場面緘黙症と心理学の学派(2)~行動分析学的説明

2006年11月23日(木曜日)

「場面緘黙症と心理学の学派」の続きです。今回は、行動分析学的説明について書いています。

なお、繰り返しますが、私は心理学初学者です。

[目次]

◇ 場面緘黙症と心理学の学派(1)~精神分析学的説明
◇ 場面緘黙症と心理学の学派(2)~行動分析学的説明
◇ 近日公開

[復習]

※ 精神分析学については、「それはフロイトの理論で、現代の精神分析学は違う」というご意見をいただいており、現在内容の修正を検討しています。(12/08/2006)

○ 精神分析学:不幸な生い立ちだった⇒葛藤を解消せよ
○ 行動分析学:条件づけによる学習の結果だ⇒条件づけで治せ
○ 認知心理学:認知が悪い⇒認知の歪みを修正せよ
○ 生物学:脳内の神経伝達物質が関係している⇒薬で治せる

■ 行動分析学的説明

行動分析学的説明のキーワードは、行動、環境、行動随伴性、学習、強化、好子、嫌子、条件づけ、暴露(エクスポージャー)などです。

行動分析学は、心の解明のために、客観的に観察可能な「行動」に分析の重点を置く心理学の一派です。行動の原因を、意識など本人の心ではなく、環境に求めます。

◇ 原因

行動分析学では、場面緘黙は、嫌子(負の強化子)による回避行動または逃避行動だと説明されます(例えば、Leonard, & Topol, 1993)(負の強化については、「負の強化、罰」で詳しく説明しています)。

なんだか難しそうですが、これをブログ「臨床心理学にいる 臨床心理士指定大学院受験講座」の榎本氏が分かりやすく解説しています。

「話さない」→「緊張しない」・「不安が軽減する」→「話さない」ことが強化される。このメカニズムが症状を持続させる要因であり、長期化すると予後が悪くなる原因でもある。

(心理学用語集・臨床 135 選択性緘黙)
http://www.nutshell.jp/mind/2005/04/135_3cef.html

※ 榎本氏が説明しているのは、持続のメカニズムですね…。失礼しました。しかし、原因の説明もこういうものだと理解して問題ないと思います。(11/24/2006)

学校など特定の環境にいると、とても緊張しますし、不安になります。これを避ける行動が緘黙だという説明です。緘黙すると緊張が解けますし、不安も和らぐということだそうです。

こうして緘黙行動が学習されます。長期化するほど行動が強化されてしまいかねず厄介です。緘黙児には早めの介入が肝心などとよく言われますが、これも、緘黙が条件づけされた行動になって緘黙行動が変えにくくなる前に、というのが一つの論拠のようです(Dunaway, 2005)。

こうしたことに加え、緘黙児に発話の訓練をしたり強制したりすると、子どもの不安を高め、緘黙症状が悪化します。こうした行為は 「緘黙行動を負に強化する」(negatively reinforce mute behavior) ものです(Shipon-Blum, E.)。

このように、行動分析学的説明では、緘黙行動の原因を、本人ではなく環境に求めます。葛藤等、本人の無意識に原因を求める精神分析学的説明とは対照的です。
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◇ 治療法

Helping Your Child With Selective Mutism: Steps to Overcome a Fear of Speaking行動分析学的な治療法、行動慮法は、やはり強化、特に正の強化を使ったものです。具体的には系統的脱感作療法シェイピング法トークンエコノミー法などです。

注意すべきは、療法のゴールは発語ではなく、あくまで学校などの特定の場面で不安を感じないようにすることです。

行動療法による場面緘黙症の治療については、Helping Your Child With Selective Mutism に詳しいです。

◇ 評価

○ 学界では

今月、イギリスの学術雑誌で、場面緘黙症に関する新しい論文が発表されました。1990-2005年の間に発表された場面緘黙症の治療(11/25/2006修正)に関する文献を批判的に評価したものです。これによりますと、これまでの研究は、場面緘黙症の治療に行動療法を使うことを支持するものだそうです(Cohan, Chavira,& Stein, 2006)。行動療法は効果がありそうだということのようです。

