緘黙児の言語能力、視覚記憶、社会不安

2009年02月14日(土曜日)

このブログでは、ときどき場面緘黙症の論文を取り上げています。私は専門家ではないのですが、自分自身の勉強も兼ねて。

今回の論文はこれです。少し難しい内容です。

Manassis, K., Tannock, R., Garland, E.J., Minde, K., McInnes, A., Clark, S. (2007). The sounds of silence: language, cognition, and anxiety in selective mutism. Journal of the American Academy of Child and Adolescent Psychiatry, 46(9), 1187-1195.

■ 概要

場面緘黙症児の言語能力、非言語的作業記憶(非言語的ワーキングメモリ)、社会不安の程度を調べ、不安障害のある子とそうでない子らと比較しています。

その結果、言語能力、視覚記憶、ともに、場面緘黙症児は他の子どもたちよりも、検査結果の点数が低いことが分かりました(要するに、言語能力、視覚記憶、ともに悪い)。また、社会不安がより強いことが分かりました。その他、様々なことが明らかになっています。

これらの結果と先行研究をもとに、場面緘黙症の病因等について考察が行われています。

■ 概要の補足

◇ 言語能力について

ここで言う「言語能力」は、話す能力のことではありません。以下の能力のことです。

● 受容語彙:受容語彙とは、その言葉を読んだり聞いたりしたときに理解できる語彙のこと。一方、話したり書いたりするときに使える語彙のことを能動語彙と言います。この研究では、検査をする人が何か言葉を話して、その言葉に合った絵を4つの中から選ばせて、受容語彙を検査しています(The Peabody Picture Vocabulary Test-III)。
● 音素の認識:ある言語音を他のものと区別できるか、また、話されたパターンの中で音声の数、順序を理解、比較できるか検査しています(The Lindamood Auditory Conceptualization Test)。
● 文法:4つの絵のうちどれが、話した文を最もよく表しているか選ばせるという検査をしています(The Test of Reception of Grammar)。

◇ 視覚記憶とは

視覚記憶については、以下の Google ブック検索のページに、分かりやすい解説があります。

視覚記憶とは(『図説 LD児の言語・コミュニケーション障害の理解と指導』より)
(新しいウィンドウで開く)

■ 所感

私なりに気づいたこと考えたことをまとめます。

* * * * * * * * * *

◇ 認知科学?からの場面緘黙症研究

認知科学と言うのでしょうか。場面緘黙症と言語能力、作業記憶の関係に注目しようという動きが、近年、海外の研究者の一部で出ています。

この分野で研究実績を重ねてきているのが、Keys to Parenting Your Anxious Child (『場面緘黙児への支援』にも出ています)などを著した、Katharina Manassis 氏ら、カナダの研究グループです。カナダの研究グループといっても、『場面緘黙児への支援』を著したマクマスター小児病院のグループとは別のものです。

この研究グループは、これまでいくつか予備的研究を発表してきたのですが、それを発展させたものが今回の研究です。それまでの予備的研究を裏付ける結果となっています。

◇ 私も緘黙でしたが…

私も場面緘黙症でしたが(ただし自己診断です)、今回の研究が示すように、言語能力は普通の人より劣っていただろうか、視覚記憶に問題があったのだろうかと疑問に感じないまでもありません。

しかし、自分の「実感」をもとに、実証研究を批判するのはおかしな話です。私の「実感」にしても、本当は言語能力や視覚記憶に問題があったにもかかわず、自覚していなかっただけなのかもしれません。

※ ちなみに、私は小学校~高校の頃、国語のテストは苦手でした。ついでに言うと、理科も苦手でした。

◇ 場面緘黙症と視覚記憶

今回明らかになった調査結果のうち、視覚記憶については、どうなのだろうと私は頭をひねっています。というのも、この研究が発表される1年前の2006年に、場面緘黙症の青少年は、そうでないグループと比べて視覚記憶に差がないという研究結果が出ているのです(Kristensen and Oerbeck, 2006)。今回の研究とは全く違った結果です。場面緘黙症児の視覚記憶については、評価が分かれているのでしょうか。もっとも、この2006年の論文、私は概要しか読んでいないので完全に把握しているわけではありません。概要だけでなく本文も読んでみたいのですが…。

この点も含めて、もっと他の研究グループも検討しないものかな、と思います。この分野の研究は被引用回数がそれほど多いわけでもなく(つまり、注目が多く集まっているわけではない?)、今後どこまで検討が進むかは分かりません。そう思っていたら、やっぱりこの分野の研究をしようという別の研究グループがあるようで、ちょうど今、Elisa Shipon-blum(エリザ・シポンブラム)博士が、アメリカの「場面緘黙症不安治療研究センター」ホームページで、研究に参加する場面緘黙症児を募集しているのを見つけました。今後の研究に期待します。

◇ どちらが原因か

最後に、今回の研究の著者らは、言語能力や視覚記憶の問題が、場面緘黙症の病因に関係している可能性を疑っています。

確かに、そうかもしれません。ただ、これは逆の可能性もないのでしょうか?場面緘黙症で家族以外の人と話をしないがゆえに、言語能力や視覚記憶に問題が起きるということはないのでしょうか?(「会話が少ないと、脳の発達にどういう影響があるのか」参照)今回の論文は私には難しく、誤解している箇所もあるかもしれませんが、素朴に疑問に感じました。