場面緘黙症と聴覚 

場面緘黙児に脳スキャンを行った結果、場面緘黙児の中には聴覚に問題がある子がいることが分かったとする研究結果が、ここ2〜3年の間に報告されています。

この研究を行ったのは、イスラエルにあるテルアビブ大学の Yair Bar-Haim 博士(臨床心理学)らのグループです。同博士 は、2003年の The Jerusalem Post の取材の中で、次のように話しています(訳の品質は保証しません)(Siegel-Itzkovich, 2003)。

「私たちの仮説は、場面緘黙児の自己発話の音の衝撃を減らすことに関わる聴覚器官の要素に、障害が起きている可能性があるというものです。多くの音が耳から入ってきますが、誰かが話し始める度に、聴覚器官は調整して、入ってくる音の強さを減らします。」

"Our theory," says Bar-Haim, "was that the elements of the hearing system involved in reducing the sound impact of self-vocalization may be compromised in SM children. A lot of noise enters the ear, and every time someone starts talking, the system makes an adjustment, reducing the intensity of sound coming in."

Bar-Haim 博士らは、どうも

「聴覚と発話には関係がある」 ⇒ 「聴覚に問題がある」 ⇒ 「発話に問題があるかも」(※ 三段論法ではありません)

という理屈のようですが、この説、どうなのでしょうか?

* * * * * * * * * *

それでは、なぜ場面緘黙児は、家に限っては発話ができるのでしょうか。聴覚に問題があれば、あらゆる場面で緘黙するというのが自然というものです。 Bar-Haim 博士はこの疑問に対し、次のように答えています(訳の品質は保証しません)(Siegel-Itzkovich, 2003)。

「場面緘黙児の家庭環境は、通常外よりも静かです。ですから、子どもたちの聴覚処理手続きは、より少なくなされます(訳者注:申しわけありません、taxes の訳が分からず、この文については正確な訳ができません)。別の可能性として考えられるのは、家庭環境はまた、より安全ですから、子どもたちは他の人々が言うことを完全に理解できないことを無意識的に許しているということです。」

"Their home environment is usually more quiet than outside it," suggests Bar-Haim, "so their auditory processing taxes them less. Another possibility is that the home environment is also more secure, so SM children can unconsciously allow themselves not to fully understand what people are telling them."

そして、これらの仮説の証明の材料となる研究結果が、同博士らの研究グループによって2004年と2006年に発表されました(Arie, Henkin, Lamy, Tetin-Schneider, Apter, Sadeh, & Bar-Haim, 2006)(Bar-Haim, Henkin, Ari-Even-Roth, Tetin-Schneider, Hildesheimer, & Muchnik, 2004)。

とはいえ、これらの論文を読んでいると、疑問を感じる箇所があります。2004年の研究では16人の場面緘黙児と16人の通常の子どもたちを比較していますが、これはサンプルの数が少なすぎるのではないでしょうか。私は心理統計には詳しくないので、間違っているかもしれませんが。

■ すべての場面緘黙児が聴覚に問題があるわけではない

この説を最初知ったとき、私は強い違和感を覚えました。私は場面緘黙症だった疑いがあるけれども、聴覚に問題なんてなかったぞ、これまで場面緘黙症の体験者やその保護者のお話をネットでたくさん読んできたけれども、聴覚に問題のある子の話なんて聞いたことがないぞ、もしかすると Bar-Haim 博士たちは、場面緘黙症を聾唖(ろうあ)と勘違いしているのではないか、と。

しかし、論文でも書かれているのですが、こうした聴覚の問題を抱えている場面緘黙児は一部であって、全ての場面緘黙児がそうであるわけではないそうです。場面緘黙児の中には、このような子もいるかもしれないということです。

そもそも、場面緘黙症は、あくまで症状の名称です。症状である以上、病因はさまざまであっても、問題はありません。これは、「発熱」という症状の原因がさまざまであるのと同じことです。

■ 聴覚処理障害ではない

紛らわしいですが、Bar-Haim 博士らが言う聴覚処理の問題は、いわゆる聴覚処理障害(中枢性聴覚処理障害;auditory processing disorders, central processing disorders)のことではありません。実際、聴覚処理障害の文献は、障害の症状に場面緘黙症を挙げてはいません。

