場面緘黙症啓発の経済学

2008年09月14日(日曜日)

■ 場面緘黙症Journal の広告を出稿しようと計画!しかし…

アメリカには場面緘黙症の治療研究センターがあるのですが(SMart Center と言います)、そのセンターの広告を英語圏のサイトで見たことがあります。

私はそれに倣って、場面緘黙症Journal (SMJ)のネット広告を出稿しようと考えたことがあります。幼稚園や学校に限って話ができない子は場面緘黙症の疑いがあるということを多くの人に知ってもらい、特に関心のある人については、SMJにアクセスしていただくのです。そして、SMJを通じて、必要とあれば本を買ったり、広告をクリックしたりしてもらうことで、収入を増やすという狙いです。場面緘黙症の啓発という社会貢献を通じて、収入を得ようということです。

しかし、広告の費用を見積もったところ、諦めてしまいました。費用対効果が悪いと考えたからです。お金をかけて広告を出してSMJに人を誘導したところで、それが収入の増加につながらなければ、採算が合わなくなります。SMJはアフィリエイトによる収入で運営されているため、採算性の悪いことには手を出したくはありません。このあたりは、民間企業と似ています。

■ 民間企業に場面緘黙症のキャンペーンはできるのか?

一時期、社会不安障害の大々的なキャンペーンが行われていたそうですが(私はテレビをあまり見ないので知りません)、これには製薬会社が背景にあるのではないかという話を聞いたことがあります。この話の真偽のほどは私には分かりませんが、いずれにせよ、よく知られていない不安障害の啓発活動を通じて大きな利益が見込める企業があれば、キャンペーンが張られるのは不思議なことではありません。

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◇ 医療関係企業は、場面緘黙症をPRしようとはあまり考えないだろう

場面緘黙症については、製薬会社など医療関係企業によるキャンペーンは行われないでしょう。まず、場面緘黙症の子どもは社会不安障害を持っている人などに比べると数が少なく、市場規模が小さそうです。加えて、もし何らかの企業がキャンペーンを張っても、場面緘黙症には既に公的な支援体制がある程度あるので、皆そちらに流れるでしょう。さらには、「この本(わずか2,000円程度)に書かれている治療法を実践すると効果的だ!」という話まであるので、やはり皆そちらに流れるでしょう。結局、その企業には利益はあまり見込めず、採算を合わせるのは簡単ではないでしょう。

公共経済学だと、場面緘黙症の啓発サービスには非排除性、非競合性があり、公共財の性質があるので(価値財でもあります)、市場に任せると過少供給に陥ってしまうと考えるかもしれません。詳しい説明は省略。

◇ 医療関係企業が病気、障害をPRすることの問題点

それから、私は利潤追求のためのキャンペーン一般を悪いものとは思わないのですが、それが病気や障害といった、理解のために高度な専門的知識を要するものについては、注意したほうがよいかもしれないと考えています。

専門家はその病気や障害についてよく理解していても、消費者はそうではありません(「情報の非対称性」)。このため、利潤追求のために消費者に誤った情報を流し、必要のない医療関係のサービスや財を受けさせたり買わせたりするインセンティブ(誘因)が専門家に働きます(「供給者誘発需要仮説」)。こうした誘発需要の存否については、医療経済学者の間で実証分析が行われています。なお、SMJは、このようなことは行っていません。

◇ 民間のメディア

企業に期待するとすれば、やはり民間のメディアでしょうか。

場面緘黙症をPRする記事を載せたり、特集を組んだりすることで、その新聞・雑誌の売上が伸びる!視聴率が上がる!…とまではいかなくても、認知度の低い情緒障害を取り上げることでイメージアップにつながるとか、そういうことがあれば、PRに力を貸してくれるかもしれません。

あるいは、「メディアには、採算性を度外視してでも訴えないといけないこともあるんだ!」というジャーナリストの良心のようなものにも期待したい気もしますが、あまり営利企業にこうした期待をするのも酷のような気もします。

■ 公共部門、NPOへの期待

民間部門に場面緘黙症のPRはあまり期待できないのであれば、公共部門(国、自治体ほか。メディアならNHK)に期待したいと考えたくなります。公共部門にも期待できないのであれば、NPO(非営利組織)に期待したいと考えたくなります。

こうした組織は利潤の追求を少なくとも第一にはしていないので、企業のようには採算性に拘らないでしょう。緘黙の子を持つ保護者を騙して、不必要な治療を受けさせたり、必要以上に本を買わせたりしようとすることもないでしょう。

公共部門によるPRが現在どの程度行われているかについては、お話しするまでもありません。もし、公共部門が、場面緘黙症の認知度向上の重要性を正しく認識していないため啓発活動を行っていないのであれば、その誤り(「政府の失敗」)を補完するものとして、NPOの役割が重要になります。

ところで、海外(特にアメリカ)では、民間の大手メディアが場面緘黙症の認知度向上のための特集を組むことがわりとあるのですが、いったいどうしてなのでしょうか?NPOとの関わりの有無も気になります。

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