場面緘黙児の不安をやわらげる系統的脱感作法

2006年09月04日(月曜日)

心理学の勉強をゆ~っくり進めていたら、場面緘黙症と関係ありそうな内容に当たったので、勉強の復習も兼ねて、まとめてみます。

今回のお題は、「系統的脱感作法(系統的脱感作療法)」(Systematic Desensitization)です。行動療法の代表的な技法の1つで、恐怖症のある人、不安が強い人を治すのによく使われているようです。

要するに、不安な状況に直面しながらリラックスさせ、不安に少しずつ慣らしていく方法です。

場面緘黙症の治療のゴールは発話ではなく、不安をやわらげることですので、この治療法が用いられることもあるようです。実際、拙サイトで配布中の資料No.1にも治療法の1つとして挙げられています。

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Conditioned Reflexes■ 原理は「パブロフの犬」と同じ

系統的脱感作法は、心理学の学習の理論で必ず出てくる「古典的条件付け」(Classical Conditioning)と呼ばれるものの応用です。

「古典的条件付け」と言われても何のことかピンときませんが、「パブロフの犬」と言えば分かります。犬にえさを与えるときにメトロノームを鳴らすということを繰り返すと、その犬はえさが無くてもメトロノームの音だけで唾液を出すようになるというものです(Pavlov, 1927)。

この古典的条件付けは、脳がほとんど発達していない扁形動物(プラナリアなど)にも観察されます。学習というと、私などは高度なものだと考えていたのですが、心理学の世界では必ずしもそう考えられてはいないようです。

■ 系統的脱感作法とは何ぞや

上の原理を応用して、Joseph Wolpe という精神医学者が系統的脱感作法を開発しました(Wolpe, 1958)。この治療法のポイントは、次の3つです。

◆ リラックスする
◆ 不安のレベルを段階化する
◆ 不安な状況をイメージしつつリラックスを行う


◆ リラックスする

この治療法では、患者をリラックスさせることが重要になります。そのために、漸進的筋弛緩法 (Progressive Muscle Relaxation)や自立訓練法(Autogenics)などの方法を使います。

◆ 不安のレベルを段階化する

レベルの低い不安から高い不安まで、段階を作ります。

例えば高所恐怖症なら、第1段階で1階に上る、第2段階で2階に。第3段階で3階に。…第9段階で9階に。そして最後の第10段階で屋上に上るとか(こんな例えでいいのかな?)

何段階作ればよいかは、本によって書いてあることが様々です。不安の内容にもよるのでしょうが、少なくとも10段階以上作るのが一般的のようです。

それぞれの不安の段階には、0~100点までの点数をつけます。例えば、先の例えなら1階で10点、2階で20点とか。

◆ 不安な状況をイメージしながらリラックスを行う

最初は、あまり不安を感じない段階から始めます。先の例えなら、1階から始めます。

不安を感じる状況を、想像したり絵や写真を使ったりしながらイメージします。そして、イメージしながら、上述の漸進的筋弛緩法や自立訓練法を行ってリラックスするのです。

こういうことをしているうちに、不安を感じなくなります。これは「逆制止」(Reciprocal Inhibition)と呼ばれるものです。不安がリラクゼーションによって緩和されているわけです。

不安を感じなくなったら、次のより強い不安を感じる段階に進みます。ここで不安に耐えられなくなったら、前の段階に戻ります。

こうして少しずつ段階を踏んでいくうちに、あら不思議、不安を感じなくなってしまうというわけです。不安を感じないことを学習したということなのでしょうか。

■ イメージ脱感作と現実脱感作

ここまでお話した手法はイメージを使ったものなので、特に「イメージ脱感作」(Imaginal Desensitization)と呼ばれることもあります。一方、イメージではなく直接不安な状況に身をさらす「現実脱感作」(In Vivo Desensitization)という方法もあります。

■ 心理学者初学者・富氏が感じた疑問

不安を感じるには何か原因があるのでしょうが(脳の扁桃体の機能がおかしいとか)、そうした原因に踏み込まず、学習で行動を矯正するというのは、本当にいいのかどうかと考えました。これが行動療法の特徴なのでしょうか?よく分かりません。まだまだ勉強が必要です。


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※ 扁形動物の学習に関する記述で一部誤りがありましたので、削除しました。(2006/09/24)

[注]

◆ Pavlov, I.P., (1927). Conditioned Reflexes: An Investigation of the Physiological Activity of the Cerebral Cortex. (translated by Anrep, G. V.). In Classics in the History of Psychology Retrieved September 2 , 2006, from http://psychclassics.yorku.ca/Pavlov/ Classics in the History of Psychology は、ヨーク大学(カナダ)の Green 教授による、心理学の古典をウェブ上で無料で読むことができるサイトです。全部英語ですけど。パブロフの論文は、書籍でも出ています。原文はおそらくロシア語だと思うのですが、ここでご紹介するのは、記事の画像にもある英語版です。→Conditioned Reflexes
◆ Wolpe, J. (1958). Psychotherapy by reciprocal inhibition. Stanford: Stanford University Press. 私は読んでません。

[その他参考にしたもの]

◆ Fadem, B. (2004). Behavioral Science. (4th ed.). Baltimore: Lippincott Williams & Wilkins.
◆ Hayes, N. (2003). Teach yourself psychology. (3rd ed.). Chicago: McGraw-Hill. 152-153.
◆ Levenson, H., Persons, B.J., Pope, S.K. (2000). Behavior therapy & cognitive therapy. In Review of General Psychiatry. (5th ed.). (pp. 472-482.). McGraw-Hill Medical.
◆ Plotnik, R. Introduction to Psychology. (2004). (7th ed.). Belmont: Wadsworth Publishing. 9.
◆ Richmond, L. R. Systematic Desensitization In A guide to psychology and its practice. Retrieved September 4, 2006, from http://www.guidetopsychology.com/sysden.htm.
◆ Scrignar, B. C. (1991). Stress Strategies: The Treatment of the Anxiety Disorders. Gretna: Wellness Institute. 1991. 69.
◆ Wampold, E. B. (2001). The Great Psychotherapy Debate: Models, Methods, and Findings. Mahwah: Lawrence Erlbaum Associates. 12.