場面緘黙症児50人を調査した論文
先週から、場面緘黙症の論文の紹介をしています。私は専門家ではなく、自信もないのですが、自分自身の勉強も兼ねて。
今回ご紹介する論文はこれです。
Dummit, E.S. III, Klein, R.G., Tancer, N.K., Asche, B., Martin, J., Fairbanks, J.A. (1997). Systematic assessment of 50 children with selective mutism. Journal of the American Academy of Child & Adolescent Psychiatry, 36(5), 653-660.
この論文も、被引用回数が多いです。『場面緘黙児への支援』でも、何度も引用されています(McHolm, et al., 2005/2007)。最初の方の章に(Dummit et al., 1997)というのをときどき見かけますが、それです。
また、この論文は、先日ご紹介した (Black and Uhde, 1995) とセットで引用されることも、ままあります。なぜならば、研究の内容がお互い似ている上に、近年重要な論点となっている、場面緘黙症と社会不安障害(社会恐怖症)の関係についての主張も、両者は似ているからです。
■ 概要
さて論文の内容ですが、場面緘黙症児50人をシステマティックに評価したものです。ここでいう評価というのは、例えば、他の精神疾患(例。回避性障害、社会不安症、分離不安障害など)の診断基準にも当てはまるかどうか調べたり、様々な心理尺度(例。Children's Global Assessment Scaleなど)で測定してみたり、トラウマや虐待を経験したかどうかを調べたりする、ということです。
評価の結果分かったことは、場面緘黙症児50人全員が、回避性障害か社会不安症の診断基準に当てはまったこと(診断基準はDSMIII-R)、24人が別の不安障害をあわせ持っていたこと、反挑戦性障害に当てはまったのは1人だったこと、等々です(まだまだ、たくさんあります)。
これらの結果から、著者は、「場面緘黙症は、一般に、社会不安障害の一つの行動的な現われである」(SM is typically a behavioral manifestation of a social anxiety disorder)などとする臨床的含意を引き出しています。
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■ 場面緘黙症は社会不安の極端なもの?
場面緘黙症とは何なのか、社会不安との関係はどうか。これは近年の欧米の緘黙研究では、重要な論点の一つです。
その中で、「場面緘黙症は社会不安の極端なものである」という見方があります。その根拠として、この論文が引用されたことがあります(McHolm, et al., 2005/2007)(ただし、McHolm 氏らがこの説を支持しているわけではありません)。他の論文が引用されたこともあるのですが、ここでは省略。
一方で、そうした見方に対する反論もあるのですが、妙なことに、その論拠の一つとしてこの論文が引用されたことがあることに、私は気づきました(Yeganeh et. al, 2003)。
どうして、このようなことが起ったのでしょうか。
◇ 「場面緘黙症は社会不安の極端なもの」
先ほどお話したとおり、この論文では、「場面緘黙症は、一般に、社会不安障害の一つの行動的な現われである」という臨床的含意が引き出されています。
加えて、論文の考察の部分には、次のようなことも書かれてあります。
「場面緘黙症は、生物学的な基礎のある、気質と社会的行動の極端なものである可能性がある。※ そして、上記の実験的パラダイムは、場面緘黙症と幼児期社会不安の精神生理学には、参考になるかもしれない(スミマセン、訳が下手で…)」(Selective Mutism may represent the extreme end of a continuum of temperament and social behavior that has a biological basis, and the above experimental paradigms might be informative of the psychophysiology of SM and childhood social anxiety.)
※ この訳について、ご指摘をいただきました。こちらの訳の方が正しいかもしれません。「場面緘黙症は、極端な気質と、生物学的な基礎のある社会的行動を表したものかもしれない。」(9/8/2007 追記)
ここでいう「上記の実験的パラダイム」とは、Kagan, J. 氏などによる、behavioral inhibition の研究のことを指します。引っ込み思案の赤ちゃんとか、もっと言えば扁桃体などの話です(この論文では扁桃体のことまでは書かれてないのですが)。
おそらくこれらを要約して、「場面緘黙症は社会不安の極端なもの」となったものだろうと思います。
◇ 「場面緘黙症は社会不安の極端なもの」ではないのでは?
