場面緘黙児の不安をやわらげる系統的脱感作法 

心理学の勉強をゆ〜っくり進めていたら、場面緘黙症と関係ありそうな内容に当たったので、勉強の復習も兼ねて、まとめてみます。

今回のお題は、「系統的脱感作法(系統的脱感作療法)」(Systematic Desensitization)です。行動療法の代表的な技法の1つで、恐怖症のある人、不安が強い人を治すのによく使われているようです。

要するに、不安な状況に直面しながらリラックスさせ、不安に少しずつ慣らしていく方法です。

場面緘黙症の治療のゴールは発話ではなく、不安をやわらげることですので、この治療法が用いられることもあるようです。実際、拙サイトで配布中の資料No.1にも治療法の1つとして挙げられています。

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Conditioned Reflexes■ 原理は「パブロフの犬」と同じ

系統的脱感作法は、心理学の学習の理論で必ず出てくる「古典的条件付け」(Classical Conditioning)と呼ばれるものの応用です。

「古典的条件付け」と言われても何のことかピンときませんが、「パブロフの犬」と言えば分かります。犬にえさを与えるときにメトロノームを鳴らすということを繰り返すと、その犬はえさが無くてもメトロノームの音だけで唾液を出すようになるというものです(Pavlov, 1927)。

この古典的条件付けは、脳がほとんど発達していない扁形動物(プラナリアなど)にも観察されます。学習というと、私などは高度なものだと考えていたのですが、心理学の世界では必ずしもそう考えられてはいないようです。

■ 系統的脱感作法とは何ぞや

上の原理を応用して、Joseph Wolpe という精神医学者が系統的脱感作法を開発しました(Wolpe, 1958)。この治療法のポイントは、次の3つです。

◆ リラックスする
◆ 不安のレベルを段階化する
◆ 不安な状況をイメージしつつリラックスを行う


◆ リラックスする

この治療法では、患者をリラックスさせることが重要になります。そのために、漸進的筋弛緩法 (Progressive Muscle Relaxation)や自立訓練法(Autogenics)などの方法を使います。

◆ 不安のレベルを段階化する

レベルの低い不安から高い不安まで、段階を作ります。

例えば高所恐怖症なら、第1段階で1階に上る、第2段階で2階に。第3段階で3階に。…第9段階で9階に。そして最後の第10段階で屋上に上るとか(こんな例えでいいのかな?)

何段階作ればよいかは、本によって書いてあることが様々です。不安の内容にもよるのでしょうが、少なくとも10段階以上作るのが一般的のようです。

それぞれの不安の段階には、0〜100点までの点数をつけます。例えば、先の例えなら1階で10点、2階で20点とか。

◆ 不安な状況をイメージしながらリラックスを行う

最初は、あまり不安を感じない段階から始めます。先の例えなら、1階から始めます。

不安を感じる状況を、想像したり絵や写真を使ったりしながらイメージします。そして、イメージしながら、上述の漸進的筋弛緩法や自立訓練法を行ってリラックスするのです。

こういうことをしているうちに、不安を感じなくなります。これは「逆制止」(Reciprocal Inhibition)と呼ばれるものです。不安がリラクゼーションによって緩和されているわけです。

不安を感じなくなったら、次のより強い不安を感じる段階に進みます。ここで不安に耐えられなくなったら、前の段階に戻ります。

こうして少しずつ段階を踏んでいくうちに、あら不思議、不安を感じなくなってしまうというわけです。不安を感じないことを学習したということなのでしょうか。

■ イメージ脱感作と現実脱感作

ここまでお話した手法はイメージを使ったものなので、特に「イメージ脱感作」(Imaginal Desensitization)と呼ばれることもあります。一方、イメージではなく直接不安な状況に身をさらす「現実脱感作」(In Vivo Desensitization)という方法もあります。

■ 心理学者初学者・富氏が感じた疑問

不安を感じるには何か原因があるのでしょうが(脳の扁桃体の機能がおかしいとか)、そうした原因に踏み込まず、学習で行動を矯正するというのは、本当にいいのかどうかと考えました。これが行動療法の特徴なのでしょうか?よく分かりません。まだまだ勉強が必要です。


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※ 扁形動物の学習に関する記述で一部誤りがありましたので、削除しました。(2006/09/24)

[注]

◆ Pavlov, I.P., (1927). Conditioned Reflexes: An Investigation of the Physiological Activity of the Cerebral Cortex. (translated by Anrep, G. V.). In Classics in the History of Psychology Retrieved September 2 , 2006, from http://psychclassics.yorku.ca/Pavlov/ Classics in the History of Psychology は、ヨーク大学(カナダ)の Green 教授による、心理学の古典をウェブ上で無料で読むことができるサイトです。全部英語ですけど。パブロフの論文は、書籍でも出ています。原文はおそらくロシア語だと思うのですが、ここでご紹介するのは、記事の画像にもある英語版です。→Conditioned Reflexes
◆ Wolpe, J. (1958). Psychotherapy by reciprocal inhibition. Stanford: Stanford University Press. 私は読んでません。

[その他参考にしたもの]

