『かんもくって何なの!?』を読みました

2017年05月14日(日曜日)

アイキャッチ画像。
場面緘黙症のコミックエッセイ『かんもくって何なの!?-しゃべれない日々を脱け出た私-』が、2017年5月10日に発売されました。この作品は、pixiv というイラストコミュニケーションサービスで話題になった漫画を書籍化したものです。

読み終えたので、早速感想を書きたいと思います。

本の基本情報


著者はモリナガアメさん。場面緘黙症を経験された方です。別名義で同人漫画を描いてこられたそうで、漫画が大変お上手です。私は漫画は詳しくはないのですが、プロレベルではと思ったほどです。それが今回の本出版で、「マンガ家 モリナガアメ[著]」と記されるに至りました。加えて、日本緘黙研究会会長で、上越教育大学大学院教授の加藤哲文氏が解説を行なっています。

出版社は合同出版です。合同出版といえば、2015年に『私はかんもくガール-しゃべりたいのにしゃべれない 場面緘黙症のなんかおかしな日常-』という、らせんゆむさんのコミックエッセイを出版した会社です。

ページ数は200ページを超えており、コミックとしては多いです。『私はかんもくガール』の1.5倍あります。


本の概要


本の内容は、モリナガアメさんが、場面緘黙症の経験を中心に、ご自身のことを幼稚園から振り返って描いたコミックエッセイと言えるのではないかと思います。緘黙だけではなく、機能不全家族に関する描写も多いです。また、この本のお話では、同人漫画が重要な鍵となっています。

描かれているのは、幼稚園や学校で話せなかった時期のことだけではありません。それは本書の前半部分で、後半では緘黙経験が長期にわたってモリナガアメさんに与えた影響が描かれています。

可愛らしい本の表紙や背表紙だけを見ると、まるでお子さま向けの漫画や絵本かと思ってしまいそうです。ですが、おそらく想定されている対象年齢はもっと上だろうと思います。10代後半から大人の方が読むとよいかもしれません。

本書は pixiv 版とは多少違いがあります。書籍版は「幅広い層に読んでもらうことを意識」「文字校正・加筆修正済 書き下ろしもあり」とのことです(モリナガアメ, 2017年4月22日)。加藤氏の解説も、書籍版のみです。

※ なお、モリナガアメさんは「育った環境上、『家庭の問題』も多く出てきますが、場面緘黙への発症には必ずしも家庭環境が関係しているとは限らない事は、ご理解いただければと思います」と書かれています(4ページ)。この点は繰り返し強調されています。


感想


本当に本になっている


「pixiv で読んだ漫画が、そのまま本になってる!」

というのが、本を手に取った最初の感想でした。お話ししたように、内容が多少改められており、100%そのまま書籍化されたわけではないのですが、ネットで繰り返し読んでいた作品が本というかたちになったことに、ちょっとした感慨のようなものを感じました。


緘黙とその後のことについて


本のテーマである緘黙については、さすがによく描かれています。モリナガアメさんが話せないことでどのような思いをされていたかが、リアリティを持って描かれています。

また、モリナガアメさんに対する周囲の人の関わり方も、しっかり描かれています。その中には、モリナガアメさんにとってネガティブなものも少なからずあります。緘黙そのものもさることながら、こうした周囲の関わり方がモリナガアメさんに辛い思いをさせていたことがよく分かります。その一方、モリナガアメさんは過去のことを客観的に振り返ることができる聡明な方で、「当時は自分のことで精一杯だったが まわりに助けてもらっていた事もたくさんあったなあ」(48ページ)とも回想しています。

そして、話せるようになった後のことに、全体のおよそ半分のページ数が割かれている点も重要です。「『話せるようになってよかった』で終わりじゃないって知ってほしい!」(194ページ)というモリナガアメさんの言葉にもある通り、話せるようになっても、緘黙経験がその後の人生に尾を引き続ける経験者がいるのです。

「私なりの緘黙理解」「場面緘黙豆知識」では、緘黙や、緘黙児者への適切な接し方について簡単に解説されています。加藤氏の解説と合わせて、緘黙への理解に役立つ内容です。かんもくオバケは、妖怪がお好きなモリナガアメさんらしさを感じるとともに、うまい表現だと思いました。このオバケはいつもモリナガアメさんの首のあたりにつかまっていますが、これは首を絞めて声が出ないようにしているということでしょうか?