聴覚処理障害というのは、音は通常通り耳に入ってくるのだけれども、その音が何であるかを認識することができない障害です。Bar-Haim 博士らが扱っている問題は、音が通常通りの大きさで入ってこない聴覚遠心活動(auditory efferent activity)の異常です。

■ 研究はまだまだ

場面緘黙症と聴覚処理に関する研究は、まだまだ予備的段階にすぎないようです。さらなる研究が待たれるところです。

■ 聴覚処理と、ひきこもりに関係が?〜 Bar-Haim 博士らの研究

Bar-Haim 博士らは、聴覚処理の問題に関して、他にも様々な研究を行っています(博士の研究のメインは、聴覚だけではないようですが)。

一番びっくりしたのは、"Mismatch Negativity in Socially Withdrawn Children" という論文です(Bar-Haim, Marshall, , Fox, Schorr, & Gordon-Salant, 2003)。"Socially Withdrawn Children" って、「社会的ひきこもり児」でしょうか。論文では、聴覚の問題と、"Socially Withdrawn Children" の関係について論じられています。

とはいえ、海外で "social withdrawal" というと、普通はうつ病や統合失調症、高齢者などのひきこもりのことを指します。論文を読んでみても、日本にほぼ特有の「社会的ひきこもり」の話をしているようではないようです。

聴覚器官は脳に近いところに位置していることを考えると、聴覚の問題が精神疾患の原因になることがあるという説明は、もっとものようにも思えます。

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[注]

◇ Arie, M., Henkin, Y., Lamy, D., Tetin-Schneider, S., Apter, A., Sadeh, A., & Bar-Haim, Y. (2006). Reduced auditory processing capacity during vocalization in children with selective mutism. Biological psychiatry, .
◇ Bar-Haim, Y., Henkin, Y., Ari-Even-Roth, D., Tetin-Schneider, S., Hildesheimer, M., & Muchnik, C. (2004). Reduced auditory efferent activity in childhood selective mutism. Biological psychiatry, 55(11), 1061-1068.
◇ Bar-Haim, Y., Marshall, P.J., Fox, N.A., Schorr, E.A., & Gordon-Salant, S. (2003). Mismatch negativity in socially withdrawn children. Biological psychiatry, 54(1), 17-24.
◇ Siegel-Itzkovich, J. (2003). The children of silence. The Jerusalem Post. Retrieved October 27, 2006, from
http://selectivemutism.org/JerusalemPostarticle.htm

[その他参考にしたもの]

◇ Johnson, D.C., Benson, V.C., & Seaton, J. (1997). Educational audiology handbook. London: Singular Publishing Group. 67-82.
◇ Keith, W.R. (2004). Auditory processing disorders. In Roeser, J.R., Downs, P.M. (Eds.), Auditory disorders in school children: The law, identification, remediation (3rd ed.). (pp. 124-146). New York: Thieme Medical Publishers.
◇ Hall III, W.J. (1999). Central processing disorders. In Law, J., Parkinson, A., & Tamhne, R. (Eds.), Communication Difficulties in Childhood: A Practical Guide. (pp. 207-218). Abingdon: Radcliffe Medical Press Ltd.


コメント

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今朝クリックしたらいきなり6位じゃないですか!!!
すごい!!
(記事と関係なくてすみません。つい、、、v-221

ははさん、コメントありがとうございます。

今見たら、5位になっていました。

姉妹ブログの方も、最近50位以下と低迷していたのに、20位にまで急上昇しています。なぜ?

処理速度の問題

ちょっと違う話になりますが、うちの子は耳から入ってくる情報を頭で理解するのに時間がかかるようです。家族で話をしているときに、「今の何の話?」「どういう意味?」と聞き返されることが多いです。普通なら1回言って終わる話を、ゆっくりと繰り返し言い直さなければならないことがときどきあります。とくにややこしい話になると、ゆっくりと、間を取りながら話す必要があるようです。

また、テレビを見ているときに話しかけると、混乱して怒り出すことがあります。一つのことをしながら、別のことをするのが苦手なことと関連しているのでしょうか。(同時処理の問題)

学校では、何か連絡事項などがあって先生が口頭で言った場合、ちゃんと聞き取れないときがあります。聞こえないわけではないけれど、何て言われたかわからないことがよくあるらしいです。特に、他に心配事があるときにその傾向が強くなります。

