日本の場面緘黙症研究(1950年代まで)

2008年02月16日(土曜日)

場面緘黙症に関する最も古い研究としては、1877年の Adolf Kussmaul の文献が認められます(村本, 1987)。

1930年代になると、ドイツで初期的な研究が現れ始めます。1950年代の初期にはイギリスでの研究が現れ、1950年代後期と1960年代初期にはアメリカにおいて場面緘黙症についての研究的関心が増加します(一谷, 津田, 西尾, and 岡村, 1973)。

日本においては、1940年に翻訳書が出版された Gilbert-Robin 著『異常児』の中に、「物言はぬ子供」の一つとして「緘黙」が取り上げられます(Robin, 1940)。これが少なくとも私が確認した限り、場面緘黙症を取り上げられた最も古い国内文献です。

わたしの同僚がある日、十歳の児童を恐らく緘黙症であらうからと廻してきた。成程、訊いても答へない。幾度か尋ねても、たまに単語を答へる程度である。家庭では口をきくし、両親の話によると、可成りに陽気であるらしい。学校でも友達とは口をきく、それもたった一人の友達とだけである。

■ 日本初の場面緘黙症研究(1951)

日本における場面緘黙症研究の嚆矢となったのは、1951年の「口をきかない子供」(『児童心理と精神衛生』収録)です(高木, 1951a)。

家庭では口をきいているのに、学校や人前では口をきかない子供というものは意外に多いものである。筆者は最近三ヵ所の小学校で、児童の呈する精神衛生上の問題について調査を行ったが、緘黙児、即ち口をきかない子供の数は第一表の如くであった。

これは、国立国府台病院の高木四郎氏が、1949年から1950年までの一ヵ年余りにわたり、小学校における精神衛生問題の実情に関する調査を実施し、その調査結果の中でも、特に場面緘黙症児についてまとめたものです。この調査の全容は、同年に出版された『学校保健の研究』に収められています(高木, 1951b)。

1952年には、高木氏は「問題児の発生原因論」を発表しますが、この中で「緘黙」について軽く触れられています。Gilbert-Robin の『異常児』についても言及されており、高木氏が同著を読んでいたことが窺われます(高木, 1952)。
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■ 中川四郎氏の調査(1952)

1952年には、中川四郎氏が山間工業地域における学童の精神医学的社会調査を発表しますが、この中では緘黙についても調査が行われ、ごく簡単に触れられています(中川, 1952)。

■ 後藤毅氏による心理療法の事例研究(1956)

1957年には、大阪市立大学の研究生・後藤毅氏が場面緘黙症児に行った非指示的遊戯療法の事例が、同大の紀要に報告されました。場面緘黙症児の心理療法に関する研究としては、おそらくこれが国内最古です(後藤, 1956)。

■ 内山喜久雄氏の研究(1959)

1959年には、国内の場面緘黙症研究としては、最初のまとまった研究が内山喜久雄氏によって発表されました。『北関東医学』に掲載された「小児緘黙症に関する研究」です。この研究は「第1報 発現要因について」「第2報 治療方法について」の2報からなり、総ページ数は28ページに及びます。

第1報は、M市(人口約17万の地方中都市)全域にわたって、学童24,245名を調査し、緘黙症発現の一般的傾向、個体的要因、環境的要因などの詳細を把握し、さらにこれに統計的検討を加えて、発現の場面、原因および過程を究明しようとしたものです(内山, 1959a)。

第2報は、脱感作療法、集団効果を主とした支持療法の併用により、緘黙症児22名の治療を試み、その経緯と結果を報告したものです(内山, 1959b)。

内山氏の研究は、日本国内でその後何度も引用され、日本の場面緘黙症研究に大きな影響を与えました。

■ まとめ

1950年代では、日本では場面緘黙症の研究はまだ数えるほどでした(もっとも、この時期だと諸外国でもドイツなどを除いてはそうだったのではないかと思います)。1960年代に入ると、もう少し研究が出てきます。

60年代以降についてもいずれまとめてみたいと思うのですが、この頃になると文献が増えて収集が大変になるので、実現するかどうかは分かりません。(>_<) あまり期待しないで気長にお待ちください。

■ おまけ~児童相談所と緘黙

三木安正氏が1954~1955年に行った調査によると、北海道岩見沢児童相談所は精神薄弱児を次のように類型していたそうです。

a. 多弁他動型
b. 興奮型
c. 緘黙型
d. 遅鈍型
e. 特殊型

ここでいう「緘黙型」は、必ずしも今日でいう「場面緘黙症」のことを指していないのかもしれませんが、気になったので記しておきます。

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[関連記事]

◇ 日本初の緘黙研究?「口をきかない子供」(1951)・前編
◇ 日本初の緘黙研究?「口をきかない子供」(1951)・後編
◇ 場面緘黙症を取り上げた戦前の翻訳書
◇ 内山喜久雄の緘黙症研究(1)
◇ 内山喜久雄の緘黙症研究(2)

[文献(今回は特別に時系列に並べてあります)]

◇ Robin, G. (1940). Les troubles nerveux et psychiques de l'enfant. guide pratique de dépistage et d'orientation éducative (吉倉範光, Trans.). 白水社. (Original work published 1935)
◇ 高木四郎 (1951a). 口をきかない子供-事例研究その二-. 児童心理と精神衛生, 1(5), 52-55, 62.
◇ 高木四郎 (1951b). 小学校における精神衛生上の問題について. In. 財団法人日本学校衛生会学校衛生研究所 (EDs.), 学校保健の研究 第二集 (pp. 20-33). 東山書房.
◇ 高木四郎 (1952). 問題児の発生原因論. In. 中脩三 (EDs.), 異常児 (pp. ?-16). 医学書院.
◇ 中川四郎 (1952). 山間工業地域における学童の精神医学的研究. In. 中脩三 (EDs.), 異常児 (pp. ?-?). 医学書院.
◇ 三木安正 (1955). 精神薄弱児の処遇に関与する諸施設の実態調査. 児童心理と精神衛生, 5(2), 1-27.
◇ 後藤毅 (1956). 情緒的障碍に因る緘黙児に対する心理療法の一事例. 大阪市立大学家政学部紀要, 3(5), 59-63.
◇ 内山喜久雄 (1959a). 小児緘黙症に関する研究-第1報 発現要因について-,
北関東医学, 9, 772-785.
◇ 内山喜久雄 (1959b). 小児緘黙症に関する研究-第2報 治療方法について-,
北関東医学, 9, 786-799.
◇ 一谷彊, 津田浩一, 西尾博, 岡村憲一 (1973). 場面緘黙症の研究.
京都教育大学紀要, A, 42, 1-28.
◇ 牧野博己 (1987). 緘黙の事例研究-教育的処遇の手がかりを求めて-. 情緒障害教育研究紀要. 6, 21-30.