「山口百恵」「キカイダー」70年代の緘黙当事者

2016年08月14日(日曜日)


昭和53年、山口百恵の写真が載った雑誌を持参した緘黙の少女


診察室へは山口百恵の写真がのっている雑誌を持参し、母親と治療者が話をしている間楽しそうに雑誌を見、話しかけられると時には首を縦、横に振るという態度が続いた。

『精神神経学雑誌』という学会誌に掲載された昔の論文「青年期の選択緘黙についての臨床的および精神病理学的研究」の一節です(大井ら、1982、119ページ)。初診時1978年(昭和53年)、当時16歳の緘黙の女児を診察した記録の一部です。

「山口百恵」という昔懐かしい(というか、昔過ぎて私は知らない)人名が登場します。上の記述は、前後の内容から判断して1978年(昭和53年)の2~8月頃の話で、『プレイバックPart2』がヒットしたあたりではないかと思います。

論文の症例報告では、このように緘黙児・者のかなり細かい行動まで記述されている場合があります。


昭和50年、「キカイダー」と喋った緘黙の少年


また、『音声言語医学』という学会誌に掲載された「緘黙児症例」という昔の論文では、こういうものもありました(板倉ら、1976、45ページ)。

しかし、50年4月(2年目)のある日、兄と公園で遊んでいるとき、兄に向かって、突然「キカイダー」とテレビのまんが番組のヒロインの名称をはっきり数回喋って伝えた。そこで兄はその発語の事実を本人に指摘したら、また黙ってしまい、gestureを交えて、この事実(喋べれたこと)を祖母には内緒にして知らせないようにと兄に頼んだ。

自由描画をさせると、テレビまんがのキカイダー(?)を相当細かく思い出して描き、色彩の種類も、黒、赤、黄、緑等と多彩に大人にも及ぶ細かい表現をして、横にライデーンと片仮名で記載している。

初診時1974年(昭和49)年、当時6歳の緘黙児(男児)を治療した記録の一部です。

「キカイダー」というのは、特撮テレビ番組『人造人間キカイダー』などに登場する人造人間のことと思われます。論文には「ヒロイン」とありますが、これは誤りで、女性の人造人間ではありません。女性型の人造人間は「ビジンダー」と言います。

また、「ライデーン」というのは、テレビアニメ番組『勇者ライディーン』に登場するロボットのことと思われます。


リアリティがあって生々しい記述、緘黙は昔からあったと改めて実感


昔の論文を読んでいても、私などは鈍感なので、ここに書かれてあることは何十年も前の話なのだということがピンときません。そんな時に、「山口百恵」や「キカイダー」「ライディーン」といった、時代と分かちがたく結びついた言葉に出会うと、はっとさせられます(若い私でも、名前ぐらいは聞いたことがあります)。

そして、ここで取り上げた論文の記述は、とてもリアリティがあります。スターの写真が載るような雑誌を楽しそうに見るというのは、いかにも10代半ばの少女という感じがします。また、喋ったことは内緒にして欲しいという緘黙児の心情は、よく分かります。

このような記述を読むと、緘黙の人は昔から本当にいたということを改めて実感します。そして、70年代には既に緘黙という概念があり、治療を受けた緘黙児・者がいて、それをもとにした緘黙の研究が学会誌に掲載されたということも、改めて事実だということを実感します。

緘黙は決して最近できた「新しい病気」ではありません。また、緘黙の研究は日本では何十年も前から続いています。


蛇足・駄菓子屋と緘黙児


今回のアイキャッチ画像は、昭和の雰囲気を感じさせる駄菓子屋の写真を選びました。

駄菓子屋は、昔の緘黙児にとってどういう場所だったのでしょう。私が子どもの頃には駄菓子屋はあまり見かけなくなっていたので、どんなところかは分からないのですが、子どもたちや店員との社交場という一面があったというイメージを持っています。




関連カテゴリ


◇ 緘黙症研究の歴史(和) (新しいウィンドウで開く