場面緘黙症と心理学の学派(1)~精神分析学的説明

2006年11月13日(月曜日)

心理学初学者の私にはよく分からないのですが、心理学にも学派があるようです。

そして、その学派によって、場面緘黙症の原因や治療法の説明が違ってくるようなのです。

※ 精神分析学については、「それはフロイトの理論で、現代の精神分析学は違う」というご意見をいただいており、現在内容の修正を検討しています。(12/08/2006)

[場面緘黙症の原因と治療法]

○ 精神分析学:不幸な生い立ちだった⇒葛藤を解消せよ
○ 行動分析学:条件づけによる学習の結果だ⇒条件づけで治せ
○ 認知心理学:認知が悪い⇒認知の歪みを修正せよ
○ 生物学:脳内の神経伝達物質が関係している⇒薬で治せる

※ あっ、生物学は、心理学ではありませんね…

そうなると、場面緘黙症の文献を読む際には注意が必要になりそうです。論者によって、場面緘黙症の説明に偏りが出てくるかもしれないからです。

例えば、精神分析派の論者は、誰が何と言おうと、虐待だとか葛藤だとかで説明してしまう傾向があるのかもしれません。一方、行動分析派は、同様に、学習だとか条件付けだとか、そうしたもので説明する傾向があるのかもしれません。

場面緘黙症に関する文献を読む場合には、その論者がどの学派に近いかを見ておいた方がよいでしょう(ちなみに私は初学者で、どの学派にも属していません)。

そこで、場面緘黙症の説明を学派別に整理してまとめてみました。今回は、精神分析学的説明です。

[目次]

◇ 場面緘黙症と心理学の学派(1)~精神分析学的説明
◇ 場面緘黙症と心理学の学派(2)~行動分析学的説明
◇ 近日公開

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■ 精神分析学的説明

精神分析学的説明のキーワードは、葛藤、抑圧、精神力動、無意識、固着、リビドー、心的外傷(トラウマ、特に性的なもの)、虐待、家族病理、過保護/支配的な母親、厳格/無関心な父親などです(例えば、Chethik, 1973; Dow, S. P., Sonies, B. C., Scheib, D. S., Moss, S. M. & Leonard, H.; Jacobsen 1995; Hayden 1980←あのトリイ・ヘイデン氏です, Youngerman 1979 など)。

◇ 原因

小さい頃に受けた心的外傷や、親の養育態度が、場面緘黙症の原因になっていると説明されます。そして、その原因となった不安は、本人は覚えていないと考えられているようです。

場面緘黙児は家族の秘密を保持しているとか、母親に対して敵意を示しているとか、口腔期や肛門期に固着して退行しているとかいった説明があるとすれば、それは精神分析の考え方に基づいたものでしょう(Giddan, J.J., Ross, G.J., Sechler, L.L., & Becker, R.B., 1997)。

◇ 治療法

治療法としては、葛藤に焦点を当てた精神力動療法や、機能不全家族を対象にした家族療法などが挙げられます。

◇ 評価

こうした考え方は、一昔前までは主流でした。しかし、いかんせん、根拠が薄弱でした(もっとも、他の学派の説明も、まだ根拠が十分に多いとも言えないのですが…)。

さらに、場面緘黙児を何十人も集めて統計学的に調べたところ、場面緘黙児で心的外傷や虐待を受けた経験のある子はそれほど多くはないことが分かってきました(例えば、Dummit, E.S., Klein, R.G., Tancer, N.K., Asche, B., & Martin, J., 1997)。このため、現在、こうした考え方は現在否定的に見られています。

心理学初学者の私にはよく分からないのですが、そもそも精神分析の方法は人文科学的なもので、主観的な色があると聞きます。ですから、客観的な根拠があるかとか、ちゃんと実証されたのかとか、数字を使って示せとかいう話になると、どうもそのあたりは弱いようです。

◇ 場面緘黙症は神経症とみなされていた?

そう言えば、私も詳しくはありませんが、神経症の原因も、Freud, S (←フロイトのことです)の頃から、こうした葛藤とか抑圧とかいう概念で説明されてきたそうです。もしかすると、場面緘黙症も精神分析学的には神経症とみなされていたのかもしれませんね。

精神分析の考え方にもとづいた治療法は、神経症に関して言えば、効果があまりなかったり、時間がかかったり、お金がかかったりと、いまひとつだそうです(もっとも、最近は、短期精神力動療法というものもあるそうです)。現代ではむしろ SSRI といった薬や、行動療法の方が効果を上げていると聞きます。

Freud を祖とする精神分析の概念は、現代でも臨床心理学の分野などで生きてはいるけれども、神経症や不安障害について言えば、現代では脳科学の進歩や SSRI の登場、客観性の問題、治療法の効果の問題などによって旗色が悪くなってきている…というのが心理学初学者の私の理解ですが、どうなのでしょうか。

(つづく)

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※ 更新が1週間以上空いてしまった…ゴメンナサイ。

[注]

◆マークがついているものは、私は直接読んでいないので、ご注意を。

◆ Chethik, M. (1973). Amy: The intensive treatment of an elective mute. Journal of the American Academy of Child Psychiatry, 12(3), 482-498.
◆ Dow, S. P., Sonies, B. C., Scheib, D. S., Moss, S. M. & Leonard, H. (1995). Assessment and treatment of selective mutism. Journal of the American Academy of Child & Adolescent Psychiatry, 34(7), 836-846.
◇ Dummit, E.S., Klein, R.G., Tancer, N.K., Asche, B., & Martin, J. (1997). Systematic assessment of 50 children with selective mutism. Journal of the Academy of Child and Adolescent Psychiatry. 36(5):653-660.
◇ Giddan, J.J., Ross, G.J., Sechler, L.L., & Becker, R.B. (1997). Schools, selective mutism in elementary school. Multidisciplinary Interventions, Language, Speech and Hearing Services in the School, 28, 127-133.
◆ Jacobsen, T. (1995). Case study : is selective mutism a manifestation of dissociative identity disorder ? Journal of the American Academy of Child & Adolescent Psychiatry, 34(7):863-6.
◇ Hayden, T. (1980). Classification of elective mutism. Journal of the American Academy of Child Psychiatry, 19(1):118-133.
◆ Youngerman, J. (1979). The syntax of silence: elective mute therapy. International Review Psychoanalysis, 6, 283-295.

[その他参考にしたもの]

◇ Coon, D. (2004). Psychology: A journey. (2nd ed.). Belmont: Wadsworth Publishing. 2004. 696.
◇ Dow, SP, Sonies , BC , Scheib, D, Moss, SE et al. (1996) Practical guidelines for the assessment and treatment of selective mutism. Annual Progress in Child Psychiatry and Child Development 1996. New York: Brunner/Mazel. 452-472.
◇ Hayes, N. (2003). Teach yourself psychology. (3rd ed.). Chicago: McGraw-Hill. 236.
◇ Joseph, P.R. (1999). Selective mutism - The child who doesn't speak at school. Pediatrics, 104(1), 308-310.
◇ リタ・L. アトキンソン、エドワード・E. スミス、スーザン ノーレン‐ホークセマ、チャード・C. アトキンソン、ダリル・J. ベム著、内田一成訳、『ヒルガードの心理学』ブレーン出版、2002年。