[緘黙] 僕なんて、いない方が [ストーリー]

2009年08月04日(火曜日)

緘黙ストーリー、中学生編の第22回です。通算第49話をお届けします。

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1学期も終わり、夏休みに入りました。

高校受験を控えた夏休みの過ごし方は重要です。私はここのところ成績が下がり続けていたので、夏休み中に頑張って、少なくとも元の成績に戻そうと、鋭意勉強に励みました。

また、夏休みには部活動関連の様々な大会が開かれました。この夏に部活動を引退する多くの3年生にとって、これらの大会は過去2年半にわたる部活動のまさに集大成と言える、非常に重要な行事でした。わが囲碁・将棋部も大会に参加し、大きな思い出を作りました。

それから、私は家族の誘いで、近くの花火大会にも行きました。会場で一人うろちょろしていたところ、暗闇の中「富条君」と私を呼ぶ声が。不気味に感じたのですが、声の主は、いつもクラスで仲良くしてくれるPさん・Qさんコンビでした。こんなところで会うとは、今年はこの2人と縁があるなと思いました。

この夏休み中、1つの大きな学校行事がありました。クラス合宿です。

■ クラス合宿、嘘をついて休んだ

実は言うと、この合宿、私は休みました。それも、「おなかが痛くなったから」と嘘をついて、です。

私は中学校に入って、学校を休んだことは一度もありませんでした。それが、どうして嘘をついてまで休んでしまったのでしょうか。

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■ 合宿は公式行事ではなかった

担任の先生のお話によると、実はこの合宿、学校の公式行事ではありませんでした。しかし、3年生は他のクラスでも同じようなことを計画しているとのことです。たしか、中学生活最後のクラスだったので思い出作りという意図があったものと思います。

公式行事でもないのなら、このような合宿など参加するものですか。もう少し詳しく説明します。

◇ いじめっ子と同じ班にさせられてしまった

合宿の班を決めるとき、こともあろうに、私はいじめっ子A~C君と同じ班にさせられてしまいました。これだと、合宿への参加は、みすみすいじめられに行くようなものです。

今回の合宿が学校の公式行事でないのなら、いじめを理由に休んでしまっても罰は当たらないのではないかと思えました。自分の身は大事に守りたいものです。ただ、「おなかが痛くなったから」と嘘をつくのはよくないようにも思え、後で罪悪感も感じました。

◇ 僕なんて、このクラスにいない方がいい

そして、度重なるいじめ等により、私は自尊心を失い、暗いことばかり考えるようになっていました。

常々思っていたことは、自分のような人間は、このクラスにいない方がいいのではないかということでした。

私がクラスにいると、いじめが起きます。いじめが起きると、クラスの雰囲気が悪くなります。つまり、私がいるばかりに、クラスの雰囲気が悪くなるのです。私はなんと迷惑な人間でしょう。

しかし、自分のような迷惑な人間でも、中学は義務教育である以上、学校に行かないわけにはいかないのだと考え、緘黙しながらも「みなさん、迷惑をかけてごめんなさい、ごめんなさい」と心の中でつぶやきながら、登校し続けていたのでした。

今回の合宿は公式の学校教育ではなく、義務教育の範疇を超えたものなので、みんなに迷惑をかけないよう、休んだ方がいいのではないかとも思ったのでした。思い出作りという意図のクラス合宿でしたが、中にはこんなことを考える生徒もいたのです。

「自分なんていない方がいい」「自分がいることで人に迷惑をかけている」自尊心の低さ、ここに極まれりといったところです。もともと緘黙で自分に自信が持てなかった私でしたが、いじめ等、度重なる悪い出来事により、精神的にさらに追い詰められつつありました。

■ クラスメイトからのお土産

さて、夏休みも終わった、2学期の始業式の朝のことです。「富条君、おはよう!」と、Pさん・Qさんコンビが私に話しかけてきました。

「富条君、合宿休んだでしょう。ほら!これ、お土産」と言って、2人が渡してくれたのは小さなキーホルダーでした。

「(富条君へのお土産は)みんなで選んだんだよ」とのこと。

キーホルダー

↑ これがそのキーホルダー。裏側です。表側は、諸事情によりお見せできません。

みんなで選んだとのことですが、中心となって選んだのは誰なのでしょうか。このキーホルダー、女の子のセンスを強く感じるのですが。

休んだ人のためにお土産を買ってくるというのは形式的な礼儀のようなものにすぎず、深い意味はないと思いつつも、私は帰った後、このキーホルダーを部屋の高いところに大事に飾っておきました。大仰ですが、いじめ等で苦しんでいる中、いつも仲良くしてくれるPさん・Qさんコンビが渡してくれたお土産というのが、私にはとても嬉しかったのでした。

[続きの話]

◇ [緘黙] 卒業アルバム [ストーリー]