「200人に1人」について

2016年05月21日(土曜日)

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緘黙は200人に1人?


200人に1人--

場面緘黙症の説明で、時々目にする数字です。私はこの数字に、前から素朴な疑問を持っていました。そこで、今回はこれについて思うところを書いてみたいと思います。

「200人に1人」の出所は


この「200人に1人」という数字、実は情報の出所が分からないのです。というのも、出所が明示されている場面を見たことがないからです(私が見逃しただけなら、すみません)。

実際のところ、よく観察してみると、この数字の紹介のされ方にはこんな特徴があることが分かりました。

200人に1人の割合で存在すると言われています。
(200人に1人の割合で存在する"場面緘黙(ばめんかんもく)" 8月1日、2日はフォーラムも開催、2015年7月31日)

200人に1人の割合でいるともいわれる
(幼稚園や学校で緊張、話せなくなる「場面緘黙」に理解を 家庭と連携、早期支援が大切、2016年1月30日)

200人に1人くらいとされていますが
(らせんゆむ、2015、p. 21)

「~と言われている」というような表現で紹介されることが結構あるのです。出所が示されないまま「~と言われている」と紹介されることが多いとなると、「200人に1人と言われてる、誰が言い出したのかは分からないけど」とも解釈したくなります。

「200人に1人」の出所、もしかするとここか


ただ、推測ですが、おそらくこういうことではないかと思います。『場面緘黙Q&A』に、こんな記述があるのです(かんもくネット、2008、p. 9)。

出現率…男子より女子の方が多く、日本のこれまでの調査では0.2~0.5%くらい、近年の海外メディアでは0.7%をあげることが多いようです。仮に0.5%と考えると、200人に1人の割合です。

この「200人に1人の割合」という箇所が広まり、今日の状況になったのではないかと私は見ています。0.5%という数字は、日本の調査で最も数字が高いものを取り上げたか、あるいは0.2%、0.5%、0.7%を3で割って求めた数字かなと思います。

なお、「日本のこれまでの調査では0.2~0.5%くらい」については、『場面緘黙児の心理と指導』にも同じようなことが書かれています(河井ら、1994)。緘黙の発生率に関する先行研究が表形式でまとめられていて、それを見ると0.15~0.48%の範囲なのです。ただ、0.48%などの大きな数字は母数が少ない調査であったことから、著者は「緘黙の発生率は0.15~0.38あたりとなろうか」と総括しています。

それから、海外メディアであげられているという0.7%という数字の出所は、Bergman, R.L.氏 らの2002年の研究であると『場面緘黙Q&A』には書かれてあります。これは、ロサンゼルスの幼稚園~小学1、2年生の教師を対象とした調査です(Bergman et al., 2002)。 英語を流暢に話し、DSM-IV の選択性緘黙の診断基準に当てはまる児童について尋ねたところ、 133人中125人が回答、0.7%(2,256人中16人)の児童が該当したというものでした。

「200人に1人」はアバウト?出現率を厳密に論じるのは難しい


そういうわけで、「200人に1人」はアバウトな話ではないかと思います。ただ、そもそも出現率を厳密に論じるのも難しそうです。

青柳宏亮氏らは、緘黙の有病率にばらつきがあるのは、調査法、診断基準、地域差や時代差、対象児の年齢差などに加えて、Viana et al(2009)が指摘するように成因論やアセスメントなどに関する包括的かつ均一の理論が不足しているためであると考えられ、厳密な有病率について議論することは難しいとしています(青柳ら、2015)。また、わが国の研究の実情として、調査時期が古く、全国レベルでの実態調査が行われていない点を挙げています。

このうち調査時期については、最近では梶正義氏が神戸市で場面緘黙児の発生率の調査を行なったそうなのですが、全国レベルでの実態調査はここのところ知りません。

私ならば、もし緘黙の発症率を簡単に言う必要に迫られれば、「強いて言うと0.2~0.5%ぐらい」と、やはりアバウトな答えをするかもしれません。厳密に何%というのは難しいので幅を持たせたいのと、情報の裏づけがある数字を紹介したいので。

付録:数字のマジック


○ 出現率:0.2%~0.5%
⇒ 0.2%にしろ0.5%にしろ、稀という印象を受けます。

○ 出現率:200人に1人~500人に1人
⇒ 「200人に1人」と「500人に1人」では、かなり違う印象を受けます。

文献


◇ 青柳宏亮、丹明彦(2015)「選択性緘黙に関する研究動向:臨床的概念の変遷を踏まえて」『目白大学心理学研究』11、99-109。
◇ 河井芳文、河井英子(1994)『場面緘黙児の心理と指導-担任と父母の協力のために-』田研出版。
◇ かんもくネット著、角田圭子編(2008)『場面緘黙Q&A』学苑社。
◇ 「幼稚園や学校で緊張、話せなくなる「場面緘黙」に理解を 家庭と連携、早期支援が大切」(2016年1月31日)『どうしんウェブ』http://dd.hokkaido-np.co.jp/lifestyle/education/nursing_news/2-0042793.html
◇ らせんゆむ著、かんもくネット解説(2015)『私はかんもくガール』合同出版。
◇ 「200人に1人の割合で存在する"場面緘黙(ばめんかんもく)" 8月1日、2日はフォーラムも開催」(2015年7月31日)『BOOKSTAND』http://bookstand.webdoku.jp/news/2015/07/31/170000.html
◇ Bergman, R.L., Piacentini, J., and McCracken, J.T. (2002). Prevalence and description of selective mutism in a school-based sample. Journal of the American Academy of Child & Adolescent Psychiatry, 41(8), 938-946.
◇ Viana, A., Beidel, D. C., & Rabian, B.(2009). Selective mutism:A review and integration of the last 15 years. Clinical Psychology Review, 29, 57-67

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