当事者や経験者向けの本が、ほとんどない

2017年08月12日(土曜日)

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私は「それ以外の方」だったのか--

『学校における場面緘黙への対応』という本を読んでいたら、はっとさせられました(高木, 2017, p. 183)。

本書は、主な読者として学校の先生を想定して書きました。もちろん保護者やそれ以外の方にも読んでいただけたら嬉しいですが、学校の先生が実践するという視点で書いてしまったことをご容赦ください。

※ マーカーは、私が施したものです。

保護者はしっかり「保護者」と書かれている一方で、場面緘黙症の当事者や経験者は「それ以外の方」という扱いです。

とはいえ、この「それ以外の方」という表現、言い得て妙だと思います。緘黙をテーマとした本はこれまで多く出版されてきましたが、緘黙についての専門的な本で(つまり経験談の本は除く)、当事者や経験者向けのものはほとんどなかったからです。当事者や経験者は、対象読者としては「それ以外の方」とされてきたのです。

近年出版された、緘黙の専門的な本


具体的に見ていきましょう。近年出版された緘黙の専門的な本と、その対象読者層です。

場面緘黙支援の最前線-家族と支援者の連携をめざして-』(2017年)
⇒専門家や保護者

学校における場面緘黙への対応-合理的配慮から支援計画作成まで-』(2017年)
⇒学校の先生

先生とできる場面緘黙の子どもの支援』(2015年)
⇒学校関係者

どうして声が出ないの?-マンガでわかる場面緘黙-』(2013年)
⇒緘黙児と保護者

場面緘黙へのアプローチ―家庭と学校での取り組み-』(2009年)
⇒保護者、教育関係者、専門家

場面緘黙Q&A-幼稚園や学校でおしゃべりできない子どもたち-』(2008年)
⇒保護者や教師

場面緘黙児の心理と指導-担任と父母の協力のために-』(1994年)
⇒はっきり分からないが、当事者や経験者向けではなさそう

これだけ多くの本が出版されてきたにも関わらず、当事者や経験者を対象とした本は『どうして声が出ないの?』の1冊だけです。

当事者や経験者向けの本が少ないのは、日本に限ったことではありません。私が収集している英語圏の本でもそうです。


当事者や経験者は、緘黙についての客観的な理解まであるとは限らない


緘黙の当事者や経験者だからといって、緘黙についての客観的な理解まであるとは限りません。当事者や経験者が分かるのは、緘黙についての主観的な感覚や、当事者から見た周囲の関わりなどです。

実際、緘黙について理解を訴えるための活動をされている当事者や経験者の方でも、緘黙についての基本的なことを知らない方が案外いらっしゃったりします(私なぞが言うのもおこがましいのですが……)。皆さん、緘黙の本をあまり読んでいないのでしょうか。もっとも、そもそも当事者や経験者向けの本がほとんどないため、読みようもないのかもしれません。

当事者や経験者向けの本が少ないのは、なぜ?


では、なぜ当事者や経験者向けの本は少ないのでしょうか。自信がないのですが、私なりに思いつく理由を考えてみました。

子どもには理解は難しいと考えられているから


緘黙の当事者というと、よく小学生や幼稚園児などの低年齢の子どもに焦点が当たります。そうした子どもが緘黙について理解するのは難しく、本にはしづらいと考えられているのかもしれません。


当事者に緘黙のことを教えるのは、デリケートな問題と考えられているから


当事者に緘黙のことを伝えるかどうかは、デリケートな問題です。必ずしも当事者に教えるべきとは言い切れないという考えが、出版に抑制的に働いているのかもしれません。


当事者は、支援を受けてさえいればよいと考えられているから


当事者は支援を受けてさえいればよく、本人が緘黙への理解を深めてどうこうするものではないという意識が、もしかしたら広まっているのかもしれません。これも、当事者の年齢の低さゆえでしょう。

ただ、十代以上の当事者だと話は変わってくるかもしれません。イギリスの緘黙治療マニュアル The selective mutism resource manual (第2版)は、だいたい10歳超ぐらいになると、当事者が恐怖症の性質全般について理解することが重要だとしています。このマニュアルには、十代や成人当事者向けの、緘黙理解に役立つブックレットまで付録でついています(Johnson and Wingtgens, 2016)。

↓ そのブックレットと同じもの。PDF(377KB)。Afasic という団体のホームページへのリンク。
◇ When the words won't come out
 (新しいウィンドウで開く

※ PDFを閲覧するには Adobe Reader が必要です。こちら新しいウィンドウで開く)からダウンロードできます。

また、イスラエルの緘黙治療ガイド The selective mutism treatment guide (これまた第2版)では、十代の緘黙者に対する認知行動療法を行なうに当たって、心理教育を施す必要性について書かれています(Perednik, 2016)。当事者に緘黙について理解を深めさせるのです。

ですが、かといって年齢が上の当事者向けの心理教育の本を出すのも苦しいとも考えられているのかもしれません。緘黙で注目されるのは、主にもっと低年齢の子なので、あまり読まれないかもしれません。


経験者は、緘黙への理解を深めることに関心が薄いと考えられているから


経験者向けの本がないのは、緘黙を既に克服した経験者は、緘黙への理解を深めることに関心が薄いと考えられているのかもしれません。

もっとも、私自身は、経験者(診断は受けていませんが)としてかなり関心があるのですけれども。何しろ、私の人生に緘黙は大きな影響を与えたのですから。


では、当事者や経験者の情報源は?


とはいえ、当事者や経験者の中には、緘黙について客観的な理解を持っている方も少なくありません。こうなると、そうした方の情報源はどこなのか気になってきます。考えられるものを挙げてみます。

  • ネット情報

  • 経験談をまとめた本やコミックエッセイについている、緘黙の小解説

  • 保護者や教師向けの本(「それ以外」の読者として読む)

  • 新聞、雑誌、テレビ、ラジオ

  • 親など人づて

  • 緘黙に関する催し物


「それ以外の方」でも、侮るなかれ


緘黙の当事者や経験者は、対象読者としては「それ以外の方」なのかもしれません。ですが、その「それ以外の方」たちが、日本に緘黙の団体すらなかった頃に、緘黙の専門的な本を読み、そこから学んだことをインターネット上に発信するなどしたことにより、緘黙が知られるようになっていったというのが、歴史の一側面です。

今日でも、当事者や経験者が、そうした本が宅配で届いたことを Twitter で報告したり、本を読んでいる(読んだ)ことをネット上で報告する例が意外にあります。

「それ以外の方」として主要な対象読者層から外されてきた私たちですが、侮りがたい存在です。