緘動か「カタトニア」か

2008年11月24日(月曜日)

このブログでは、時々緘黙症の論文を取り上げています。私は専門家ではないのですが、自分自身の勉強も兼ねて。

今回は、2007年12月に発表された、日本の新しい研究です。

◇ 桜井優子, 汐田まどか. (2007). 広汎性発達障害にカタトニアを合併したと考えられた全緘黙の思春期例. 小児の精神と神経, 47(4), 281-286.

■ 概要

初診時15歳の男児で、緘黙を主訴とした症例の事例研究です。全緘黙症で、広汎性発達障害が背景にあり、カタトニア様症状が見られます。

■ 考察

私なりに気づいたこと考えたことをまとめます。

◇ カタトニア

カタトニアについては、以下のリンク先のページに良い説明があります。

○ 「カタトニア」の説明別ウィンドウ
○ 別の「カタトニア」の説明別ウィンドウ

例えば、18段の階段を上るのに3時間かかってしまう子どもの例が報告されているそうです。

* * * * * * * * * *

ところで、今回の論文の著者は、次のように述べています。

本症例は自閉症スペクトラムにカタトニア様症状を併発したと筆者らは考えたが、一方、重症の緘黙児は寡動症状を伴うことは従来から知られており(大井ら, 1979)、本児の症例をカタトニア様症状とするか寡動を伴う重度の緘黙とするのかは議論の余地がある。

「寡動」は「緘動」と同じ意味と考えてよいでしょう。カタトニア様症状と緘動が似ていることから、著者は上のように述べたものと思われます。

そうすると、考えさせられます。この子はひどい緘動だ、という場合、もしかしたらその子は緘動ではなく、カタトニアである可能性も考えてみた方がよいのではないかと私には思えてきます。

あるノルウェーの研究によると、場面緘黙症児54名のうち7%の子どもにアスペルガー障害が認められたそうです。加えて、著者によると、近年、自閉症スペクトラム(アスペルガー障害も含む)でカタトニア様症状の併発が報告されているそうです。

もちろん、緘動の子が全てカタトニアだと言うつもりはありません。実際、そうした報告は、今回の論文を除いて見た覚えがありません。ただ、場合によっては、その疑いがあると考えてもよいのではないかと私は思うのです(もちろん、診断は、自分で行うのではなく、専門家からしっかり受けましょう)。

◇ 緘黙の子の保護者

この論文の中には、緘黙の少年の母親についても書かれています。このお母様は、少年の現実の姿を否認しようとしてきたところが見られたそうです(あくまで論文の著者の視点から見た母親像ですが)。息子さんは全緘黙症の上に、広汎性発達障害、さらにはカタトニアまで併せ持っています。無理も無いことだろうと思います。

お母様は、次第に現実の息子さんの状態を直視するようになったのですが、それにしても、お母様の心の葛藤がいかほどのものだったのか、どれほどの心労があったのか、私には想像できません。保護者への心のケアの必要性を考えさせられました。

また、治療する立場にある専門家の役割についても考えさせられました。専門家だからこそ、症児を冷静、客観的に見ることができることもあるでしょう。

難しいのは、専門家と保護者の間で起る、治療方針や診断等をめぐる意見の対立です。緘黙症を持つ人は多くの場合小さな子どもであるため、治療等の意思決定は保護者が代わりに行うことが多いでしょう。専門家は保護者の意見を尊重するのが原則です。実際、専門家が治療をすすめたのに対し、保護者が反対して、治療がなされなかったり、中断したりした事例を見かけることがあります。

しかし、保護者の中には、子どもの状態を必ずしも十分に理解していない場合もないとは言い切れません。こうした場合、専門家はどう対応するべきなのでしょうか。いや、しかし、専門家の方が間違うこともあるでしょう。難しいですが、いずれにせよ、緘黙の子の利益にかなう治療方針が立てられることを願っています。