何かに気をとられて聞き逃すことは誰にでもあることだと思いますが、息子の場合、その頻度が高いのです。ですから、中学校の先生にはなるべく書いていただいて、目で確認できる形をとっていただいています。

こういった、耳から入ってくる情報の処理速度の問題は、友達との会話場面で影響が大きいような気がします。話題が次から次と移り変わっていく会話(特に複数での会話場面)では、ついていくのに精一杯で、ほとんど聞き役に徹するしかないように思われます。(自分もその傾向があるのでそんな気がします。)

息子が今後、仮にある程度発声することに関して克服できたとしても、他の子供たちと同じように話すことは難しいように思っています。息子には、そういうことも含めて、自分の特徴を理解し、どういった工夫をすればうまくやれるかを学べるよう、援助していきたいと思います。

みちさん、コメントありがとうございます。

みちさんのお子さんには、そういう情報の処理速度の問題があるわけですね。こうなると、単にお子さんの不安をやわらげるというだけでは、おっしゃるように他の子たちと同じような発話にもっていくことは難しいかもしれません。

みちさんのお子さんの例とは違うかもしれませんが、シポンブラム博士のSMartセンターのサイトには、感覚情報の処理に問題がある「感覚統合障害」(Sensory Integration Dysfunction)の子が、場面緘黙児の中にはいるという話が載っています。

軽度発達障害と場面緘黙症の関係については、さらなる研究が待たれるところです。私も、分かることがあれば、今後ブログで取り上げたいと思っています。

感覚過敏

こんにちは。
聴覚に問題が・・・というのは 息子を見ていると
あるかもしれないしないかもしれない、という感じです。
話をしていても「意味わかんない」「どういうこと?」
と言われることも多いですが、まぁまだ5歳ですから。
順序だててわかりやすく話すようにしています。
幼稚園でもわからないこと、聞きたくても聞けないことは
いろいろあるんだろうな、と思います。

「感覚統合障害」はある(あった)かもしれません。
年齢とともにこだわりがなくなってきましたが
もっと小さい頃はいろいろありました。

大きな音に耳をふさいだり、特定の音を嫌がったり
感触、食感、臭いの嫌なものは ものすごく嫌がりました。
半袖になるのも嫌がり衣替えの時期は大変でした。
もしかして発達障害?と不安がよぎったのですが
まだその不安がなくなったわけではありません。

朋花さん、コメントありがとうございます。

朋花さんのお子さんも、そうなんですか。

お子さんが本当に「感覚統合障害」かどうかは慎重に評価されるべきだと思いますが、お子さんの症状はアメリカの場面緘黙症不安研究治療センター(SMartセンター)ウェブサイトの説明と似ています。

感覚統合障害の子どもは、特定の感覚情報や、音、光、感触、味、臭いといったものの処理に問題があるようです。こうした子どもは周りの状況を誤って解釈し、不安になります。その不安が、場面緘黙症の原因になると考えられているようです。

処理速度・感覚過敏

いつも拝見し、とても参考にさせてもらっています。
聴覚との関連に関しては私は疑問を感じます。4歳の息子は、1歳前に中耳炎で両耳を切開したので、その時期は聞こえにくかったかも知れませんが、それ以降特に「耳がおかしい」と感じたことはありません。
処理速度は・・・うちの息子も人よりワンテンポ遅い感じがします。小さいときは「おっとりした子だ」と思っていたのですが、3歳過ぎて絵本で「犬はどれ?」ととっさに聞くと1回目はほぼ間違いました。その後の質問は正しくさせるのですが・・・「言葉が脳に伝わり理解する」ことがすぐに出来ない感じでした。

感覚過敏についても、思い当たります。
離乳食の時期からとにかく偏食が激しく、今も食べられるものが限られています。
大きい音、威圧感のある生き物(ライオン・熊など・大きい外国人まで!)も苦手で、時には硬直し身震いします。そして恐怖を感じた後、脳の働きを止めるかのように「昼寝」をします。
うちはまだ小さくいろいろな検査が出来ていないのですが、今後知能や障害も視野にいれた検査が入ってくるようです。

ぽんさん、コメントありがとうございます。

聴覚との関連についてはこれからの研究が待たれるところですが、こうした聴覚の問題がある緘黙児は、全体の一部のようです。私も聴覚には問題がなかったのですが、今後の研究の進展に注意しています。

