日本の緘黙児は発症が遅い?(前編)

2009年09月08日(火曜日)

先日、「場面緘黙症Journal 論文情報」で、場面緘黙症の発症時期に関する文献をまとめました。

場面緘黙症の発症時期
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これをまとめている最中、あることに気づきました。

それは、日本語文献で報告されている緘黙症の平均発症年齢が、英語文献のそれと比べて高いことです。日本の文献の報告では、発症年齢が平均5歳台あたりのものが多いのですが、英語文献では3歳台が多いです(詳しくは本記事後半「付録」をご覧下さい)。

また、発症年齢の偏りを示す標準偏差も、資料が少ないのでよく分からないながらも、日本語文献の報告の方が大きいです。標準偏差が大きいということは、発症年齢のばらつきが大きいということです。

発症時期については、それほど多くの文献があるわけではなく、こうした状況で安易にああだこうだと言うことはできませんが、それにしても気になります。

どうしてこのような差が出たのか、本当に日本の緘黙児は発症年齢が遅いと考えてよいのか等の細かい話は、次回(後編)に回します。

↓ 以下、付録「国内外の文献に見る、場面緘黙症の発症年齢」です。

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[付録~国内外の文献に見る、場面緘黙症の発症年齢]

発症年齢に関する報告のうち、少なくとも私が確認したものは、以下の通りです。大体の報告はカバーしてあると思います。日本語文献と英語文献の間で年代に差がありますが、これは日本と海外の研究動向の違いからきたものです。

文献によって、発症年齢の平均と標準偏差が載っていないものもありましたが、そうしたものについては、できるだけ私が計算して求めました。報告された発症年齢のうち、例えば9~11歳など幅のあるものについては、間をとって10歳として計算しています。発症年齢の表記は、できるだけ「○.○歳」という形に統一しています。

※ 2009年9月15日、各文献で調査対象とされた緘黙症児についての記述を加えました。また、DSM や ICD の診断基準を用いた調査については、その旨記載を加えました。

■ 日本語文献

○ 椎名ら(1998)

平均4.9歳。2歳から7歳に発症したものが46例中38例。1980年から1996年に公表された日本の事例研究より。

○ 相場(1991)

35例中25例が就学前に発症。1980年から1989年に公表された日本の事例研究より。

○ 南ら(1987)

平均5.0歳、標準偏差2.3歳(不明1例、発症年齢があいまいなもの1例を除く32例)。その内訳は、幼児期から連続する型(3~5歳発症)が28例。学童期に発症する型(6~11歳発症)が3例。思春期に発症する型(12歳以降の発症)が2例。不明が1例。なお、この分類は十亀(1978)による。京都市児童院(児童相談所および診療所)に昭和35年度~62年度の間に相談受診した症例の中から。

○ 村本(1983)

平均6.4歳、標準偏差2.8歳(全17例)。その内訳は、3歳が3例。4歳が2例。5歳が2例。6歳が3例。7歳が2例。8歳が1例。9歳が2例。10歳が0例。11歳が1例。12歳が0例。13歳が1例。北海道上川管内公立小中学校を対象としたアンケート調査により、緘黙症児を集めた。

○ 大井ら(1979)

平均3.8歳、標準偏差0.8歳(不明1例を除く23例)。その内訳は、3歳が9例。4歳が10例。5歳が3例。6歳が1例。不明が1例。1971~1977年に名大精神科児童クリニックと情緒障害児短期治療施設「くすのき学園」において、著者がインテンシブに治療にかかわっている緘黙症児。

○ 荒木(1979)

平均5.9歳、標準偏差2.2歳(全34例)。2歳が1例。3歳が2例。4歳が6例。5歳が7例。6歳が11例。7~8歳が1例。9~11歳が6例。昭和38年から昭和51年までの14年間に九大精神科を受診した緘黙症児。

○ 一谷ら(1973)

平均5.4歳、標準偏差1.6歳(不明1例を除く19例)。幼稚園・保育所などへの入園当初から緘黙症状を呈するようになったものが10例。小学校入学時から始まったものが5例。小学校入学後2~3年を経過してから症状の発現をみたものが4例。不明が1例。昭和39年5月から昭和45年12月までの間に、大阪市と京都市の児童相談所に来所した児童で、判定の結果、場面緘黙症と診断されたもののうちから、検査時点で小学校在学中の20例。

■ 英語文献

○ Cunninghamら(2004)

平均3.3歳。年齢層は、2~5歳まで。DSM-IV の診断基準を採用。全52例。子どもの評価、学校コンサルテーション、親と教師のためのワークショップを提供している地域サービスから緘黙症児を集めた。カナダの研究。

○ Elizurら(2003)

平均3歳4ヶ月。全19例。このうち、ネイティブの子平均2.7歳、移民の子平均3.9歳。ネイティブの子の方が、移民の子よりも発症年齢が有意に低い。DSM-IV の診断基準を採用。西エルサレムの幼稚園教師から電話でインタビューする等して緘黙症児を集めた。エルサレムの研究。

○ Remschmidtら(2001)

45例中43例が、3歳のときに最初に症状が発現。残り2例は3歳より後に症状が発現。ICD-9 か DSM-III-R の診断基準を採用。1964年~1979年にフィリップス大学児童青年精神医学科と、その近くにある児童相談所を紹介された緘黙症児。ドイツの研究。

○ Kristensen(2000)

平均3.7歳、標準偏差1.7歳。DSM-IV の診断基準を採用しつつも少し変えている(具体的には、アスペルガー障害、コミュニケーション障害も含めている)。ノルウェー63の児童青年精神医学科外来と278の school psychology services へ告知するなどして緘黙症児を集めた。全54例。ノルウェーの研究。

○ Dummit(1997)

平均3.4歳、標準偏差1.3歳。DSM-IV の診断基準を採用。地方の学校や Selective Mutism Foundatio(アメリカの緘黙症支援団体)で告知するなどして緘黙症児を集めた。全50例。アメリカの研究。

○ Steinhausenら(1996)

平均49.5ヶ月、標準偏差32.5ヶ月(全100例)。地域別に見ると、ドイツ語圏のスイスの州(SHG サンプル):平均43.9ヶ月、標準偏差26.3ヶ月(全19例)。スイス・チューリッヒ州(ZH サンプル):平均45.8ヶ月、標準偏差25.5ヶ月(全59例)。ドイツ・ベルリン(B サンプル):平均63.9ヶ月、標準偏差52.4ヶ月(全22例)。SHG サンプルは、親の自助グループから集めた。ZH サンプルは、児童青年精神医学サービスに1979年~1992年の間受診した緘黙症児。B サンプルは、1978年~1985年の間に、フリー大学児童青年精神医学科を受診した緘黙症児。ICD-10 の診断基準を採用。

○ Blackら(1995)

平均2.7歳、標準偏差1.4歳(全30例)。年齢層は1~5歳まで。DSM-III-R か DSM-IV の診断基準を採用。メリーランド、バージニア、コロンビア特別区の小学校のカウンセラーに告知して緘黙症児を集めた。アメリカの研究。

○ Kolvinら(1981)

明確な年齢は書かれていません。

○ Hayden(1980)

よく分かりませんでした。

○ Wergeland(1979)

全て3~4歳に発現。平均受診年齢9歳半。全11例。10例は学校当局、1例は幼稚園のスタッフより紹介された。ノルウェーの研究。

[続きの記事]

◇ 日本の緘黙児は発症が遅い?(後編)