トリイ・ヘイデンの緘黙症分類

2008年04月15日(火曜日)

『檻のなかの子』などの著作で知られる Hayden, T.L.(トリイ・ヘイデン)氏は、ノンフィクションだけでなく学術論文も残しているのですが、その中には場面緘黙症に関するものもあります。

特に著名なものは、これです。

Hayden, T.L. (1980). Classification of elective mutism. Journal of the American Academy of Child Psychiatry, 19, 118-133.

今回は、この論文について取り上げます。私は専門家ではないのですが、自分自身の勉強も兼ねて。なぜこの論文かというと、英語圏においてはよく引用されてきたからです。

■ 概要

場面緘黙症児68人を調べ、場面緘黙症を四つに分類しています。

■ 考察

この論文が世に出たのは、1980年のことです。当時は統計的分析が可能なほど多くのサンプル(場面緘黙症児)を集めた場面緘黙症の研究が英語圏ではありませんでした。そうした時代に、著者は独自の経歴を生かして68人を集めて、分析を試みたのです。

これは当時としては画期的なことでした。英語圏における被引用回数の多さは、この論文の評価を物語っています(2000年以降になっても、よく引用されています)。ただし、厳しい評価も寄せられています。

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◇ Kolvin, I. と Fundudis, T. の批判

今回の論文に対する批判のうち、私が知る中でも代表的なものは、今回の論文の翌年に発表された、あるイギリスの場面緘黙症研究です(Kolvin and Fundudis, 1981)。1ページ近くにわたって厳しい批判が展開されており、その批判に割かれた紙幅は、他の文献と比べて際立っています。

Kolvin らの批判を要約すると、以下の通りです。第一に、診断基準が広くてゆるい。第二に、場面緘黙症の期間が8週間と短い。第三に、全緘黙症と思われるケースも含まれている。第四に、子どもが話す場面、または話さない場面について、不適切な特定がなされている、第五に、対照群がない。その上、Hayden の四分類のうち、三つのグループは、伝統的に記述されてきた場面緘黙症と共通する点がほとんどない。

以前お話したノルウェーの研究(1979)は、診断基準が明らかにありませんでした。今回は診断基準が明記されているのですが、その診断基準が批判されています。

[Hayden による場面緘黙症の診断基準]

1 子どもは少なくとも一つの状況において、6ヶ月以上、通常の発語、発語パターンを示さなければならない。
2 子どもは少なくとも一つの主要な環境において、8週間以上、完全な緘黙行動を示さなければならない。
3 子どものIQは、WISC または Stanford-Binet により立証されたとき、70以上でなければならない。
4 子どもには、自閉症を含む精神病があってはならない。

Kolvin らの批判のうち、診断基準については、今日DSMの診断基準が1ヶ月であることを考えると、Hayden のそれは決して短くはありません。全緘黙症との区別も本質的な問題ではないでしょう。話す場面、話さない場面についての特定も、場面緘黙症の症状を考えると、不適切とは思えません。

それよりも大きな問題は、他の障害との区別ではないかと私は考えます。例えば、レイプを受けるなどのトラウマを受けた後に緘黙する "Reactive Mutism" という場面緘黙症の一分類を Hayden は提唱していますが、これは場面緘黙症とは別のものではないでしょうか。

◇ 場面緘黙症を印象で分類?

今回の論文の目玉は、場面緘黙症の分類です。"Symbiotic Mutism" "Speech Phobic Mutism" "Reactive Mutism" "Passive-Aggressive Mutism" の四分類が提唱されています。

ですが、何を基準に分類が行われたかが明記されていません。分類された4つのグループを比較しても、客観的な分類基準が浮かび上がってきません。もしかすると、この分類は主観的な印象によりなされてしまったのではないかと私は考えています。

今回の論文は、先ほどお話した通り、今日でもよく引用されているのですが、この四分類については採用されてはいません。

■ むすび

診断基準に分類方法と、色々と問題が多く、あまり読むことはおすすめできない論文だと思います。ですが、当時英語圏にはなかった多人数の場面緘黙症児を集め、場面緘黙症の分類という野心的な試みがなされています。今日でも引用されることが多く、その意味で、英語圏における場面緘黙症の代表的な論文の一つであると言えます。

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[文献]

◇ Kolvin, I., and Fundudis, T. (1981). Elective mute children: Psychological development and background factors. Journal of child psychology and psychiatry, and allied disciplines, 22(3), 219-232.