場面緘黙症の発症率は?(3)~補論・DSM-IIIRとDSM-Ⅳの診断基準の違い

2006年02月26日(日曜日)

補論です。DSM-IIIRとDSM-Ⅳの、場面緘黙症の診断基準の違いについて触れます。

[目次]

■ DSM-IIIR、DSM-Ⅳとは何?
■ それぞれの診断基準は、どう違うのですか?
■ 緘黙児2%以上説は、DSM-IIIRの診断基準がもと
■ 蛇足・DSM-IVとDSMIV-TRの、場面緘黙症の診断基準は一緒

* * * * * * * * * *

■ DSM-IIIR、DSM-Ⅳとは何?

DSM-IIIRというのは、アメリカ精神医学会によるDiagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders (『精神障害の診断と統計の手引き』)の第3版の改訂版です。同様に、DSM-Ⅳは、その第4版になります。DSM-IIIRは1987年、DSM-Ⅳは1994年のものです。ちなみに、最新版は2000年に改定された DSMIV-TR です。

■ それぞれの診断基準は、どう違うのですか?

DSM-Ⅳができるまでの経緯を記述した、Dsm-IV Sourcebookを見ればよく分かります(注)。

* 以下引用 *

Trancer and Klein also suggest excluding those cases in which the mutism is due to a lack of fluency in the language (e.g., recent immigrant children who are mute until they become familiar with the English language) and among children with a different speech and language disorder who are embarrassed to speak in public. An additional suggestion is to increase the minimum duration (Trancer and Klein, Chapter 14), because there are data suggesting that, in some instances, symptoms are quite transient. DSM-III-R provided no minimum duration, ICD-10 requires 6 months, Trancer and Klein suggest 3 months, and the Work Group proposed 1 month.

[富氏訳(訳の品質は保証しません)]

トランサーとクラインはまた、言語が流暢でないことによる緘黙症(例えば、英語に慣れるまで口数が少ない、移住してきたばかりの子供)や、公の場で話すことに恥ずかしさを感じる別の言語障害を除くよう提案しています。もう一つの提案は、最低継続期間を増やすことです(トランサーとクライン、第14章)。なぜならば、いくつかの事例では症状が極めて短期的だということを示すデータがあるからです。DSM-III-Rには最低継続期間がありませんでしたが、ICD-10は6ヶ月、トランサーとクラインは3ヶ月、ワークグループは1ヶ月を提案しています。

* 引用終わり *

トランサーさんって誰?クラインさんって誰?などという疑問がわいてきますが、それは置いておきましょう。上の文章から、診断基準として次のような変更がなされたことが読み取れます。

★ DSM-IIIRでは、言葉が流暢でない者も緘黙症に含めていたが、DSM-IVでは含めない。
★ 公の場で話すことに恥ずかしさを感じる別の言語障害についても同様。
★ 最低継続期間を設ける。

最低継続期間の議論については、「1ヶ月」でまとまったようです。

こうして見てみると、DSM-IIIRはDSM-IVに比べて、場面緘黙症をより広く捉えていることが分かります。

例えば、日本からアメリカに転校した子供が、単に英語が流暢に話せないというだけで学校で無口になった場合、その子供はDSM-IIIRでは場面緘黙児とみなされますが、DSM-IVではそうならないわけです。

■ 緘黙児2%以上説は、DSM-IIIRの診断基準がもと

「場面緘黙症の発症率は?(1)」でご紹介した緘黙児2%以上説は、DSM-IIIRの診断基準をもとにしたものでした。これだと、DSM-IVをもとにした説に比べて大きめの数字になってしまいます。

先日ご紹介した最新の緘黙本(洋書)は2%以上説を大きく取り上げているので、てっきり私も2%以上説が最新の学説だと思っていたのですが、そうではなかったようです。

■ 蛇足・DSM-IVとDSMIV-TRの、場面緘黙症の診断基準は一緒

DSMの最新版はDSMIV-TR(2000年)ですが、診断基準に限ってみると、DSM-IV(1994年)と同じです。ですから、「私のウェブサイトに載せている診断基準はDSM-IVだ!最新のDSMIV-TRにしないと!」などと慌てる必要はありません。

(場面緘黙症の発症率のシリーズは、これで終わります)


人気blogランキングに参加しています。今回の記事が良かったよ!と思われた方は、下のリンク「人気blogランキングへ」をクリックしていただけると嬉しいです。あなたの1票が、私の励みにつながります。

人気blogランキングへ

[注]

◇ Shaffer, D., Widiger, A.T. & Pincus, A. H. (1994). Disorders usually first diagnosed in infancy, childhood, or adolescenece (Part II) In Widiger, A.T., Frances, J.A., Pincus, A.H., Ross, R. First, B.M. & Davis, W. (Eds.), DSM-IV Sourcebook (Vol. 1) (pp. 111-144). Washington, D.C.: American Psychiatric Association. 108.