モリナガアメさんの絵は可愛らしいです。その一方で、妖怪がお好きというモリナガアメさんの嗜好が関係しているのか、ホラー風の描写が巧みで、シリアスな場面の表現は本当に怖いです。


年代について


モリナガアメさんが緘黙だった頃の年代について、少し考えたいと思います。モリナガアメさんの緘黙経験が西暦/昭和/平成の何年頃のことだったのかは、はっきりとは描かれていませんが、高校生の頃の話で漫画『シャーマンキング』(1998年~2004年)や携帯電話が出ます。ということは、らせんゆむさんの『私はかんもくガール』より少し時代が下るかもしれません。らせんゆむさんの本では、小学生の頃の話で、80年代後半頃に流行した「ファミコン」が描かれていました。

『私はかんもくガール』に加え、『君の隣に-緘黙という贈り物-』『負けたらあかん!』の3冊が、緘黙の経験談が書かれた(または描かれた)これまでの主な本だろうと思うのですが、この3冊の著者は、実はほぼ同世代でした。みな70年代半ば~70年代末までのお生まれで、主に昭和末期に小学生時代を過ごしてきた方たちです。

もしこれまでと少し違う世代の方の緘黙経験が本として出たのであれば、その点、特別な意義がありそうです。特に、今現在緘黙症状がある若い方には、これまでよりも若い経験者のお話に親近感を覚えるかもしれません。

それにしても、こうしたことを考えると、幼稚園児や小学生の頃の緘黙経験が公に語られるまでには、時間的なずれ(タイムラグ)があることに気付かされます。幼稚園児や小学生の当事者が、公の場で緘黙経験を語るのは稀です。それが中学生以上の年齢になると、人によっては Twitter やブログなどでその時の経験を公にするようになります。そしてモリナガアメさんやらせんゆむさんぐらいの年齢になると、著書を出して、その中で幼稚園や小学校に通っていた頃はこうだったと語る人も出てきます。今現在の話ではなく、過去を振り返って語るというかたちになります。

なお、1986年から1989年にかけては、岩手大学の山本実教授による、緘黙を主題とした一連の著作が出版されていました。このとき山本教授は、メディア出演もしていたそうです。また、1994年には『場面緘黙児の心理と指導-担任と父母の協力のために-』が出版されていました。ですが、これらの本の恩恵は必ずしもモリナガアメさんには及ばず、理解ある対応や接し方がなされないこともあったように見てとれます。


巻末に、私のことが……


巻末の「参考ホームページ」「Special Thanks」には、なんと場面緘黙症Journal や私の名前も挙がっています(え~っ!)。一番下の目立たないところに挙がっているとはいえ、私なぞのことが、恐れ入ります。

モリナガアメさんのこの漫画は、pixiv で公開された当初から閲覧者数の伸びが驚異的で、場面緘黙症Journal などの緘黙専門サイトとは比較にならないほどでした。インターネット上の緘黙関連コンテンツで、あれだけのアクセスが集まるのは稀です。このため、緘黙に関連するニュースとして勝手ながら取り上げさせていただいたのでした。


むすび


緘黙の経験やその後のことまで、コミックエッセイ形式で分かりやすくリアリティ豊かに描かれています。らせんゆむさんのコミックエッセイとはまた違った経験が描かれており、併せて読むと、緘黙の人の経験は様々だということが分かるかもしれません。

緘黙のみならず機能不全家族までも描かれており、少し重い内容も含んでいます。これはモリナガアメさんが本当にそういう経験をされたのですから、このことには読者も向き合わなければなりません。

少女漫画・女性漫画の影響を思わせる絵柄ですが、男性の私でも自然に読むことができました。男性の方にも広く手にとられるとよいです。