緘黙児の親のことも、調べる

2009年01月29日(木曜日)

このブログでは、ときどき場面緘黙症の論文を取り上げています。私は専門家ではないのですが、自分自身の勉強も兼ねて。

今回の論文はこれです。前回お話したDNAの研究と同じ研究グループによるものです。

Chavira, D.A., Shipon-Blum, E., Hitchcock, C., Cohan, S., and Stein, M.B. (2007). Selective mutism and social anxiety disorder: all in the family? Journal of the American Academy of Child and Adolescent Psychiatry, 46(11), 1464-1472.

2007年11月号のある学術雑誌に発表された、比較的新しい研究です。

■ 概要

場面緘黙症だったことのある子70名、緘黙だったことのない子31名、その生物学上の親それぞれ70組、31組について、様々なことを調べています。

その結果分かったことのうち、主なものを挙げます。

○ 緘黙経験児は、そうでない子に比べて、社会恐怖症(社会不安障害)や分離不安障害を経験した子の割合が多いこと。なお、緘黙経験児70名全員が社会恐怖症を経験(うち、全般性社会恐怖症69名、非全般性社会恐怖症1名)。

○ 緘黙経験児の親は、そうでない親に比べて、全般性社会恐怖症や回避性人格障害を持ったことのある人の割合が多いこと。

○ 緘黙経験児の親は、そうでない親に比べて、神経症的傾向が高く、開放性が低いこと。

こうした結果をもとに、家族性や遺伝等について考察されています。

■ 所感

私なりに気づいたこと考えたことをまとめます。

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◇ 場面緘黙症と全般性社会恐怖症

調査結果より、緘黙経験児の親に全般性社会恐怖症経験者が多いこと等が分かった

場面緘黙症は全般性社会恐怖症と関連がありそうだ

全般性社会恐怖症は遺伝が基礎となっている可能性が指摘されている

場面緘黙症は家族性であり、遺伝的要素がありそう

と著者は考えています(私が誤読していなければ)。

◇ 緘黙経験児の親だからといって、子どもの頃に緘黙だったかと言えば…?

私が気になったのは、緘黙経験児の親140名のうち、緘黙経験者がわずか6名(4.3%。論文では4.4%)しかいなかったことです。一方、非緘黙経験児の親62名を見てみると、緘黙経験者は2名(3.2%。論文では3.1%)です。4.3%と3.2%。統計学的に有意な差があるとは言いがたいです。

つまり、緘黙経験児の親だからといって、子どもの頃に緘黙だった人は特に多くはないというわけです。この点は場面緘黙症の遺伝について考える上で非常に重要ではないかと思います。しかし、著者はこのことについて何も触れてはいません。この点を軽視して、全般性社会恐怖症や回避性人格障害にばかり注目し、場面緘黙症と遺伝の関係を論じているのですが(私が誤読していなければ)、これはなぜなのだろうと素朴に疑問に思います。先ほどお話した「場面緘黙症は家族性であり、遺伝的要素がありそう」も、疑わしく思えてきます。

それにしても、不思議です。緘黙経験児のほとんどが全般社会恐怖症を経験したこと等を考えれば、場面緘黙症と全般性社会恐怖症は無関係とは思えません。一方、全般性社会恐怖症は遺伝の関与の可能性があるものの、場面緘黙症はそうではなさそうなわけです。なんだか分からなくなってきました。全般性社会恐怖症の人全てが場面緘黙症を経験するわけでは必ずしもないのに対し(出典は示せませんが…)、場面緘黙症を経験する人はほとんど全般性社会恐怖症を経験する。このあたりに何かヒントがあるような気がします。

なお、場面緘黙症児の親の22%が自身も場面緘黙症を経験した緘黙の病歴のある親の割合は15%という、別の調査結果もあります(Black ら, 1995)。4.3%という今回の論文の数字とは、大きな隔たりがあります。

○ むすび

今回の論文は、場面緘黙症と遺伝に関する研究のサブスタディとのことです。そのうち、DNAの研究も出るのではないかと私は見ています。今回の研究だけでは場面緘黙症と遺伝の関係は、はっきり分からないので、今後の研究の進展を期待します。

[追記]

記述に一部誤りがあったので、訂正しました。訂正線がある箇所がそれです。ご指摘ありがとうございました(2009年6月21日)。