◆ Fadem, B. (2004). Behavioral Science. (4th ed.). Baltimore: Lippincott Williams & Wilkins.
◆ Hayes, N. (2003). Teach yourself psychology. (3rd ed.). Chicago: McGraw-Hill. 152-153.
◆ Levenson, H., Persons, B.J., Pope, S.K. (2000). Behavior therapy & cognitive therapy. In Review of General Psychiatry. (5th ed.). (pp. 472-482.). McGraw-Hill Medical.
◆ Plotnik, R. Introduction to Psychology. (2004). (7th ed.). Belmont: Wadsworth Publishing. 9.
◆ Richmond, L. R. Systematic Desensitization In A guide to psychology and its practice. Retrieved September 4, 2006, from http://www.guidetopsychology.com/sysden.htm.
◆ Scrignar, B. C. (1991). Stress Strategies: The Treatment of the Anxiety Disorders. Gretna: Wellness Institute. 1991. 69.
◆ Wampold, E. B. (2001). The Great Psychotherapy Debate: Models, Methods, and Findings. Mahwah: Lawrence Erlbaum Associates. 12.



コメント

富氏さん、みなさん、こんばんは。
「TFT(思考場療法)」や「EFT」に似ているな、と思いました。
これらの療法も緘黙克服にはよさそうな気が
しますが、どうでしょう?
まだまだ勉強不足で子どもに試していないのですが
イメージしにくい子どもには難しいでしょうか。
(どちらかというとEFTのほうがやさしそうな気がします。)

EFTについて
http://www.eft-japan.com/nani.html

TFT療法を取り入れているメンタルクリニックに
問い合わせしましたが「緘黙にTFTですか???」
と言われてしまいました。

朋花さん、コメントありがとうございます。

「つぼ」をたたいて「気」を整えることで治す「TFT(思考場療法)」「EFT」。近年、欧米で再評価されている「代替医療」の一種でしょうか。私は初めて聞きました。教えてくださりありがとうございます。

緘黙症は不安によるものですから、TFTやEFTが不安を治すことができるのであれば、緘黙症も治せそうなものですが、どうなのでしょうね。

TFTの本のレビューに「緘黙が治った」とあったので
注目していました。今、TFTを取り入れている
別のクリニックに問い合わせ中です。
夫の賛同が得られれば 子どもを受診させたいと
思っていますので、もし行ったら掲示板でご報告します。

子どもはホメオパシー療法もやっていますが
目覚しい効果は まだ現れていません。
悪くなってはないないと思うのですが。。。

代替医療

>TFTの本のレビューに「緘黙が治った」とあったので注目していました。

そのレビュー、私も見つけました。

緘黙症の治療に関する文献で代替医療について触れられているものはなかなか見かけないので、私も興味があります。いずれ、代替医療についてブログでまとめることも考えてみたいと思います。

行動療法

富氏さん、いつもたくさんの文献を調べて、わかりやすくまとめておられますね。
行動療法で言う「学習」は、一般にいう「お勉強」とは違う意味で、ロボットで考えるなら、

ずっと同じ動きしかしないロボットは「学習しない」ロボットで、
「行動や経験のデータを蓄積」して、それが次の行動に影響するロボットは「学習する」ロボットということになると思います。

人間はみんな「勉強」してなくても、気づかぬうちに毎日「学習」してるということに。

行動療法は「学習で行動を矯正する」感じがするという人、多いのではないでしょうか。確かに、罰を与えたり、中にはえ〜人間にこんなひどいことする?みたいなびっくりするようなのもあって・・・。

症状によって「不安な場面を避ける→安心する」を日々学習してしまっている状態から、「ちょっと不安な場面に挑戦→でも安心」という新しい経験を計画的に学習していくというのが、「系統的脱感作法」のようです。
この実践を、どんな気持ちで、心の中で誰に守られて取り組むか、が重要なように思いますが。

けいこさん、いつもコメントありがとうございます。

>行動療法は「学習で行動を矯正する」感じがするという人、多いのではないでしょうか。

私は、どうしてもそう感じてしまいます。

治療を受ける本人が技法を理解し、自らの意思でこれを選択するのであれば問題はないとは思います。ただ、子どもは、技法を正しく理解できない場合もあるので、そのあたりのところも考えてしまいます。不安に身をさらすというストレスの多い技法を、理解ができない子どもに強制的に押し付けるのは是か否か、といった問題です。

そうなんです。
だから、そばで見ててあげる人がいて、その人との信頼関係がいるんだと思います。
子どもの様子をよく見て、気持ちを聞いてあげて、
無理のないスモールステップをゆっくり用意してあげることが大切なのだと思います。

自転車乗るのが怖いと言ってるのに、無理やり乗せていきなり後ろから押すのではなく、初めはしっかりと持ってやって、補助輪を片方ずつ外していく感じと思います。

私、自転車の練習でこけて、それから怖くてずっと練習してなくて、乗れたのは中学になってからです。

信頼関係

なるほど、こうなると、保護者や専門家が子どもといかに信頼関係を築くかが大事になりそうです。

自転車は、私も苦手でした。(>_<)

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