場面緘黙症児100人を調査した論文

2007年09月26日(水曜日)

場面緘黙症の論文の紹介をしています。私は専門家ではなく、自信もないのですが、自分自身の勉強も兼ねて。

今回ご紹介する論文はこれです。

Steinhausen, H.C., and Juzi, C. (1996). Elective mutism: an analysis of 100 cases. Journal of the American Academy of Child and Adolescent Psychiatry, 35(5), 606-614.

場面緘黙症児100人を分析し、場面緘黙症の典型的な特徴を明らかにしたものです。この論文も被引用回数が多く、『場面緘黙児への支援』でも複数回引用されています。Steinhausen and Juzi, 1996 というのが、それです。

今回の論文は、これまでにご紹介した論文(Black and Uhde, 1995Dummit et al., 1997)と同時期に行われた同種の研究です。せっかくなので、これらと比較しながら紹介していきます。

■ 研究の特徴

◇ 診断基準

今回の論文では、場面緘黙症の診断基準に、アメリカ精神医学会のDSMではなく、世界保健機関のICD-10が採用されています。Black and Uhde や Dummit et al.,の研究もそうだったのですが、英語圏の緘黙研究の診断基準は、たいていDSMが採用されます。

◇ サンプル100人

今回の研究は調査対象の緘黙症児の数が100人と、緘黙研究としては多いのも特徴です。

前年に発表された Black and Uhde の研究は30人、翌年の Dummit et al の研究は50人でした。他にも、1980年に発表された、著名なトリイ・ヘイデン氏による場面緘黙症の分類に関する研究が大規模なものだったのですが、それでも対象とした場面緘黙症児の数は68人でした(Hayden, 1980)。

◇ スイス、ドイツの研究

また、これまでにご紹介した論文はいずれもアメリカの研究でしたが、今回の論文の著者はスイスの大学に所属していて、サンプルもスイスやドイツで集めたものです。掲載された雑誌は Journal of the American Academy of Child and Adolescent Psychiatry で、America という国名を冠したものですが、実はこの雑誌は、アメリカ以外の国の緘黙関連論文が載ることがときどきあります。

◇ 分析内容

分析内容には、緘黙症児がどういう場面で緘黙するかや、合併する症状など、Black and Uhde やDummit et al らの分析と重なる点も多い一方で、緘黙症児の成育歴や、発症前の言語障害、治療歴など、Black and Uhde やDummit et al などの研究にはないものもあります。

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■ 分析の結果明らかになったこと、考察について

場面緘黙症児100人の分析の結果明らかになったことは、緘黙症状は学齢期前に始まるとか、緘黙症児は学校にいたり見知らぬ人と一緒にいたりするときに緘黙する傾向があるとか、Black and Uhde やDummit et al らの分析結果と一致する点が多いです。

ただ、場面緘黙症と社会恐怖との関係についての考察が、大きく違います。Black and Uhde やDummit et al は、緘黙症児に社会不安や回避性障害の診断基準に当てはまる子がほとんど、ないし全員だったことから、場面緘黙症を社会恐怖症(社会不安障害)の一つと考えました。

今回の論文では、性格的な特徴としてシャイネス(内気)が挙げられた子どもが85%、不安が挙げられた子どもが66%でした。著者は、場面緘黙症を社会恐怖症(社会不安障害)の一つの現れというよりはむしろ、より一般的な性格的な特徴の現れであると考えています。

■ 引用状況

今回の論文は、場面緘黙症児の一般的な特徴を説明するために、よく引用されます。

◇ スイスやドイツの研究だが…

スイスやドイツで行われた研究ですが、英語圏では特にそのことに言及されることなく、アメリカの研究などと一緒くたに引用されています。

◇ サンプルを3つのグループに分けたのだが…

今回の論文のサンプルである場面緘黙症児の数は100人ですが、この100人はさらに3つのグループに分けられています。1つ目は、スイスで設立された自助グループから集めた緘黙症児19人、2つ目は、チューリッヒ州児童青年精神医学部?(Child and Adolescent Psychiatry Service of the Canton of Zurich)で診察された緘黙症児59人、3つ目は、ベルリンのある大学で確認された緘黙症児22人です。

論文では、これらの3つのグループについてそれぞれ分析し、グループ間の差も統計学的に検討されています。ですが、引用される際は、3つのグループを一緒くたにした分析結果だけが取り上げられます。

■ 研究の意義

この研究の意義は、場面緘黙症児を多数集めて、緘黙症児の一般的な特徴を示したことです。当時はそうした研究がほかには少なかったようです。

■ むすび

同種の研究と比較しながら、紹介してきました。

次回あたりは、日本の研究を紹介してみようと思うのですが、私は気まぐれなもので、予定は変わる可能性があります。人気blogランキング参加中です。応援クリックよろしくお願いします。
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[参考文献]

◇ Black, B., and Uhde, T.W. (1995). Psychiatric characteristics of children with selective mutism: A pilot study. Journal of the American Academy of Child and Adolescent Psychiatry, 34(7), 847-856.
◇ Dummit, E.S. III, Klein, R.G., Tancer, N.K., Asche, B., Martin, J., Fairbanks, J.A. (1997). Systematic assessment of 50 children with selective mutism. Journal of the American Academy of Child and Adolescent Psychiatry, 36(5), 653-660.
◇ Hayden, T.L. (1980). Classification of elective mutism. Journal of the American Academy of Child Psychiatry, 19(1), 118-133.