings (e.g., at home with family)DSM-5などの診断基準とは、厳密には異なります。

上のハリス社のホームページは今回の調査結果について、「緘黙の認知度は、特定の社会環境で話せない子どもや10代の若者を個人的に知る人の間でさえ低い」(Awareness of selective mutism is low even among those who personally know a child or teen unable to speak in certain social settings)などといった書き方で、緘黙の認知度は低いと評価しています。


思うところ


私は専門家ではないので難しいことは分からないのですが、今回の調査について思うところを書こうと思います。





多くの人と一斉に発話する

2017年04月24日(月曜日)

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『放課後カルテ』緘黙編のクライマックス


医療漫画『放課後カルテ』第8巻と第9巻では、場面緘黙症が巧みに描かれています。緘黙がある小学1年生の真愛(まい)ちゃんに、牧野という小児科医の養護教諭が支援を行うストーリーです。

ストーリーは、校内で行なわれる音楽会が迫った時期です。1年生は合唱(コーラス)で『あおいそらにえをかこう』を歌うことになっています。この音楽会で、学校で話せない真愛ちゃんがどうなるかが、話のクライマックスです。

↓ 「講談社コミックプラス」へのリンクです。
※ そのクライマックスが描かれる第9巻。試し読みできます (新しいウィンドウで開く

私は音楽に疎いのですが、真愛ちゃんが歌ったのは厳密には斉唱(ユニゾン)だった可能性もあると思います。複数の人が、同時に同じ旋律を歌うのです。一方、合唱(コーラス)も、やはり複数の人が同時に歌うものですが、歌う旋律は異なります。小学1年生には斉唱(ユニゾン)の方が易しいからということで、そちらが選ばれることは十分に考えられます。


皆で一斉に発話する方が易しい?英国の緘黙治療マニュアルより


ところで、先日お話したイギリスの緘黙治療マニュアル(第2版)には、unison という言葉が何度も登場します(Johnson and Wingtgens, 2016)。といっても、英語の unison は、必ずしも斉唱のことを意味するわけではありません。「一斉に言う」とか、「一致した行動をとる」といった場合にも、in unison という表現を用いることがあるようです。

例えば、以下は470ページの記述です。

緘黙児が周りの人と一斉に動いたり、歌ったり、または話したりといったことを伴う、たくさんの活動を含めましょう。

Include plenty of activities which involve children moving, singing or talking in unison.

なぜこのように一斉にすることがすすめられるのでしょうか。この本の前後の文脈などから判断するに、どうやら多くの人と活動をする場合、発話などは一斉にする方が緘黙児者にとってはしやすいということのようです。易しい課題から始まり、スモールステップで不安に暴露するのが、この本が示す治療法です。

確かに多くの人と一斉にすると目立ちません。また、そうした場面で緘黙児者が声を出しても、周りの声にかき消されてしまい、誰かに聞こえることもそうないでしょう。

もちろん、そちらの方が易しそうというだけで、それもできない緘黙児者もたくさんいるだろうと思います。また、声が出せたとしても、小声が出たとか、口ぱくができたとかといった場合がほとんどのような気がします。

『放課後カルテ』で音楽会の斉唱が描かれたのは、もしかしたらこのあたりのことも計算に入っていたのかもしれません。もしそうだとしたら、作者の日生マユさんや担当編集者の慧眼には驚かされます。もっとも、漫画で描かれたのは斉唱ではなくて、本当に合唱だったのかもしれませんが……(上の試し読みには「合唱」と書かれてあります)。


書籍リンク(Amazon.co.jp)


放課後カルテ(8) (BE LOVE KC)
日生 マユ
講談社 (2015-02-13)


The Selective Mutism Resource Manual: 2nd Edition
Maggie Johnson Alison Wintgens
Routledge


文献


◇ Johnson, M., and Wingtgens, A. (2016). The selective mutism resource manual (2nd ed.). London: Speechmark Publishing.