場面緘黙症の予防?

2016年12月13日(火曜日)


イギリスの新しい本に書いてあること


10月末に発売された The Selective Mutism Resource Manual の第2版を少しずつ読み進めています。イギリスでは緘黙治療のバイブルとも呼ばれる本(イギリス在住MIKUさん談)の15年ぶりの改訂版です。ただ、なかなか読み進めません……。

本の中にはなるほどと感心して思わず膝を打ちたくなるような箇所もある一方で、専門家ではない私にはいま一つ納得ができず、どう受け止めべきるか保留したくなる箇所もあります。

本の本編に入って間もないところにも、私にとってはちょっと驚くことが書かれてありました(7ページ)。

内気な子があざけりにさらされたり、準備ができる前に発話を強いられたりしたら、緘黙を発症する可能性があることに留意することは重要です。それゆえに、全ての内気な子や話すことを渋る子は、落ち着いて自分たちのペースで参加できるよう支援と安心が必要です。

It is important to note that shy children may develop SM if they are subjected to ridicule or pushed into speaking before they are ready. Therefore all shy children and reluctant speakers need support and reassurance to settle in and participate at their own pace.

↓ 以下、専門家でも何でもない私が素朴に考えたことを書いています。


緘黙になるリスクを持った子への、予防という視点


この一節の背景にあるのは、内気とか話すことを渋るといったことは緘黙の「リスク要因」で、そこにあざけりや準備前の発話が「引き金」になって緘黙を発症することもあるという考え方なのでしょう。

実際、この本は、緘黙の原因について、次の3要因に分けて解説しています。

○ リスク要因(Risk factors)
○ 誘因、引き金(Triggers)
○ 維持要因(Maintaining factors)

この本はまた、次のように言い換えてもいます。

○ 脆弱性がある子ども(The vulnerable child)
○ 生活上の出来事(Life events)
○ 維持要因(Maintaining factors)

この一節には緘黙のいわば予防という、これまであまり語られてこなかった視点があり、考えさせられます。これまで語られてきたのは、既に緘黙になった人(今のところ、主に子ども)に対してどのような支援が行えるかということが中心でした。それはこの本で言うところの維持要因に主に働きかける方法でした。ところが、上の一節は緘黙のリスク要因に注目し、脆弱性がある子どもが緘黙になるのをいわば予防するといった話です。


全ての内気な子に予防?それとも、SASという尺度で高得点の子に予防?


ただ、全ての内気な子や話すことを渋る子に、緘黙になることもあるからという理由を持ち出してその子に応じた支援が必要というのは、ちょっと行き過ぎのようにも私には思えます。緘黙はともかく、普通の内気であればよくあることでしょうし、そこまで心配することもないのではないかと、今のところ私は思います。親に過剰な不安を煽るようなことにもなりかねません。それとも、何か根拠があるのでしょうか。

実は緘黙の予防について述べた論考は日本に過去にあって、そこでは予防措置を講じるべき内気な子どもについて、もう少し緻密に論じられています(藤田、浜田、2014)。その論考では、保育園や幼稚園、小学校に入る前に「社会的不安尺度(SAS)」というもので子どもの不安・恐怖を測定し、結果が高い子どもに対して、園・学校に協力を仰いで、事前に新しい環境に慣れさせる準備をしておくという方法が提案されています。ここでは、緘黙発症の引き金として入園と入学が重視されていて、今回のイギリスの本とは違いもあります。

このSASについてもう少し詳しく触れると、これは藤田、浜田両氏が作成したものです。18の質問項目に対して6段階で評価するのですが、そのほとんどの質問項目について「6非常によく当てはまる」に○がついた場合には、先ほどお話したような事前の準備を提案しています。

ですが、なぜこの質問項目でほとんど「6非常によく当てはまる」が当てはまった場合に準備が必要なのか、「5かなり当てはまる」がほとんどの場合は本当に準備は必要ないのか、この尺度の妥当性は、といったところはよく分かりません。この論考の紙幅の関係か、そのあたりの詳細については書かれてありません。


結び


それにしても、緘黙の予防という視点は興味深いです。可能かどうかは分かりませんが、緘黙になるのを未然に防ぐことができれば、それに越したことはありません。予防のためにも、緘黙のリスク要因についてさらに研究が進み、より正確なところが明らかになるとよいです。

なお、緘黙のリスク要因には様々なものが考えられています。今回のイギリスの本にしても、リスク要因に言葉の問題や自閉症スペクトラムなども含めています。また、緘黙の原因論も専門家によって多少異なります。「リスク要因」「誘因」「維持要因」というかたちで説明されないこともあります。