あまり知られていない、場面緘黙症の本を見つけました。
工藤泰則『話せるようになったまさえさん』、明治図書、1983年。
著者は小学校教諭です。場面緘黙症のまさえさんを小学5〜6年の間に受け持ち、緘黙を克服させるまでを綴っています。
場面緘黙症に関する本は多数出ており(詳しくは
「関連書籍」参照)、特に最近ではブログによる情報発信が盛んに行われています。しかしその多くは、元緘黙症児、保護者やセラピストの視点から書かれたもので、教師の視点によるものは滅多に見かけません。その意味で、本書は貴重です。
著者の学校には情緒専門の先生がいるのですが、著者は独自の判断でまさえさんの指導を行っています(著者はそれを「治療」と呼んでいます)。もっとも、その主たる内容は行動療法と似ていると私は思います。少しずつ学級での言語行動を形成していこうというものです。
ただ、それは時に厳しさを伴うものでした。まさえさんがどうしても返事をしないとき、著者は「あまえるんじゃない」と怒鳴りつけたり、思いっきり頭を手のひらでぶったりもしています(体罰)。こうして発語させることが、まさえさんの成長につながるというのが著者の考えです。
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著者のまさえさんに対するひたむきな思いや崇高な教育理念には頭が下がりますが、こうした指導は、まさえさんの不安、緊張を増幅させ、緘黙症状をかえって悪化させてしまうのではないかと、読んでいてヒヤヒヤします。専門家の助言を聞かずに独自の判断で指導したからこうなったのでしょうか。ただ、まさえさんが小学3〜4年の頃は、情緒専門の先生のやり方では緘黙は治らなかったのは事実です。
※ 著者は教育に当たっては厳しい面と寛容な面を使い分ける人で、いつもこのような厳しい姿勢でまさえさんの指導にあたっていたわけではありません。
著者は、まさえさんに対して、言葉を引き出すだけでなく、総合的な教育活動によって心を開かせようとしたり、読書を推奨して知能の発達を促そうとしたりしています。こうした面は評価できると思います。
本書は「シリーズ・障害者の世界10」の一冊なのですが、著者は緘黙のまさえさんを「障害を持つ子ども」と表現する場面があります。そして、まさえさんの緘黙症状がよくなると、今度は「健常児」という表現を使っています。確かに場面緘黙症は「情緒障害」ですが、緘黙症児は「障害児」なのでしょうか。
先ほどお話したとおり、本書には、教師がまさえさんに発語を厳しく要求する場面があり、しかもそれで緘黙が治ってしまっているので、「そうか!緘黙の子には発語を強要するのが正しい接し方なんだな!」などと誤解を与えかねません。危うい一面を持った本だと思います。ですが、緘黙の子が頑張ることによってクラスの他の子も変わったとか、教師の視点でなければなかなか書けない内容もあり、面白い本だと思います。
この本を私が1冊買ったところ、絶版になってしまいました。
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厳しい要求は、期待すればこそですね。
きびしいだけではなく、そこに込められている愛情が伝わったから、効果があったのでしょう。
愛があっても伝わらないことには、子どもの気持ちは動かない。伝われば「がんばろう」と思い、自分を変えようとする。
あきらめられて、「話さなくてもいいよ」といわれるのは寂しいものなのではないでしょうか。「あなたの可能性をあきらめていないよ」というメッセージを伝えることが大切なんだと思います。
私のクラスのAさん、周りに人がいても、廊下を歩くことはコンスタントにできるようになりました。現在の課題は「次に何をするのか自分で判断すること」です。這えば立て、立てば歩めのナントカで、次々要求している今日この頃。
[2007/07/14 21:48]
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教師である著者はよかれと思って厳しい対応をとったのですが、こうした対応は、『場面緘黙児の心理と指導』を著した河井芳文氏や海外の緘黙支援団体の専門家が、絶対にとってはならないと指摘しているものです。
教育者である著者の基本的考え方は、子どもに次々とハードルを設定し、たとえ子どもが「泣いてどんなに抵抗してもマスターするまで指導の手をゆるめない」ことによって、課題を必ず達成させ、子どもの成長を促すべきというものです。それは、緘黙のまさえさんにしても例外ではありません。
それに対して、カウンセリングの素養がある専門家は「受容」を重視し、叱ったり非難したりすることは禁忌と考えているようです。「その子が必要な事柄や課題が達成できない場合でも、可能な限り寛容な対応が望まれる」「もし失敗したり、できなかったら、できた範囲のことを褒めてやる」(『場面緘黙児の心理と指導』より)
このあたりに、教師と心理の専門家の考え方の違いが出ているのではないかと思います。
Aさん、少しずつですが症状がやわらいでいるようでよかったです。
[2007/07/15 08:24]
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