ノルウェーの緘黙症研究(1979)

2008年03月27日(木曜日)

このブログでは、場面緘黙症の論文について紹介しています。私は専門家ではなく、自信もないのですが、自分自身の勉強も兼ねて。

今回の論文はこれです。

Wergeland, H. (1979). Elective mutism. Acta psychiatrica Scandinavica, 59(2), 218-228.

■ 概要

少し昔のものですが、今日でも英語圏ではよく引用されるノルウェーの研究です。

場面緘黙症児11人について、年齢、遺伝的影響、社会的背景、親や兄弟姉妹の性格型、家族的雰囲気、妊娠、出生、発達、症状、初回検査、入院後の治療、退院後の健康状態、等95項目について調査されています。また、フォローアップについても、70項目について調査されています。調査結果は、治療を受けたグループと受けなかったグループの2つのグループに分けて、分析されています。

■ 考察

気づいたことを色々書きます。

◇ 調査方法の限界

これは仕方がないことかもしれませんが、調査方法が雑です(特に、現代の研究水準と比べると)。例えば、場面緘黙症の診断基準がはっきりしません。調査対象の子どもは、1955年から1970年までの間にオスロ大学児童精神科に入院し、退院時診断が場面緘黙症だった子たちですが、統一された診断基準で診断がなされたかどうかも定かではありません。「脳損傷の可能性」(Possible brain damage)がある子も場面緘黙症児として扱われていますが、どうでしょうか。

また、今回の研究は、調査結果から場面緘黙症について一般的な傾向を見出そうとしていますが、サンプルが11人と少ないです。このためか、妙な結果も出ています。例えば、子どもが生まれた時、年齢が40歳以上であった父親の割合が多かったので(とはいえ、11人中6人です)、これが場面緘黙症の発症に何か関係があるのではないかとか。また、場面緘黙症の治療を受けて治った子の方が、治らなかった子よりも、後の人生で問題を残しているとか(これに至っては、サンプル6人です)。

なお、当時としては優れた研究を、後世の人間が「この研究にはあらが目立つ」と文句をつけるのは簡単なことです(学術論文を査読誌に投稿したことがない人間が同様に文句をつけるのも、簡単なことです)。

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◇ とはいえ、現代でもよく引用されている

今回の研究は、先ほどお話したような方法上の限界があるので、引用して根拠として使うには弱いのではないかと思います。

とはいえ、今回の研究は、現在でも比較的よく引用されています。近年、被引用回数が多い英語文献の中では、今回の研究は最古級です。

ただ、その引用内容の中には、場面緘黙症児の頑固さや決意に焦点を当てている「以前の文献」(ealier literature)として、近年の文献と対比したり(Omai, 2007)、方法上の問題について指摘したりするなど(Black and Uhde, 1995)、厳しい評価をしているものも見受けられます。

今回の研究がよく引用される理由は、11名と少ないとはいえ、ある程度のまとまった場面緘黙症児をシステマティックに調査しているからではないかと思います。近年では、より洗練された研究が出てきたのですが、まだ研究の蓄積が十分ではなく、今回の研究が今でも引用されているのでしょう。

◇ 子どもの緘黙に無頓着な親

今回の研究を読んで気になったのは、11人の緘黙の子全員が、幼稚園の職員や学校当局の紹介で診察に訪れていたことです。親のすすめで診察に訪れた子が1人もいませんでした。

では親はどうしていたのかというと、「子どもは家では普通に話すので、特に警戒心は抱いてこなかった」(None were referred by the parents, who had not been particulary alarmed as the children spoke normally at home.) .というのです。

こうした問題は日本でも古くから指摘されています。「緘黙児の多くは、家庭では普通に口をきいたり、遊んだりしており、そのために親は自分の子供がそれほど変わっているとも思わず、問題にしていないことがあるのである」(高木, 1951)

私の親も、そうでした。

近年、インターネット上では、親の方から学校側に働きかけて理解を求めようという動きがありますが、こうした親ばかりとも思えません。子どもの緘黙の発見に、保育園や幼稚園、学校が果たすべき役割は大きいものと思います。保育士や学校教員は、幼児教育、学校教育のプロですから、期待したいところです。

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[文献]

◇ Black, B., and Uhde, T.W. (1995). Psychiatric characteristics of children with selective mutism: A pilot study. Journal of the American Academy of Child and Adolescent Psychiatry, 34(7), 847-856.
◇ Omdal, H. (2007). Can adults who have recovered from selective mutism in childhood and adolescence tell us anything about the nature of the condition and/or recovery from it? European Journal of Special Needs Education, 22(3), 237-253.
◇ 高木四郎 (1951). 口をきかない子供-事例研究その二-. 児童心理と精神衛生, 1(5), 52-55, 62.