場面緘黙症の子どもは0.7%、「自閉症の2倍」(米)

2008年12月07日(日曜日)

このブログでは、ときどき場面緘黙症の論文を取り上げています。私は専門家ではないのですが、自分自身の勉強も兼ねて。

今回の論文はこれです。やはり被引用回数が多いので、取り上げます。

Bergman, R.L., Piacentini, J., and McCracken, J.T. (2002). Prevalence and description of selective mutism in a school-based sample. Journal of the American Academy of Child and Adolescent Psychiatry, 41(8), 938-946.

■ 概要

場面緘黙症の発症率と、症児の機能や症状を調べたものです。

ロサンゼルスの10の幼稚園と小学校の全ての教師(小学校は1年、2年の担任のみ)に調査を依頼し、場面緘黙症児が2,256人中16人(0.71%)いることを明らかにしました。そしてこの16人について、その機能と症状を、場面緘黙症ではない子ども達と比較しています。さらに6ヵ月後には、再び場面緘黙症児の機能と症状を調べ、6ヶ月前のものと比較しています。

■ 考察

私なりに気づいたこと考えたことをまとめます。

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■ 場面緘黙症の子どもは1,000人に7人、「自閉症の2倍」

この論文は、アメリカではマスコミレベルでも、よく引用されます。場面緘黙症の子どもは1,000人に7人だとか、0.7%だとか、0.71%だとか、アメリカでそういう話があれば、その出典はこの論文と考えて間違いありません。

この論文は、場面緘黙症の新しい診断基準をもとにした、アメリカでは、私の知る限り唯一の発症率の調査です。多少の方法論上の限界はあるものの、しっかり調査されています。現在ではおそらくアメリカで最も信頼できる発症率の調査であり、よく引用されるのはもっともなことです。

この0.71%という数字は従来の数字よりも高いもので、この論文が与えたインパクトは大きかっただろうと思います。アメリカのメディアでは、この数字を根拠に、場面緘黙症の発症率は「自閉症の2倍(twice as common as autism)」などと書かれることもあります。「自閉症の2倍」とは誰が言い出したことか知りませんが、人々の関心を引くという意味で、うまいこと言うものだなと感心します。

なお、ロサンゼルスで発症率が0.71%だったからといって、日本でもそうとは限りません。日本は日本で調査しなければなりません。

■ 専門機関を受診した緘黙症児ではなく、幼稚園や小学校の症児を調査

マスコミではなく学術の世界では、今回の論文は、発症率の他に、場面緘黙症児の機能や症状について調査した箇所もよく引用されます。

このように多数の場面緘黙症児を集めて、あれこれ調べた研究はいくつもあるのですが、今回の論文の強みは、著者自身も書いている通り、専門機関を受診した場面緘黙症児ではなく、幼稚園や小学校の症児を調査したことです。緘黙の子は、みんながみんな専門機関を受診しているわけではないので、そうした子ばかりを集めてしまうとサンプルに偏りが出てしまいます。反面、今回の論文は、症児のサンプル数が少なくなってしまいました。

■ 緘黙でない子との比較

今回の研究のもう一つの強みは、これも著者自身が書いていることですが、緘黙の子と、そうでない子を比較していることです。具体的には、場面緘黙症児とそうでない子について、発話行動はどうか、社会不安の程度はどうか等々について、数値に表し、統計学的に有意な差が無いか検討しています。

この種の比較は、これまでお話してきました近年の英語圏の場面緘黙症研究でも、よく見られます。

■ つい、国内の研究と比較

◇ 内山喜久雄氏の研究

ここまで書いて思い出したのが、内山喜久雄氏の1951年の研究です(「内山喜久雄の緘黙症研究(1)」参照)。内山氏は、今回の論文のように、専門機関を受診した緘黙症児ではなく、小学校で症児を集め、調査を行ったのでした。また、今回の論文ほど厳密ではありませんが、緘黙でない子との比較も行っています。国内ではもちろん、海外でも緘黙症の先行研究が極めて乏しかった1950年代初頭において、これだけの研究が行われたことに、改めて驚きを感じます。

◇ 内山氏以後

内山氏以後の国内の研究を見ると、少なくとも国内文献を概観した限り、幼稚園や学校ではなく、専門機関に来所なり受診なりした症児を集め、緘黙について調べたものが目立ちます。そうした研究も大いに意義があるだろうとは思うのですが、先ほどお話したように、専門機関を受診しない場面緘黙症児もいるので、これにはサンプルに偏りが出るという限界があります。

また、場面緘黙症児とそうでない子の比較を行った研究も、あまり見かけません。緘黙の子を何人も集めて、「親が過保護な場合が多い」ということが分かっても、そういうことは緘黙でない子についても同様に調べて、比較してみないと、意味が薄くなってしまうのではないかと素人の私は疑問に思うのですが、どうなのでしょうか。

しかも、日本では、この種の多数の場面緘黙症児を集めた調査は、古い文献に目立ちます。最近10~15年以内では、なかなか見かけません。

このあたりが、日本の場面緘黙症研究と、英語圏の研究との差だと素人ながらに考えます。日本でもこのような研究が出ることを期待しますが、出ないのには、何か事情でもあるのでしょうか…?

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これまで、海外の論文は、被引用回数が多いものばかりを取り上げてきました。そのため、これまでブログで記事にしてきた研究は少々古めのものが多かったのですが、来年からは、もっと新しい研究や、面白そうなものを取り上げていきたいと思っています。

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◇ 今回の論文の詳細ページ場面緘黙症Journal 論文情報