行動療法は、昔の古い治療法?

2008年05月18日(日曜日)

選択性緘黙児の治療に関しては、1960年代までは発話を目的とした行動療法がほとんどであった。しかし「しゃべらせる」ことだけの治療は本質的な問題の解決にはならず、次第に治療の目標が発話ではなく、コミュニケートする力の発展に置かれるようになった。現在では、症児の防衛を不必要に強化せず、ノンバーバルなコミュニケーションを通して積極性や自律性を引き出すことを目標とした、非指示的な個人遊戯療法、箱庭療法、あるいはその併用という治療方法がほとんどを占めている。

この文章の出典である論文(椎名 and 相場, 1998)は場面緘黙症に関する国内の事例研究をまとめたもので、なかなか面白いです。比較的よく引用もされています。

この論文によると、1980~1996年に公表された場面緘黙症に関する個別事例研究46事例のうち、遊戯療法、箱庭療法などの非言語的、非指示的な治療法が全体の2/3を占めており、行動療法を用いた事例は、発達遅滞を伴う場面緘黙症児に多かったのだそうです。

発達遅滞を伴う場合はともかく、そうでもないのに行動療法を用いるのは古いやり方、本質的な問題解決にはならないと、少なくとも日本ではみなされてきたということなのでしょうか。

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とりあえず、今回の記事では、

「選択性緘黙児の治療に関しては、1960年代までは発話を目的とした行動療法がほとんどであった」

これが事実なのかどうかを検証します。どうしてこれを検証するかというと、私の理解と違うからです。私の理解では、日本では昔から遊戯療法、箱庭療法が盛んでした。

■ 方法

1960年代までの文献をできる限り調べ、行動療法を報告したものがどれだけあるか、遊戯療法や箱庭療法を報告したものがどれだけあるかをまとめてみました。私の手元には1960年代までの文献が全てあるわけではないのですが、主要なものはあらかた揃えてあります。

■ 結果

◇ 行動療法

内山(1959)のみ

◇ 遊戯療法、箱庭療法

後藤(1957)、新井(1960)、佐藤(1963)、市川(1964)、伊藤、石井、伊藤(1965)、南坊、牧田、小此木、内藤、山木(1966)、佐藤、篠原、流王(1967)、丸井、蔭山(1969)

※ 伊藤、石井、伊藤(1965)は全緘黙症

1:8 で、遊戯療法、箱庭療法(特に遊戯療法の方)が圧倒的に多いという結果になりました。

■ 結論

少なくとも私が調べた限りでは、1950~60年代は、行動療法ではなく、遊戯療法が多かったです。椎名、相場両氏がうっかり間違えたのか、それとも私が知っている文献上の事例以外で行動療法がしばしば行われていたのか。どちらかでしょう。

ちなみに、場面緘黙症の治療方法を諸外国と比較すると、「従来から欧米では行動療法が主流であった」(丹治, 2002)という指摘もあります。「従来から」というのはいつ頃からなのか、今のところ私には分かりません。

PS

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[文献]
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◇ 新井清三郎 (1960). 一時的喊黙症. 小児科臨床, 13(6), 633-635.
◇ 市川隆一郎 (1964). 緘黙児の心理治療過程とその心理機制について. 児童精神医学とその近接領域, 5(1), 43.
◇ 伊藤克彦, 石井高明, and 伊藤忍 (1965). 全緘黙症(totaler Mutismus)の一例. 児童精神医学とその近接領域, 6(1), 26-27.
◇ 内山喜久雄 (1959). 小児緘黙症に関する研究-第2報 治療方法について-, 北関東医学, 9, 786-799.
◇ 後藤毅 (1956). 情緒的障碍に因る緘黙児に対する心理療法の一事例. 大阪市立大学家政学部紀要, 3(5), 249-253.
◇ 佐藤修策 (1963). 場面緘黙の形成と治療. 臨床心理, 2(2), 97-104.
◇ 佐藤修策, 篠原清彦, and 流王治郎 (1967). 緘黙児の臨床的研究Ⅱ-心理治療について-. 児童精神医学とその近接領域, 8(1), 19-20.
◇ 椎名幸由紀 and 相馬寿明 (1998). 選択性緘黙症の治療過程に関する研究-事例研究を中心に- 茨城大学教育学部紀要(教育科学), 47, 153-164.
◇ 丹治光浩 (2002). 入院治療を行った選択性緘黙児の長期予後について. 花園大学社会福祉学部研究紀要, (10), 1-9.
◇ 南坊満里子, 牧田清志, 小此木啓吾, 内藤春雄, and 山木允子 (1966). 児童治療における言語的交流困難の精神力学. 児童精神医学とその近接領域, 7, 29.
◇ 丸井文男 and 蔭山英順 (1969). Finger Painting による遊戯療法の過程分析の一研究. 名古屋大学教育学部紀要, 15, 47-64.
◇ 流王治郎 (1965). 心因性無言症児の研究-症例を中心にして-. 児童精神医学とその近接領域, 4(2), 96-102.