処理速度の問題かどうかは分かりませんが、緘黙児には質問に対する応答が遅い傾向があるそうです。このことは、配布中の資料1の「場面緘黙児に最もよくみられる人格特性は何か」でも取り上げられています。

感覚過敏についても当てはまりますか。感覚過敏は、緘黙児のやはり全てではなく一部の子の問題のようですが、お話を伺っていると、こうした緘黙の子も多いのかもしれないなと思いました。

聴覚について

はじめまして。場面緘黙症の中学生の子をもつ母です。
約3週間前に、このブログの存在を知り、夢中で読ませてもらっています。

聴覚については、私も気になっています。
まず、音楽の授業を嫌がります。
そして、これは先日のことですが、教室の前の廊下で、生徒同士の喧嘩→騒がしい、という状況があったようです。本人はその状況に耐えられなかったのか、黙って学校より帰ってしまったのです。

どう解釈したらいいのでしょうね?

小学校時代に、他の子が担任の先生に叱られているのに、まるで自分が叱られているように反応してしまうことも多々あったことを考え合わせると、もしかしたら自分も喧嘩に巻き込まれているように感じてしまったのでしょうか??それとも騒がしい音に耐え切れなかったのか??

また、「場面緘黙児の家庭環境は、通常外よりも静かですから・・・」とありますが、そういえばうちは兄弟が多いにもかかかわらず、静かなのです。それぞれ思い思いに本、パソコン、ゲーム・・・をしていることが多いですね。よく大家族にありがちな「取っ組み合いの喧嘩」といったものはないのです。

ふみかさん、はじめまして。

ふみかさんのお子さんに聴覚の問題があるのかどうかは慎重に判断されるべきだと思いますが、それだけ思い当たる節があると、気になりますよね。もう少し、本人に話を聞いたり、専門的な診断を受けてみたりしないと、分かりません。

それから、確たる根拠はないのですが、緘黙児には聴覚に問題がなくても、静かな環境を好む子が多いような、そんな気もします。

かつて緘黙症?だった私は聴覚には問題がないと自覚していますし、耳鼻科でもそういう診断を受けたことがないのですが、騒がしい場面は昔から好きではありませんでした。買い物に行くと、店によっては流行歌がガンガン鳴っていたりしますが、そういう店は苦手です。しかし、これは単に、私の性格が関係しているだけです。緘黙症のため昔から極端に大人しい性格で、そのため、今でも一人で静かにしているのを好む傾向があります。

みるも

質問されて聞き取れないことってよくあります。
聞き取れないから「え?」ともう一度聞いてそれでも
聞き取れないときもあります。そのまま誤った返事を
返してしまいます。
家ではちゃんと聞き取れます。
あと理解するのにも時間がかかります。

感覚?それはよくわからないけど電車が走ってる
はやいスピードのとき電車を見てられなく下を向いて
しまうけどこれは感覚のほうとは関係ないですね><;

みるもさん、コメントありがとうございます。

みるもさんにも、そういうところがありますか。私も昔から呑み込みが悪く、時に人を非常にイライラさせます。(>_<)

本当に聴覚に問題があるかどうかは慎重に判断されなければならないと思いますが、この記事の予想以上の反響には驚いています。これまで、緘黙と聴覚の関係について、あまり話を聞いたことがなかったので。

速いスピードは、私も苦手ですね…。車を運転しているとき、時速60キロ以上で走ると、なんだかおかしくなってきます。昨日もそれで大変でした…。そういえば、みるもさんも、もうすぐ自動車学校に通うような年齢になりますね。v-448

はじめまして。私も、場面緘黙症です。
聴覚に関係あるのかもしれませんが、私自身について言えば全く問題ありません。
私の場合、家族や初対面の人との会話は全く普通にできます。会社や近所付き合いなど、関わりが長くなるほど会話ができなくなる...場面に応じて選択して外界からの音を遮断したりしている?だとすれば、聴覚そのものにやはり問題はないと思うのですが...。どうなんでしょう。

子供の頃は会話ができないために他人に訊くということができないためにかえって、注意深く話は聞くほうだったと思います。

納屋橋饅頭さん、はじめまして。

場面に応じて緘黙するだけでなく、音まで遮断…。聴覚に問題があるかどうかは、申しわけありませんが、私には分かりません。

私も子供の頃は会話ができなかったので、かえって人の話はよく聞く方でした。

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