場面緘黙症とは何か(第4版)

2007年11月28日(水曜日)

■ 緘黙症って何?

緘黙症(mutism)とは、話す能力があるにもかかわらず、特定の場面で継続的に発語ができない情緒障害です。症状が重篤化すると、話すことができないだけでなく、思うように動くこともできなくなります。

緘黙症は、主に幼稚園児や小学校低学年の児童が発症します。読み方は「かんもくしょう」です。統合失調症やヒステリー失声とは違います。また、発達障害とも通常分けて考えます。

まだまだ研究が進んでおらず、分からないことが多い情緒障害です。

■ 緘黙症の分類

緘黙症は、話すことができない場面をもとに、場面緘黙症(selective mutism)と全緘黙症(total mutism)に分類することができます。

◇ 場面緘黙症

学校など、特定の場面で話すことができません。しかし、家では何の問題もなく話すことができます。特に、幼稚園や小学校への入学をきっかけに問題化します。緘黙症の多くが、この症状だと言われています。

このサイトでは、この場面緘黙症をメインに扱います。なお、「選択性緘黙」「選択的緘黙」「選択緘黙」とも呼ばれています。

◇ 全緘黙症

重度の緘黙症で、あらゆる場面で話すことができません。非常に稀なケースです。

■ 場面緘黙症児の特徴

◇ いつも極端に緊張している

場面緘黙症児の多くは、学校などの特定の場面では、過度に緊張しています。社会不安障害の診断基準に当てはまるという研究結果も(Kristensen, 2000; Dummit et al., 1997; Black and Uhde, 1995)これを裏付けていると見ていいでしょう。

◇ 笑わない

「笑わない」というよりむしろ、「笑えない」と言った方が正確かもしれません。極度の緊張で、話すことだけでなく笑うことすらできなくなります。

◇ 首を使ったコミュニケーション

話せないので、首を使って意思表示をすることがあります。

◇ 自分に自信がない

場面緘黙症児は自分に自信がない傾向があると言われています。この傾向は社会不安障害の人とも重なります。

◇ 不登校はしない

場面緘黙症児は学校に出てくることが多いと昔から指摘されています(河井, 1994; 相場, 1989)。

しかし、近年専門家からは、緘黙症児は登校拒否になる可能性が高いという指摘も出ています(山本, 2005)。ネット上では、不登校の緘黙症児や経験者、その保護者を見かけることがあります。不登校は時代によって変わっており、近年でもかつて指摘されたように緘黙症児が不登校をしないとは限りません。

この問題については、統計的な調査が行われておらず、どの程度の割合の緘黙症児が不登校かは分かりません。

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■ 合併する問題

場面緘黙症は、単に話すことができないだけにとどまりません。他の問題を合併していることも多いです。

代表的なのは、分離不安障害などの何らかの不安障害です。特に社会不安障害や回避性障害は、ほとんどの緘黙症児は合併しているという報告もあります(Kristensen, 2000; Dummit et al., 1997; Black and Uhde, 1995)。

また、場面緘黙症の定義を広く取る論者からは、発達障害や発達の遅れの問題(コミュニケーション障害、発達性協調運動障害、軽度精神発達遅滞、アスペルガー障害)を抱えた緘黙症児が、一般の子どもに比べて多いという指摘もあります(Kristensen, 2000)。

その他、夜尿症(Black and Uhde, 1995)、聴覚の問題(Bar-Haim, et al., 2004)、などを合併している場合が、場面緘黙症でない子どもに比べて多いという報告もあります。

■ 場面緘黙症の原因

場面緘黙症の原因ですが、はっきり分かっていません。様々な要因が絡んでいると考えられているようです。

◇ 日本で根強い親の養育態度に原因を求める考え方

日本の研究者の間からも様々な要因が指摘されていますが、中でも、家族力動や親の養育態度に原因を求める考え方が根強いです。具体的には、拒否的な親の態度、溺愛・強制的な親の態度です(鈴木, 2004; 河井, 1994)。

◇ 近年欧米で注目される生物学的素因

欧米では日本とは異なり、近年、生物学的に媒介される気質や不安といった要素に関心が向けられています(Dow, et al., 1995)。

特に不安については、場面緘黙症児のほとんどが社会不安障害や回避性障害の診断基準に当てはまることなどから、場面緘黙症は社会不安障害の一つの症状ではないかという見方が出ています(Kristensen, 2000; Dummit et al., 1997; Black and Uhde, 1995)。

■ 出現率は?

