場面緘黙児の不安をやわらげる劇薬?内破療法、フラッディング法

2006年09月06日(水曜日)

「内的破砕療法」「内破療法」(Implosive Therapy)という、おっかない名前の心理療法があるそうです。「フラッディング法」(Flooding)と言った方が通りがいいかもしれません。

その原理は、前回お話した「系統的脱感作法」と同じ「古典的条件づけ」です。分かりやすくいえば、「パブロフの犬」の原理です。

ポイントは、少しずつ不安な状況に身をさらさせるのではなくて、いきなり強い不安な状況に長時間身をさらさせることです。こうして、慣れさせようという考え方です。

不安をやわらげるのに効果的だそうですが、なんだか、ちょっと危険そうな行動療法の技法です。専門家の助言なしに行ってはならないと注意している心理学文献も多数見かけます。

場面緘黙児の治療にこの技法を用いるという話は私はあまり聞いたことがないのですが、私自身の心理学の勉強ノートも兼ねて、まとめてみます。

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■ 内破療法、フラッディング法って何ぞや

内破療法は、Thomas Stampfl(Stampfl, 1967)などによって開発されました。強い不安な状況に、長時間にわたって身をさらさせ続けることによって、不安を軽減させる技法です。不安から逃げないように、部屋の中に閉じ込めたりすることもあります。

これには、人間は長時間強い不安を感じ続けることはできないという考え方が背後にあるようです。強い不安を感じると、大変なエネルギーを消耗するからです。

フラッディング法も、これとほぼ同じようです。フラッディングは洪水という意味ですから、洪水のように不安を浴びせ続けるということでしょうか。

私は内破療法とフラッディング法の違いが知りたくて色々調べたのですが、違いについて触れた文献がほとんど見つかりませんでした。両者の区別は大して重要ではないのかもしれません。

■ イメージや現実で不安を体験

この治療法には、前回お話した「系統的脱感作法」と同様に、イメージで不安を体験させるものと、現実に不安を体験させるものとがあります。

イメージによるフラッディング法を特に「イメージフラッディング」(Imaginal Flooding)、現実に不安を直面させる方法を特に「現実フラッディング」(In Vivo Flooding)と呼ぶこともあります。じゃあ、「イメージ内破」(Imaginal Implosion)「現実内破」(In Vivo Implosion)という言い方があるのかというと、ほとんど聞いたことがありません。

現実フラッディングの方が即効性があるそうです。一方、イメージフラッディングには、不安を引き起こす状況を自由に想像できるという長所があります(Corey, 2005)。どちらがいいかは、一概には言えないのかもしれません。

■ 効果のほどは

大変効果があるそうです。しかも、即効性があります。

■ 子どもに内破療法、フラッディング法を強制することの是非

こうした技法は、子どもに用いられることもあるそうです。しかし、子どもが納得してこの治療法を受ければそれはそれでいいのですが、そうではなく、親が理解のできない子どもを強制的に部屋に閉じ込めて強い恐怖を長時間にわたって押し付けるというのは、どうなのでしょうか。この治療法はリスクが高く、成功するとは限らないのです。

私が読んだフラッディング法の解説には、次のように書かれていました(Gardner, 2002)。

おそらくフラッディング法は、治療に気乗りのしない子どもには活用されるべきではないだろう。もし子どもが、進行中の問題(訳者注:恐怖症など)に向き合うよりも受け入れようとするのであれば、それが子どもの選択だ。子どもに、したいと思わないことをさせてはならない。

You probably should not utilize the technique with a child who is half hearted about commitment to it. If s/he would rather live with the ongoing problem than face it, this is his/her choice. You don't make a child do something they don't want to do.

「それは間違いだ。子どもには判断能力がないのだから、親が無理にでも受けさせるべき」

「子どもは、親の言うことには絶対に従うべきだ。親に逆らうなど、もってのほか。親が受けさせる意思であれば、強制的にでも治療を受けさせるべき」

などと、このあたりは議論が分かれそうです。

■ 場面緘黙児と内破療法、フラッディング法

場面緘黙児に、こうした技法を用いるという話は、私はあまり聞いたことがありません。

例えば、先生やクラスメイトがいる不安が強い状況で発話の訓練を何時間もし続けると、そのうち不安が消えて話せるようになるとか、そういう話は聞きません。あるいは、場面緘黙児は学校など特定の場面で不安を感じているのだから、学校に何時間も留まらせ続ければ不安が消えるという話も聞きません(だいいち、そんなことでは不安は消えません)。

場面緘黙児と行動療法といえば、前回お話した系統的脱感作法を応用したと思われるものを見かけることがあります。つまり、発話をするのに不安を感じる状況を段階化して、リラックスしながら、少しずつ不安な状況でも話ができるようにするというものです。


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[関連記事]

◆ 場面緘黙児の不安をやわらげる系統的脱感作法

[注]

◆ Corey, G. (2005). Theory and Practice of Counseling and Psychotherapy. (7th ed.). Belmont: Wadsworth Publishing. 244.
◆ Gardner, R. J. (2002). Flooding. In cognitivebehavior.com. Retrieved September 4, 2006, from http://www.cognitivebehavior.com/
practice/tools/instruction/Techniques/T07.pdf
◆ Stampfl, T. (1967). Essentials of implosive therapy: a learning-theory-based psychodynamic behavioral therapy. Journal of abnormal psychology. 72(6), 496-503. 私は読んでません。

[その他参考にしたもの]

◆ Brain, C. (2002). Advanced Psychology: Applications, Issues & Perspectives. (Illustrate edition). Cheltenham: Nelson Thornes. 28-29.
◆ Hayes, N. (2003). Teach yourself psychology. (3rd ed.). Chicago: McGraw-Hill. 152-154.