場面緘黙症の研究 2008

2008年12月24日(水曜日)

2008年の国内外の場面緘黙症研究を振り返ります。今年発表された国内外の論文と書籍のお話です。私は専門家ではないのですが、自分自身の勉強も兼ねて。

■ 論文編

◇ 海外の研究

英文雑誌に掲載されたものから個人的に面白そうだと思ったものをいくつか取り上げ、コメントを加えます。

◇ Keen, D.V., Fonseca, S., Wintgens, A. (2008). Selective mutism: a consensus based care pathway of good practice. Archives of Disease in Childhood, 93, 214-224.

場面緘黙症の地域連携クリティカルパスの作成を試みたものです。

地域連携パスについては、青森県庁のホームページに分かりやすい説明があります。

地域連携パスの説明(青森県庁ホームページ)
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場面緘黙症の地域連携パスの作成にあたっては、北米、欧州、豪州から13の専門家が協力しています。その顔ぶれは、Steinhausen, H.C. 氏、Kristensen, H. 氏、Johnson, M. 氏、McHolm, A. 氏、Shipon-Blum, E. 氏など、英語圏の代表的な緘黙専門家ばかりです。メールや郵送での質問表の回答、discussion forum での協力とのことですが、それにしても、これだけの当代きっての専門家が一つのプロジェクトに協力するとは素朴に驚きです。卑近な例えですが、プロ野球のオールスターを見ているようです。

場面緘黙児への支援』や The Selective Mutism Resource Manual などもそのようなのですが、場面緘黙症児の支援方法をマニュアル化しようという動きが英語圏にはあるのでしょうか。

この地域連携パスはイギリスのウォンズワースという自治区で運用されることを前提にしています。日本で場面緘黙症の地域連携パスを作るとすれば、イギリスと日本では支援体制に違いがあるため、多少イギリスのものとは違ったものになるだろうと思います。ですが、日本でこのような地域連携パスが作成され、さらに運用までされるのは、現段階では難しいだろうと思います。そこまでの支援体制は、まだまだ整わなさそうです。いや、そもそも、場面緘黙症は相談事例が少ないので、地域連携パスを作ろうという動きすら起らないかもしれません。
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◇ Bergman, R.L., Keller, M.L., Piacentini, J., Bergman, A.J. (2008). The development and psychometric properties of the selective mutism questionnaire. Journal of clinical child and adolescent psychology, 37(2),456-464..


◇ Letamendi, A.M., Chavira, D.A., Hitchcock, C.A., Roesch, S.C., Shipon-Blum, E., and Stein, M.B. (2008). Selective Mutism Questionnaire: Measurement Structure and Validity. Journal of the American Academy of Child and Adolescent Psychiatry, 47(10),1197-1204.


いずれも、アメリカの「場面緘黙症質問表(Selective Mutism Questionnaire)」に関する研究です。

「場面緘黙症質問表」というのは、例えば「先生に指名されると、返事をする(When called on by his/her teacher, my child child answer)」などの質問項目があって、それらに対し「いつも(always)」「しばしば(often)」「めったにない(seldom)」「全くない(never)」のいずれかを答えるというものです。診断に使うものではありませんが、子どもの緘黙がどの程度深刻かを把握したりするのに役立ちそうです。

「場面緘黙症質問表」は Bergman氏らによって、もっと以前に開発されたものです(2001年に学会でポスター発表されたのが最初かな?)。今回の2つの研究は、その質問票を検討したもののようですが、最初の1つの研究はまだ abstract(要約)しか読んでおらず、よく分かりません(スミマセン…)。

「場面緘黙症質問票」は信頼されているようで、この質問票を使った場面緘黙症の研究を英語圏の学術雑誌で見かけることがあります。なお、日本語圏では少なくとも私はまだ見たことがありません。

今回の質問表の研究の2つ目のものには、アメリカの場面緘黙症治療研究センターや緘黙支援団体SMG~CANで活躍されている Shipon-Blum 氏(「エリザ・シポンブラム博士」と言えば分かるでしょうか)が名を連ねています。Shipon-Blum 氏は、昨年あたりから学術文献でも名前を見かけるようになりました。これまで同氏が名を連ねた学術文献を2つ見たのですが、同氏が研究にどのような貢献をされたのかまでは分かりませんでした。ただ、いずれの研究も、場面緘黙症児やその親のサンプルを集めるのに、同氏が代表を務めるSMG~CANが関わっています。

◇ Cohan, S.L., Chavira, D.A., Shipon-Blum, E., Hitchcock, C., Roesch, S.C., and Stein, M.B. (2008). Refining the classification of children with selective mutism: a latent profile analysis. Journal of clinical child and adolescent psychology, 37(4), 770-784.

英語圏の研究者は、もう場面緘黙症を分類することはしないと思っていたのですが、この2008年に分類の研究が発表されました。Hayden, T. 氏の Classification of Elective Mutism 以来、28年ぶりでしょうか。

その内容ですが、私はまだ abstract(要約)しか読んでいないので、大きなことは言えません。

◇ 日本の研究

◇ 植村みゆき, 永井智, 本田真大. (2008). 選択性緘黙を持つ9歳女児に対する面接過程-第2報-. 筑波大学発達臨床心理学研究, 19, 1-6.

◇ 本田真大, 永井智, 植村みゆき. (2008). 選択性緘黙を持つ9歳女児への挨拶課題の適用-学校場面への発話行動の般化に至るまでの経過-. 筑波大学発達臨床心理学研究, 19, 7-14.

まだ内容を読んでいません。2005年から続く、緘黙女児の事例研究のようです。

■ 書籍編

◇ 海外の本

Kommunikation mit Kindern mit Mutismus im schulischen Kontext: Formen und Foerderung der Interaktion海外では、私が知る限り、今年はドイツ語とチェコ語の緘黙の書籍がそれぞれ1冊刊行されました。いずれも読んでいないので、大きなことは書けません(度々スミマセン…)。

左画像は、ドイツ語の Kommunikation mit Kindern mit Mutismus im schulischen Kontext: Formen und Foerderung der Interaktion という本です。訳すと、『学校緘黙症児とのコミュニケーション:その交流の形態と支援』になるかなと思うのですが、自信がありません。

チェコ語の緘黙の本は、Mutismus v dětství, mládí a dospělosti - Rádce pro rodinné příslušníky, postižené, terapeuty a pedagogy Zpět do katalogu Vytisknout stránku というタイトルです。訳すと、『子ども、青年、大人の緘黙症-家族、治療者、教師へのアドバイス』です。タイトルと著者からして、2005年に刊行されたドイツ語の本 Mutismus im Kindes-, Jugend- und Erwachsenenalter をチェコ語に訳したものかなとも思うのですが、定かではありません。なお、このドイツ語の本は少しずつ読み進めているところですが(ドイツの緘黙の本読んでます参照)、時間がかかり、いつ読了できるか分かりません…。

◇ 日本語の本

ご存知、『場面緘黙Q&A』が刊行されました。有名な本ですので、コメントは割愛します。