日本初の緘黙研究?「口をきかない子供」(1951)・後編

2007年06月23日(土曜日)

「日本初の緘黙研究?『口をきかない子供』(1951)・前編」の続きです。

■ 緘黙児の数と原因の調査

高木氏は緘黙児の数と原因を調査し、「口をきかない子供」の中で発表しています。[1] もちろんこれも、国内初の調査です(私が調べた限り)。

◇ 調査結果

緘黙児の数は4,203人中41人。原因は、「劣等児」、「精神薄弱」、「親の過度の過保護」などが上位に挙げられています。

◇ 調査方法

調査方法についての詳しい説明は、紙幅の都合からか、省かれています。

この説明は、「口をきかない子」の9ヵ月後に発表された「小学校における精神衛生上の問題について」でなされています。調査の対象は、都会地、地方小都市、農村の代表3小学校。「まず教師にその受持児童のうちから教師の所見によって問題児を選んでもらい、それら一人ひとりの児童についてケーススタディ(事例研究)を行うというやり方によった」とあります。[2]

なお、当時はDSMの診断基準はありませんでした。先行研究も乏しかったでしょうから、高木氏ら独自の基準で緘黙の診断がなされたものと思われます。

◇ 緘黙の原因の調査はアバウト?

私が気になったのは、高木氏の緘黙の原因についての調査です。高木氏は緘黙児1人1人の原因を事例研究を通じて判断したようですが、私は、高木氏らは緘黙児の原因をわりとアバウトに判断していたのではないかと思うのです。

高木氏が紹介している緘黙児の事例の中には、実際に甘やかしの事実を確認していないにもかかわらず、「甘えた口調が認められる」「虚弱体質であった」といったことを根拠に、「親が甘やかして来たということは十分考えられることである」としているものがあります。

とはいえ、後の日本の研究者も、緘黙の原因としてだいたい高木氏と同じようなものを挙げており、[3] 高木氏の研究を追認したようなかたちになっています。

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■ 「口をきかない子供」の関連文献

「口をきかない子供」の9ヵ月後、高木氏は「小学校における精神衛生上の問題について」を、翌年には「問題児の発生原因論」を発表しました。[4] [5]

◇ 「小学校における精神衛生上の問題について」

「小学校における…」では、高木氏らの研究の全容がまとめられています。つまり、緘黙だけでなく、精神薄弱、無断欠席等の児童の問題について行った調査の全容です。

しかし、この論文で示されている緘黙についての調査結果は、「口をきかない子供」のそれと微妙に異なります。例えば、「口をきかない子供」では緘黙児の数は 4,203人中 41人でしたが、「小学校における…」では、4205 人中 43人となっています。緘黙の原因についても、「言語発達遅滞」となっていたものが「言語発達遅滞による劣等感」に変わっていたりと微妙な違いがあります。

◇ 「問題児の発生原因論」

翌年の「問題児の発生原因論」では同じ調査の紹介に加え、緘黙はわが国特有の問題ではないかという見方が示されています。ここでは緘黙児の数が 4,203人中 41人 と再び修正されています。

■ 「口をきかない子供」の反響

緘黙に言及した全ての文献に目を通したわけではないのですが、今のところ私が見た限り、「口をきかない子供」を引用したり参考文献に挙げたりした研究は、1987年の牧野博己氏のものしか見つかりません。[6]

ただし、「口をきかない子供」のもととなった調査が報告された「小学校における精神衛生上の問題について」は、1952年に中川四郎氏が引用していますし、[7] 1959、1960年には内山喜久雄氏が簡単にではありますが言及しています。[8][9]

また、同じ調査をもとにした「問題児の発生原因論」も、緘黙の先行研究として1956年に後藤毅氏が、[10] 1963年には佐藤修策氏が引用しています。[11]

高木氏の研究が発表されても、日本ではなお緘黙の研究がなかなか行われませんでした。緘黙の研究発表がある程度活発に行われるようになったのは、1960年代からです。

■ むすび

うまくまとまりませんでしたが、高木四郎氏の「口をきかない子」についてお話してきました。

「口のきかない子」のむすびで、高木氏は、緘黙は「多くの場合、口をきかないということの他に、いろいろな問題を持っているものであり、精神衛生上ゆるがせにできぬ問題」「教師と親との密接な連携がぜひ必要」と指摘しています。

この指摘は、50年以上たった現代でも妥当なものだと思います。

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[注と参考文献]

うーん、こんな書き方でいいのかな…。

[1] 高木四郎「口をきかない子供-事例研究その2」、『児童心理と精神衛生』、第1巻、第5号、1951年3月、332-335、342ページ。
[2] 高木四郎「小学校における精神衛生上の問題について」、財団法人日本学校衛生会、学校衛生研究所編『学校保健の研究 第二集』、東山書房、1951年12月、21ページ。
[3] 河井芳文、河井英子『場面緘黙児の心理と指導-担任と父母の協力のために』、田研出版、1994年、55-59ページ。
[4] 高木四郎「小学校における精神衛生上の問題について」、財団法人日本学校衛生会、学校衛生研究所編『学校保健の研究 第二集』、東山書房、1951年12月、20-33ページ。
[5] 高木四郎「問題児の発生原因論」、中脩三編『異常児』、医学書院、1952年、15-16ページ。
[6] 牧野博己「緘黙の事例研究」、『情緒障害教育研究紀要』、第6号、1987年、21ページ。
[7] 中川四郎「山間工業地域における学童の精神医学的研究」、中脩三編『異常児』、医学書院、1964年、99-100ページ。
[8] 内山喜久雄「小児緘黙症に関する研究 第1報 発現要因について」、『北関東医学』、第9巻、第4号、1959年、772ページ。
[9] 内山喜久雄「緘黙の形成要因ならびに心理的機制について」、『児童精神医学とその近接領域』、第1巻、第1号、1960年、57ページ。
[10] 後藤毅「情緒的障碍に因る緘黙児に対する心理療法の一事例」、『大阪市立大学家政学部紀要』、第3巻、第5号、249ページ。
[11] 佐藤修策「場面緘黙の形成と治療」、『臨床心理』、Vol.2、No.2、1963年、97、101ページ。