Helping Your Child With Selective Mutism を見ても、場面緘黙症への行動療法のノウハウはよく蓄積されていることが分かります。

一方、ある方に教えていただいたのですが、薬物療法は成功しているけれども、行動療法が薬物療法と同じぐらいの成功率を上げている科学的な証拠はないとする主張もあります(Dummit, 2004)。

行動療法が効果を上げているのなら行動分析学的説明も説得力があるなと思うのですが、微妙なのかもしれません。

○ 個人的に思うこと

緘黙すれば不安がやわらぐ、だから緘黙するというのが行動分析学的説明ですが、おそらく緘黙児は、黙っていてもなお大変緊張しているのではないかと思います。誤解をされると困るのでこの点ははっきり書いておきます。

それから、私は心理学初学者ゆえ、よく分からないのですが、学校などの特定の環境が嫌子となって緘黙行動を強化するという考え方は理解できます。しかし、圧倒的多数の子どもたちは、そうした環境に入っても緘黙行動はとりません。緘黙児だけこうした行動をとる原因を、行動分析学ではどう説明するのでしょうか。

行動分析学的説明は、場面緘黙症に環境がいかに大きな影響を与えるかという視点を与えてくれます。行動分析学の妥当性については私は判断できませんが、教室の環境や教師や生徒の対応によって緘黙症状が良くなることもあれば悪くなることもあるという考え方には同意できます。

なお、緘黙児は自分から積極的に環境に働きかけることはとても苦手なのではないかと私は思います。その上、ある程度の年齢の緘黙症の人が、行動分析の考え方を持ち出して「緘黙の原因は環境だ!俺の環境変えてくれ!」と言おうものなら、誤解を与えかねません。傍から見ると「緘黙症のやつらは自分から話そうと努力せずに、環境のせいにばかりする甘ったれ」と映ることでしょう。

(つづく)

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[注]

◆マークがついているものは、私は直接読んでいないので、ご注意を。

◇ Cohan, S.L., Chavira, D.A., & Stein, M.B. (2006). Practitioner Review: Psychosocial interventions for children with selective mutism: a critical evaluation of the literature from 1990-2005. Journal of child psychology and psychiatry, and allied disciplines, 47(11), 1085-97.
◇ Dummit, E.S. (2004). Selective Mutism Handout. Retrieved November 22, 2006, from
http://home.earthlink.net/~esdummit/
sitebuildercontent/sitebuilderfiles/dummit_sm_info.pdf
◇ Dunaway, C. (2005 Fall). Using a counseling approach when working with children with selective mutism. CSHA Magazine. 10-15.
◆ Leonard, H.L., & Topol, D.A. (1993). Elective mutism. In H. L.Leonard (Ed.). Child and adolescent psychiatric clinics of North America.. Anriery disorders (pp. 695-708). Philadelphia, PA: Saunders.
◇ Shipon-Blum, E. “When the words just won’t come out” Understanding selective mutism. Retrieved November 22, 2006, from
http://www.selectivemutismcenter.org/AAAAAAttachments/
whenwords.htm.;
SMJ翻訳チーム翻訳「場面緘黙症を理解するために」最終アクセス2006年11月22日 from
http://nhjournal.kurushiunai.jp/2006_11_05understandig_sm.htm

[その他参考にしたもの]

◇ Giddan, J.J., Ross, G.J., Sechler, L.L., & Becker, R.B. (1997). Schools, selective mutism in elementary school. Multidisciplinary Interventions, Language, Speech and Hearing Services in the School, 28, 127-133.
◇ Gimpel, A.G., & Holland, L.M. Emotional and behavioral problems of young children: Effective interventions in the preschool and kindergarten years. (2003). New York: The Guilford Press. 105.
◇ Mcholm, E.A., Cunningham, E.C., & Vanier, K. M. (2005). Helping Your Child With Selective Mutism. Oakland: New Harbinger Publications, Inc.
◇ 杉山尚子『行動分析学入門』集英社新書、2005年。
◇ リタ・L. アトキンソン、エドワード・E. スミス、スーザン ノーレン‐ホークセマ、チャード・C. アトキンソン、ダリル・J. ベム著、内田一成訳、『ヒルガードの心理学』ブレーン出版、2002年。