◇ 日本の調査

日本で著名な『場面緘黙児の心理と指導』では、1959~1980年までの研究が総括され、緘黙の発生率は「子ども1000人に対して2、3人の割合で存在」と推定されています(河井, 1994)。

比較的最近の報告では、0.032%(村本, 1983)、0.1%(長谷川 & 金田, 1996)などがあります。

◇ 海外の調査

フィンランドの2%以上(Kumpulainen et al., 1998)、イスラエルの0.76%(Elizur & Perednik 2003)、アメリカの0.71%(Bergman et al., 2002)等の報告があります。

■ よくある誤解

◇ 場面緘黙症児は、自らの意思で話さないのではありません。話さないのではなく、話せないと表現した方が適切です。

◇ 場面緘黙症児は、ただの大人しい子ではありません。大人しさを通り越して、学校でひどく緊張して話せない子です。

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※ この記事は、「そもそも『緘黙症』って何ぞや」の第4版です。1年近く前に書いた第3版を少々書き直しています。

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[関連記事]

◇ そもそも「緘黙症」って何ぞや(第3版)
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◇ そもそも「緘黙症」って何ぞや



[文献]

◇ Bar-Haim, Y., Henkin, Y., Ari-Even-Roth, D., Tetin-Schneider, S., Hildesheimer, M., and Muchnik, C. (2004). Reduced auditory efferent activity in childhood selective mutism. Biological psychiatry, 55(11), 1061-1068.
◇ Bergman, R.L., Piacentini, J., and McCracken, J.T. (2002). Prevalence and description of selective mutism in a school-based sample. Journal of the American Academy of Child and Adolescent Psychiatry, 41(8), 938-946.
◇ Black, B., and Uhde, T.W. (1995). Psychiatric characteristics of children with selective mutism: A pilot study. Journal of the American Academy of Child and Adolescent Psychiatry, 34(7), 847-856.
◇ Dow, S.P., Sonies , B.C., Scheib, D., and Moss, S.E. (1995) Practical guidelines for the assessment and treatment of selective mutism. Journal of child psychology and psychiatry, and allied disciplines, 34(7). 836-846.
◇ Dummit, E.S., Klein, R.G., Tancer, N.K., Asche, B., and Martin, J. (1997). Systematic assessment of 50 children with selective mutism. Journal of the Academy of Child and Adolescent Psychiatry, 36(5), 653-660.
◇ Elizur, Y. and Perednik, R. (2003). Prevalence and description of selective mutism in immigrant and native families: a controlled study. Journal of the American Academy of Child and Adolescent Psychiatry, 42(12), 1451-1459.
◇ Kristensen, H. (2000). Selective mutism and comorbidity with developmental disorder/delay, anxiety disorder, and elimination disorder. Journal of the American Academy of Child and Adolescent Psychiatry, 39(2), 249-256.
◇ Kumpulainen, K., Rasanen, E., Raaska, H., and Somppi, V. (1998). Selective mutism among second-graders in elementary school. European Journal of Child and Adolescent Psychiatry, 7(1), 24-29.
◇ 相場壽明 (1989). 選択性緘黙の理解と治療-わが国の最近10年間の個別事例研究を中心に-. 特殊教育学研究, 29, 53-59.
◇ 河井芳文 and 河井英子 (1994). 場面緘黙児の心理と指導-担任と父母の協力のために-, 田研出版.
◇ 鈴木純江(2004). 母親を共同治療者にすることを試みた選択性緘黙症男児の1事例. カウンセリング研究. 37(1), 54-63.
◇ 長谷川要子 and 金田利子(1996). 幼児の発達と保育 : 場面緘黙児に対する保育サポートの事例分析から. 日本保育学会大会発表論文抄録. 49, 188-189.
◇ 村本克己(1983). 学校における緘黙児の実態調査. 情緒障害教育研究紀要. 2, 77-80.
◇ 山本泰司 (2005). 選択的緘黙(selective mutism)について. 兵庫教育, 57(9), 66-67.