積極的依存型、消極的依存型、分裂気質型

2008年10月24日(金曜日)

このブログでは、時々場面緘黙症の論文を取り上げています。私は専門家ではないのですが、自分自身の勉強も兼ねて。

今回は、日本のもの2件です。やはり被引用回数が比較的多いので、取り上げます。

◇ 荒木冨士夫 (1979). 小児期に発症する緘黙症の分類. 児童精神医学とその近接領域,
20(2)
, 60-79.
◇ 荒木冨士夫 (1979). 小児期に発症する緘黙症の精神病理学的考察. 児童精神医学とその近接領域, 20(5), 290-304.

■ 概要

「小児期に発症する緘黙症の分類」は、緘黙症34例をもとに、緘黙症の分類を試みたものです。治療導入のしやすさ、甘えや攻撃性の出しやすさなどを指標に、第Ⅰ群:積極的依存型(active-dependent type)、第Ⅱ群:消極的依存型(passive-dependent type)、第Ⅲ群:分裂気質型(schizoid type)の3群に分類し、さらに第Ⅰ群と第Ⅱ群を各2群に細分類しています。

第Ⅰ群:最も治療の導入が容易であり、かつ緘黙症児は甘えと攻撃性をともに十分発揮できるグループ。
第Ⅱ群:甘えや攻撃性があっても少なく、消極的なグループ。
第Ⅲ群:甘えが全く見られず、治療的働きかけに対して攻撃性がしばしば破壊的攻撃という形で出現し、ときに精神的混乱を示し、信頼関係が成立しないグループ。

「小児期に発症する緘黙症の精神病理学的考察」は、上記論文で提唱した分類の各群の典型例を詳しく記述し、その精神病理学的考察を行うとともに、対応する治療方針について論じたものです。

■ 考察

論文について、私なりに気づいたこと考えたことをまとめます。

* * * * * * * * * *

◇ 時代背景

国内では、心因性の緘黙症は当初、一律に論じられてきましたが、65年に流王治郎氏が、緊張性・選択性・驚愕性の3つのタイプに分類したのを嚆矢に(流王, 1965)、分類の研究が行われるようになりました。73年には、十亀史郎氏が、幼児期に連続する型・学童期に発症する型・全思春期における心因性緘黙の3タイプに分類しています(十亀, 1973)。

こうした流れの中、今回の荒木氏の緘黙症分類が発表されました。

なお、緘黙症の分類の研究が行われた時期は、心理機制の研究とともに70年代あたりまでで、80年代以降は治療論(遊戯療法などの事例研究)が多くを占めることになります。

◇ 偶然?同年の大井ら(1979)と似た分類

荒木氏の研究が発表された年と同じ1979年に、大井正己氏らの研究グループによって、これとはまた別の、緘黙症の分類試案が発表されました(大井, 鈴木, 玉木, 森, 吉田, 山本, 味岡, and 川口, 1979。「社会化欲求型、社会化意欲薄弱型、社会化拒絶型」参照)。大井氏らは、荒木氏の分類について、後に「われわれのものとほとんど一致しているように思われる」と述べています(大井, 藤田, 田中, and 小林, 1982)

つまり、全く同じ年に、ほとんど同じ緘黙症の分類試案が、別の研究者(グループ)から発表されたわけです。

◇ 従来の緘黙症論に挑戦する意欲的な研究

荒木氏の研究は、34例という、国内の同種の研究と比べても多い数の症例をもとに、緘黙症の精神病理、予後等について独自の分類をもとに整理したもので、従来の緘黙症論に挑戦する非常に意欲的なものと言えます。分量も、2回にわたって発表され、ページ数は35ページにものぼります。

荒木氏の論文のような数多くの症例を集めた緘黙症の研究は近年にはなく(英語圏にはあるのですが)、2000年以降になってもなお引用され続けているのはそのためだろうと思われます。

◇ 全緘黙症児が多い珍しい研究

研究対象とされた34例の緘黙症児のうち、実に14例が全緘黙症(的)です。さらに、これとは別の4例は、場面緘黙症から全緘黙症に移行しています。全緘黙症児の報告が稀な中、これだけ多くの全緘黙症児を集めた荒木氏の研究は貴重です。

◇ 後世の評価は

「報告されている症例をみると、程度や質においてかなり異なる緘黙症が、一律に緘黙症という名のもとに論じられており、ある報告での推論が別の報告における症例にあてはまるとは限らないように思われる」という問題意識から今回の緘黙症分類が試みられたのですが、緘黙症をこのように一律に論じる傾向は、荒木氏の分類試案が発表された後も、それほど大きく変わったわけではありません。

ちなみに、英語圏では、少なくとも近年について言えば、緘黙症を分類することはありません。やはり一律に論じられています。

※ ちょうど2008年10月、アメリカの学術雑誌 Journal of Clinical Child and Adolescent Psychology に、場面緘黙症の分類に関する研究が発表されました。

Cohan, S.L., Chavira, D.A., Shipon-Blum, E., Hitchcock, C., Roesch, S.C., Stein, M.B. (2008). Refining the classification of children with selective mutism: a latent profile analysis. Journal of clinical child and adolescent psychology, 37(4), 770-784.

です(2008年11月16日追記)。

椎名幸由紀、相場壽明両氏は、荒木氏の論文を下敷きに、緘黙症児への遊戯療法、箱庭療法の治療過程における赤ちゃん返りについて詳しく考察しており(椎名 and 相場, 1998)、荒木氏の論文が引用された例としては特筆に値します。

※ いつもブログ拍手ありがとうございます。拍手は、このさらにずっと下にあります。拍手の位置が調整できず、すみません!

[関連ページ]

◇ 「小児期に発症する緘黙症の分類」の詳細ページ場面緘黙症Journal 論文情報
◇ 「小児期に発症する緘黙症の精神病理学的考察」の詳細ページ場面緘黙症Journal 論文情報

[文献]

◇ 大井正己, 鈴木国夫, 玉木英雄, 森正彦, 吉田耕治, 山本秀人, 味岡三幸, 川口まさ子 (1979).
児童期の選択緘黙についての一考察. 精神神経学雑誌, 81(6), 365-389.
◇ 大井正己, 藤田隆, 田中通, 小林泉 (1982).
青少年の選択緘黙についての臨床的および精神病理学的研究-社会化への意欲に乏しい5症例-. 精神神経学雑誌, 84(2), 114-133.
◇ 椎名幸由紀, 相馬寿明 (1998). 選択性緘黙症の治療過程に関する研究-事例研究を中心に- 茨城大学教育学部紀要(教育科学), 47, 153-164.
◇ 十亀史郎 (1973). 自閉症児・緘黙児, 黎明書房.
◇ 流王治郎 (1965). 心因性無言症児の研究-Ⅰ症例を中心にして-. 児童精神医学とその近接領域, 4(2), 96-102.




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