場面緘黙症児の特徴を調べた論文

2007年08月29日(水曜日)

場面緘黙症については、国内外で数多くの研究論文が発表されてきました。私は専門家ではないのですが、それらの論文について、ここで少しずつ取り上げていきたいと思います。私自身の勉強も兼ねて。

今回取り上げる論文は、これです。

Black, B., and Uhde, T.W. (1995). Psychiatric characteristics of children with selective mutism: A pilot study. Journal of the American Academy of Child and Adolescent Psychiatry, 34(7), 847-856.

場面緘黙症児の特徴を調べたものです。場面緘黙症の子ども30人について、彼ら・彼女らがどういった場面で話さないかとか、他の精神医学的な障害を持っているかどうかとか、家族に緘黙や社会恐怖症(社会不安)の人がいるかとか、緘黙になる前にトラウマを経験したかとか、そういったことを調べています。なお、親の養育態度(過保護だとか支配的だとか)については、調査の対象にはなっていません。

この論文は、被引用回数がとても多いです(だから、最初にこの論文を取り上げました)。最近日本語版が発売された『場面緘黙児への支援』でも、この論文が何箇所か引用されています(Black and Uhde, 1995 というのがそれです)。

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■ 場面緘黙症は、社会不安の一つの症状と主張

では、なぜよく引用されてきたのかというと、一つは、この論文は、場面緘黙症と社会不安(社会恐怖症)との関わりの議論に一石を投じているからです。多くの場面緘黙症児を調べた結果、「場面緘黙症は、社会不安の一つの症状である(SM Is a Symptom of Social Anxiety)」という結論に至っています。

単に、場面緘黙症児のほとんどが(この論文では97%)社会不安や回避性障害をあわせもっているというだけでなく、この論文は、七つの論拠を挙げて丁寧に「場面緘黙症は、社会不安の一つの症状である」ことを主張しています。

なお、この論文の論文の著者である Black 氏 と Uhde 氏は、以前から場面緘黙症と社会不安との関わりに注目していて、論文を発表してきました。詳しくは、両氏の1992年、1994年の研究を参照のこと。

■ 30人の場面緘黙症児の調査

この論文が頻繁に引用されてきたもう一つの理由は、場面緘黙症児の特徴についての、新しい診断基準による大規模な、そしてシステマティックな調査が、それまで他にあまりなかったからではないかと思います。ですから、場面緘黙症の子どもたちの特徴についてまとめるとき、この論文が重宝されてきたのではないかというのが理由の一つです。

昔からケーススタディというものが場面緘黙症の研究でもよく発表されてきたのですが、こうした1人や2人などの少人数の子どもを対象にした研究だけでは、場面緘黙症児の一般的な特徴を知るには限界があります。また、例えば場面緘黙症を経験した人が、「私は緘黙だった頃、IQが高かった。緘黙の子は、みんなIQが高いんだ」と自分の例を勝手に一般化しても、説得力に欠けます。一般的な特徴を知るには、この論文のように、緘黙の子を何十人か集めて調べることが必要です。

■ むすび

とにかくよく引用されてきた論文なので、海外の場面緘黙症の研究動向について本格的に知りたいという方には、この論文は必読文献と言っても言い過ぎではないのではないかと思います。ただ、診断基準が DSM-III-R なので、DSM-IV-TR が最新の今となっては若干古さも否めません。

論文の内容は、要旨(abstract)だけなら、一般の方でもネットで無料で読めます。

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