一方、こうした見方に対する反論の論拠として、論文の "Liebowitz Social Anxiety Scale" という心理尺度に関する調査が挙げられたことがあります。LSASは、回避に関する下位尺度と、社会不安に関する下位尺度で構成されています。このうち、回避に関する下位尺度は、平均37.3、標準偏差12.9で、この数字は、場面緘黙症児がしばしば多くの社会的場面を避ける傾向にあることを示すそうです。しかし、社会不安に関する下位尺度は平均36.5、標準偏差14.5で、これは普通の数字なのだそうです。要するに、場面緘黙症児は、特に社会不安が強いわけではない、ということです。
LSASは、回避に関する下位尺度と、社会不安に関する下位尺度で構成されています。24項目の様々な状況について、どの程度回避するか、どの程度不安を感じるかを4段階(0〜3点)で評価するものです。ですから、点数としては0点から72点までが有り得る範囲です。
この LSAS で場面緘黙症児を測定したところ、尺度のうち、社会不安に関する下位尺度は平均36.5、標準偏差は14.5でした。これは、moderate、つまり不安の程度を4段階で表すとすれば、上から2番目程度の評価にあたります。このことを根拠の一つに、(Yeganeh et. al, 2003)は、場面緘黙症児が極端に社会不安が強いわけではないと見ています。(9/8/2007 修正)
◇ この論文自体に原因が
どうも原因は、この論文自体にあったようです。
著者は「場面緘黙症は社会不安の極端なもの」と解釈できる考察を行っていた一方で、研究の結果得られたデータの中には、場面緘黙症児は特に極端なほどには社会不安が強いわけではないことを示すものも一部含まれていたことが、そもそもの原因のようです。
■ Dummit 氏について
筆頭の著者であるDummit, E.S. III 氏は、現在、米国の緘黙支援団体 "Selective Mutism Foundation" の顧問をされています。
Dummit 氏がいつからSMFの顧問をされたのかは分かりませんが、1996年10月に受理された今回の研究は、SMFの協力を得て行われたものです。場面緘黙症児50人を集めるのに、SMFで広告したりもされたそうです。
最近でもこうしたことは行われていて、2006年に発表されたある研究は、SMFから多くの緘黙の子を募集して行われました(Schwartz et. al, 2006)。
■ なんとか Infant Study
それから、以前、「緘黙検定」で出題した難問、「なんとか Infant Study」は、この論文に登場します。ほかにも有名どころでは、(Bergman, et al.,2002) にも、「なんとか Infant Study」が出てきます。英語の論文を読んでいないとおそらく答えられない難問でした。
ところで、けんてーごっこの本が、9月7日(金)に発売されるそうです。「緘黙検定」が掲載されるかもしれません!…たぶん駄目なんじゃないかと思うのですが、発売日あたりには一応本屋に行って確かめてみることにします。
だらだらと書いてしまいましたが、最後まで読んでくださり、ありがとうございました。人気blogランキング参加中です。応援クリックよろしくお願いします。
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[参考文献]
◇ Bergman, R.L., Piacentini, J., McCracken, J.T. (2002). Prevalence and description of selective mutism in a school-based sample. Journal of the American Academy of Child & Adolescent Psychiatry. 41(8), 938-946.
◇ Black, B., and Uhde, W.T. (1995). Psychiatric characteristics of children with selective mutism: A pilot study. Journal of the American Academy of Child and Adolescent Psychiatry, 34(7), 847-856.
◇ McHolm, E.A., Cunningham, E.C., and Vanier, K.M. (2007). 場面緘黙児への支援 学校で話せない子を助けるために (河井英子 and 吉原桂子, Trans.). 田研出版. (Original work published 2005)
◇ Schwartz, R.H., Freedy, A.S. and Sheridan, M.J. (2006). Selective mutism: Are primary care physicians missing the silence? Clinical Pediatrics, 45(1), 43-48.
◇ Yeganeh, R., Beidel, C.D., Turner, M.S., Pina, A.A. and Silverman, K.W. (2003). Clinical distinctions between selective mutism and social phobia: An investigation of childhood Psychopathology. Journal of the American Academy of Child and Adolescent Psychiatry, 42(9), 1069-1075.
2007.09.05 | Comments(4) | Trackback(0) | 緘黙症の論文を読む(洋)

