イギリスの緘黙症研究(1981)

2008年06月14日(土曜日)

このブログでは、場面緘黙症の論文を取り上げています。私は専門家ではなく、自信もないのですが、自分自身の勉強も兼ねて。

今回の論文はこれです。

Kolvin, I., and Fundudis, T. (1981). Elective mute children: Psychological development and background factors. Journal of child psychology and psychiatry, and allied disciplines, 22(3), 219-232.

1981年に発表された少し古い文献ですが、例によって、今日に至るまで頻繁に引用されてきたいわば定番文献ですので、扱うことにします。

■ 概要

場面緘黙症児24人、一般の子ども100人、言語発達遅滞児82人を集め、場面緘黙症の生物学的要因や社会的家族的背景について幅広く調査しています。例えば生物学的要因については、場面緘黙症児の性別、家族の規模と出生順位、周産期合併症、初めて歩行と発話をしたときの年齢、お漏らし、言語聴覚の機能障害、身体的異常、発症年齢と性格、社会的関係と行動、IQについて調査を行っています。また、追跡調査も実施し、その結果についてもまとめています。

■ 考察

気づいたことをいろいろ書きます。

* * * * * * * * * *

◇ 方法論について

今回の論文のような、場面緘黙症児を多数集めた調査は当時は少なかったようで、著者は当時の数少ない先行研究を自らの研究結果と批判的に比較検討しています。中でも、前年に発表された、68人の場面緘黙症児を調査した Hayden (1980) については、かなり手厳しい批判を展開しており、比較検討の対象にすらしていません。

それだけ批判するだけあって、著者の研究は、場面緘黙症の定義(明確にはなされていませんが)、対象群の設定(一般の子ども100人、言語発達遅滞児82人)など、方法が Hayden のものに比べてしっかりしています。

方法がある程度しっかりしているからでしょうか、その調査結果は、30年近く前の研究にもかかわらず、今日理解されている場面緘黙症の特徴と重なる部分が多いです。

◇ 場面緘黙症は複数の要因から

著者は、調査結果から場面緘黙症の病因を "multifactorial"(複数の要因からなる)と考えていますが、これは重要です。比較的最近でも、英語圏では同じような理解をしている専門家は多いです(Kristensen, 2000)。

◇ 学校に入って間もない頃だけ無口になる子は、緘黙とは違う

また、学校に入って間もない頃だけ無口になる子と、場面緘黙症の子の区別について論じている箇所は先駆的で、評価できるのではないかと思います(スミマセン、偉そうに…)。両者が違うということは私たちには当たり前のことだろうと思うのですが、アメリカ精神医学会の診断基準(DSM)は当時まだこの点を反映しておらず、今回の論文が発表された13年後の改定(DSM-IV)になってようやく、反映するに至っています。

◇ 引用状況について

英語圏で近年被引用回数が多い文献は、場面緘黙症児を多数集めた調査が多くを占めており、今回の文献もその例外ではありません。少数の場面緘黙症児を調査したものと違って、ある程度のサンプルをとって調べた研究なので(こういう研究、日本にはほとんどありません)、場面緘黙症児の一般的な特徴を知る上で重要な先行研究の一つとみなされているのだろうと思います。私が見たところ、特に、夜尿症を併存する場面緘黙症児が多かったという調査結果が引用されることが多いです。

私の独自に行った簡単な調査によると、被引用回数が多い英語圏の文献は近年アメリカのものが多いのですが、今回の論文は数少ないイギリスのものです。

※ ブログ拍手は [文献] のさらに下にあります。

[文献]

◇ Hayden, T.L. (1980). Classification of elective mutism. Journal of the American Academy of Child Psychiatry, 19, 118-133.
◇ Kristensen, H. (2000). Selective mutism and comorbidity with developmental disorder/delay, anxiety disorder, and elimination disorder. Journal of the American Academy of Child and Adolescent Psychiatry, 39(2), 249-256.