「場面緘黙」なのか「選択性緘黙」なのか「選択緘黙」なのか

2006年01月14日(土曜日)

私はこれまで「場面緘黙」という呼び方を使ってきました。しかし、「選択性緘黙」「選択緘黙」という呼び方もよく使われています。今回は、この呼び方の違いについて考えてみます。

「そんな呼び方なんて細かいこと、気にすんなよ。どっちでもいいじゃん」という声がどこからか聞こえてきそうですが、私は気になりますので、構わず続けます。

* * * * * * * * * *

「場面緘黙」と「選択性緘黙」と「選択緘黙」、みんなどう呼んでいるのか

[ Google検索 ]

"場面緘黙" 766件
"選択性緘黙" 521件
"選択緘黙" 237件

[ Yahoo!検索 ]

"場面緘黙" 16,700件
"選択性緘黙" 550件
"選択緘黙" 148件

[ テクノラティ(ブログ専門サーチエンジン)検索 ]

"場面緘黙" 138件
"選択性緘黙" 30件
"選択緘黙" 3件

ご覧の通り、「場面緘黙症」という呼び方が最もよく使われているようです。それにしても、Yahoo!の「"場面緘黙" 16,700件」というべらぼうな数字は、いったい何なんでしょう。

学者、医師はどう呼んでいる

そもそも、こういう症状の名前をつけたのは学者や医師のはずです。それでは、学者や医師はどういう呼称を使っているのしょうか。まさか、学界でも呼び方が統一されていないなんてことはないでしょうね。

[ CiNii(国立情報学研究所が提供するNII論文情報ナビゲータ)検索 ]

"場面緘黙" 42件
"選択性緘黙" 20件
"選択緘黙" 6件

学者や医師の間でも、事情は同じようです。ただ、これをもう少し詳しく見ていくと、面白いことが分かります。今度はこれを年代別に見てみます。

[ "場面緘黙" 年代別(CiNii検索結果による) ]

★ 60年代 1件
★ 70年代 3件
★ 80年代 13件
★ 90年代 14件
★ 00年代 11件

[ "選択性緘黙" 年代別(CiNii検索結果による)]

★ 70年代 0件
★ 80年代 3件
★ 90年代 3件
★ 00年代 14件

[ "選択緘黙" 年代別(CiNii検索結果による)]

★ 70年代 2件
★ 80年代 1件
★ 90年代 2件
★ 00年代 1件

なんと、2000年代に入って、「選択性緘黙」が急増し、「場面緘黙」を逆転しています。いったい何があったのでしょうか。

中国は「選擇性緘默症」

Google で「緘默症」と検索しますと、検索結果の中に「選擇性緘默症」の文字をよく見かけます(そのわりに、「選擇性緘默症」と検索しても6件しかヒットしないのですが)。中国では「選擇性緘默症」が一般的のようです。

「選択」なんて言い方、嫌だ!

以下は私見ですが、「選択性緘黙症」だとか「選択緘黙症」という呼び方はどうにも気に入りません。

まず、日本語が変です。大方、英語の "elective mutism" あたりの直訳なのでしょうが、訳として、こなれているとはお世辞にも言えません。

それに、これでは緘黙という状態を、緘黙児が主体的に選択しているような言い方です。2005年12月17日の記事「英語圏では『緘黙症』は何と呼ばれているのか」の中でも書きましたが、緘黙児は自分の意思で話さないことを選択しているのではなく、強いられているのです。この誤解を避けるために、わざわざ英語圏では "elective mutism" という呼称を "selective mutism" に変えたのです。

アメリカの精神医学会が定めた診断の手引書 Dsm-IV が できるまでの議論をまとめた Dsm-IV Sourcebook も、従来の "elective mutism" という誤解を招く表現を改めるよう提言しています(251ページ)。

* 以下引用 *

It is recommended that the disorder be named selective mutism, because evidence is lacking to support the implication that children with elective mutism have a deliberate preference not to speak.

[ 富氏訳(訳の品質は保証しません) ]

この障害を selective mutism と名付けるよう提言します。なぜならば、緘黙児が意図的に好んで話さないのだという暗示を支持する証拠がないからです。

* 引用終わり *

緘黙児は、意図的に好んで話さないことを選択しているのではないのです。「選択性緘黙症」だとか「選択緘黙」だと、そういう誤解を与えかねません。

というわけで、今後も私は「場面緘黙」という呼称を使っていきます。

* * * * * * * * * *

今週も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。次週は、今話題(?)の英語圏の緘黙本 Helping Your Child With Selective Mutism: Practical Steps to Overcome a Fear of Speakingのお話をする予定です。


人気blogランキングに参加しています。今回の記事が良かったよ!と思われた方は、下のリンク「人気blogランキングへ」をクリックしていただけると嬉しいです。あなたの1票が、私の励みにつながります。

人気blogランキングへ

注. この記事は、2006年1月7日にニートひきこもりJournal に掲載した記事を一部編集したものです。